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私の知らない他校の制服  作者: インフェルノコップ
5/7

私の知らない他校の制服 -第5回ー(全7回)


ショートホームルームが終わり、皆がバラバラに教室出始め、私も急いで帰る。


と、そのつもりだったが、夏休み明けの確認テストで赤点を取った私に課せられた追加課題の提出。

そのために職員室に向かった。

担当の乾先生はいなかったので、机の上課題を置いて職員室を出た。進級の意思があることだけは示しておけば、とりあえず留年だけは避けられるだろうという私なりの考え。

考えまで甘党なのかもしれない。


進路指導室前の各種専門学校のポスターや大学の案内資料が私にプレッシャーをかけてくる。


進学なんてする気も無いのに、留年は怖いのか。

極力、将来から目をそらして足早に廊下を通りすぎる。

昇降口の東京オリンピックの旗が少しなびいた。

2020年、私は何をしているだろう。


正門からではなく、駐輪場口から帰ることにした。


こちらから帰ると少し大回りになってしまうが、学校を外から見回せる。

ぼちぼち各部活が始まる頃だ。運動部も文化部も、緑の柵とネットで区切られている檻の中で頑張って活動している。

まるで動物園だ、と蔑まなければ、私は私を保てない。


何か別のことを考えたいと思った矢先、道路の端で自転車を横倒しにして何かをしている不審者を見つけた。

極力、距離を取りつつ、目を凝らして見ると、D組でユタカと呼ばれていた彼だった。


一度、目があったものの彼に対して良いイメージを持っていない私は、そのまま通り過ぎようとした。

まさか彼から話しかけてくるなんて。


「すみません、ちょっと」

「え?」

「ちょっとチャリのチェーンが外れちゃってて。手伝ってくれない?」

「え。嫌です」


私はすぐに断った。


彼は、何段変速とかの自転車のチェーンが外れてしまい、それを直すために自転車を横にして苦闘していた。

私が手伝う義理もない上、義理があったところで、自転車の油は手に着くと中々落ちないので、触りたくない。


すでに彼の手は油まみれで黒くなっていた。

ハッキリと断ったので、その場を去ろうとする私に彼は


「ここを押さえてくれるだけでいいから、手伝ってください、お願いします」


とハッキリ2度目のお願いをしてきた。


そんなキャラでは無いと思っていたので、2回も頼まれるとは意外だった。

私は想定外の事態に弱く、動揺した。


彼は続けて、

「こっちに指とか引っ掛けてないと、こっちっ側がすぐ外れちゃうんだよ」

と言う。


こっちとかこっちとか分かんねえよ。

普通の不審者なら無視も出来るのだが、なまじ一回会って話している為に、これ以上冷たい態度を知り合いに取ることは、少しスイッチの切り替えがいる。これが私が動揺している状態だ。


「こっちとかこっちとか分かんねえよ」


私は、思っていたことをそのまま口に出していた。


結局、彼に近づいていってしまい、チェーンを押さえる手伝いをした。

右手に黒い油がしっかりと着いてしまった。

それを、絶対に服には着けたくなかった。

指を開いたまま、手を洗うために、ユタカと2人で学校に戻ることにした。


駐輪場の奥、長いホースがついた水道があった。

水で1分くらい洗い続けても、予想通り黒い油は完全には落ちてくれない。

ユタカはザッと洗った濡れた手をズボンで拭いていた。


私も同じことを2回言おうと思って聞いた。


「なんでこの前、教室に残ってゲームしてたの?」


一瞬、なんのことか考えたユタカ。すぐに”この前”を思い出したようだった。


「友達が提出あるから、それ終わるの待ってた。そしたら調子よくて。あ。ゲームがね」

なんだか本当にどうでもいいような理由だった。


「なんだ。言葉が足らなすぎて全然分かんなかったよ」と私が言うと、

「だって、こっちが調子よくやってんのに、無理矢理そっちが呼び出したんでしょ。ゲーム続けていいって言うし」


そうか、私は無理矢理呼び出した側の人間だったのか。今更、少し悪いことをしたな、と思った。


「まるさんと同じクラス?」

急に私に質問をするユタカ。


コイツまで”まるさん”とラモのことを呼ぶのか。ていうか、なんでラモの名前を知っているのか。

一応、首を縦に降る私。

再びチェーンが外れないよう、慎重に自転車のギアを変えながらユタカは言った。


「まるさん、また結局、お母さんの方で暮らすことにしたらしいよ」

「は?どゆこと?」


聞けばユタカはラモと同じ中学の出身だと言う。特別、仲が良いわけではないが、高校に入ってからは、たまにメールくらいはするという。


”色々あって”、ラモは今、父親と2人で住んでいるらしい。

元々、ラモと母親は性格が合わないらしく、ラモは父親の方について行ったが、その父親がだらしないくせに口うるさくなってきたらしく、やはり母親の方に行こうとしているらしい。


ラモからすれば、どちらの家にも帰りたくないので、一番時間を取られるダンス部を選んだのではないかと、ユタカは言った。

私たちは、家族の話などまるでしないので、ちょっと驚いた。


修学旅行費の積み立ても、ラモが支払っているらしい。

やはり、ラモは何か長期のアルバイトしている。


きっと、知らない制服を着ていたことと関係がある。

単発のバイトの話は何回か聞いていたけど、それもまさか家庭の事情ってやつで働いていたとは思いもしなかった。

そんな子を、スタバやディズニーなど、私の都合の誘いに付き合わせていたなんて。


でも、

でも、


「ラモって全然そんな感じの子じゃないじゃん」


「お前、そういうの気にするんだな」とユタカ。

「なにが?」


お前、という言い方に少し引っかかる。

でも、私はユタカに名前を名乗っていないから仕方ないと思っ…


「お前って、人を見た目で判断するんだな、って思って」



私は、ユタカに核心を突かれた。



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