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第一章

第1章


今日は記念すべき転校初日、なんともいい天気だ。しかしこの清々しくも寒すぎる朝がオレの足を遅くさせる。

同じ東京でも、よく田舎は都内より気温が1、2度低いって聞くけどまさにその通りで、いつものように制服にコートを着てても微妙な震えが止まらない。耳なんて切れてるんじゃないかって位に痛い。

テレビの天気予報で東京の気温を見てもこれからは1、2度低く見積もらなければいけないな。1、2度ってけっこう大きいってのがよく分かったよ。明日からはもう少し暖かい格好しなければ・・。


しかしこの辺もけっこう変わったみたいで、昔にはなかったお店がチラホラと見受けられる。中には田舎に不釣り合いな総ガラス張りのオシャレ過ぎる店も・・・しかもそれが何故かラーメン屋だし・・・。

 それにしても春川に来るのは何年振りだろう?たしか最後に来たのが小学校の五年生位だったから6、7年振りになるか・・そりゃあ変わってて当然だな。実際にオレも高校生になってる訳だし・・。

それでも懐かしい場所もけっこう残っている。カブトムシとかクワガタとかを捕まえるのに入って行った雑木林とか、その虫達の寝床になる大鋸屑を貰っていた材木屋さん。なんだかあの頃より小さく感じるのはオレが大きくなったからだろうか?

でもまさか高校生になって登校するためにココを歩くなんて想像もしなかったな。しかも冬に来るの初めてだし、こんなに寒いとは・・。

今年は暖冬らしいけど、そんなの全然感じない。出来ればもっと暖かくなって戴ければと思うよ。

昨今、世界中で地球の温暖化が問題視されているが今のオレにはこの寒さが一番の問題だ。更にこれで雪でも降ろうものなら学校に冬眠休暇を春になるまで申請したいとさえ思うね。

太陽の力もこの田舎の寒さに負けている感も否めないし、これで曇ったら悪魔の冬将軍が白い援軍を引き連れて大暴れする事は間違いない。これからも太陽には是非頑張って頂きたいものだ。


しかしまぁ、一人で歩いているのもけっこう暇なもので、これを毎日繰り返すのかと思うと憂鬱になってくる。近所に友達でもできればいいのだが、あまりこの辺に同じ制服を着た人を見かけない。いるのは小中学生のみだ。さすがに友達が小中学生はマズいだろ。明日からは音楽でも聴きながら登校しなきゃな。

携帯いじったりゲームをやるってのもいいんだが、この寒さだけに手は出したくないし、手袋をしてそんな細かい指さばきはできないだろう。


しかし、さっき学校のある山が見えてからそこそこ歩いたが一向に着く気配がしない。そう考えると足が疲れてきた気がする。やはり自転車は必要だ。バイトでもしようかな?あんまり働くトコはなさそうだけど・・しかも時給安そうだし・・。

ほんとこれからどうなっちゃうんだろう?


とりあえずヒマなのでわざわざ霜柱を踏みつけながらザクザク歩いていると山の麓ら辺に大きな橋が見えてきた。春川大橋と書いてある。

昔はこんなに大きな橋はなかったはずだから、ここ数年で新しく造られたんだろう。

まだアスファルトが綺麗な色をしている。

靴のうらの泥をアスファルトにこすって歩き、橋の中程まで来ると春川の絶景が広がった。

昔は感じなかったが澄んだ川の美しさや大きな岩のダイナミックさが、何とも言えない気持ちにさせてくれる。

こっちに来てちょっと良かったかも。

少し疲れが癒された気がした。


 そう言えば小学校二年生位だったと思うが、この下に見える川で溺れている少年を助けた事がある。少年って言っても同い年くらいの奴だったんだけどね。オレの人生、唯一のヒーロー的な話だ。


 たしかあの時カブトムシを取りに川を渡り山へ登ろうとして大きな岩を登ってたら、川上から叫び声が聞こえた。そっちを見てみるとバシャバシャと水しぶきを上げてこっちに走って来る女の人がいて、その先を見ると溺れながら流されてくる奴がいた。「とにかく助けなきゃ」って思ったんだよね。苦しそうだったしさ。

それで登っていた岩から川へジャンプ、「トオーッ」ってな感じでカッコ良く決めたんだよね。3メートル位の高さはあったと思うけど、その頃ヒーロー大好きだったしさ、全然怖くなかったな。そんでそのままソイツを引っ張って浅いトコまで泳いだ訳。泳ぎは得意だったからね。

それで泣きやまない少年に「もう泣くなよ」とか慰めてたら、すぐにさっきの女の人が来て、号泣している少年を抱きかかえオレにお礼を言ってきた。「ありがとう、ありがとう」、聞き飽きる位にありがとうを連発してたけど、今思うと自分の子供を助けてくれたんだから、それも当然なんだろうな。その時はそんな大した事したなんて思わなかったけどね。確かその後、名前とか色々聞かれたりしたけどカブトムシを取りに行かなきゃいけなかったから、また川を渡って山へ向かったけどね。よほどカブトムシが好きだったんだろうな、オレ・・。


 そんなカブトムシ好きの輝かしいヒーロー的な思い出に浸っていると、やっと春川高校の看板が見えてきた。この辺まで来ると同じ制服を着た人達がぞろぞろと歩いている。学校はあと少し、でも登り坂だ。自転車で来ている奴も自転車をココに停めて歩かなければならないらしい。やっぱり自転車で来てもあんまり楽ではないな。ほんとに軽い登山だよ。


 ここまで歩いたおかげでふくらはぎが既にパンパンなのに次は登山なんて・・・体育の授業なんて甘いね、マラソン大会レベルだよ。オレはちゃんと卒業できるんだろうか?

とはいえココを登らなければ学校にはたどり着けない、初日から遅刻するのも何なので諦めた感じで坂を登り始めた。

はちきれんばかりのふくらはぎが悲鳴を上げている。すると自然と顔は下を向く。

「辛いときこそ空を見ろ」なんてクサい事言ってた教師が前の学校にいたけど、空を見たって辛いのは何ら変わらない。先生の言うことなんて信じちゃいないぜ、そう思いながらも必死の思いで顔を上に上げてみた。すると水色と白のストライプがオレの目に入った。もちろん空ではない。その瞬間、オレはあのクサい事言ってた先生に感謝と謝罪の気持ちでいっぱいになった。

そう、オレの向けた視線の先にはミニスカートが揺れ、チラチラと空より魅力的なモノが見えるではないか。

ほんとだね先生、辛いときには上を向くもんだね。

オレはそのまま視線をロックオン、この距離を保ったまま坂を登って行った。

もはやふくらはぎの痛みは感じない、気付けば校門近くまで登って来ていた。

さすがに人も増え始め、空色のストライプをずっと見ているのもヤバいので、ここいらで前の女の子をさりげなく抜きにかかった。

そして丁度、女の子の真横にさしかかった時、女の子が急に立ち止まった。オレは「んっ?」と思って横を見てみるとその女の子は目を真っ赤にして涙を流していた。

オレはビックリしてどうしていいのか分からず、その場に立ち止まってしまった。

これがオレと彼女との出会いだった・・。



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