私の知らない他校の制服 -第1回ー(全7回)
「原則としてアルバイトは禁止」
「嫉妬」
「物理基礎の宿題」
「安いパックのお茶」
「デスソース」
「持ち出し禁止のハンドソープ」
「危なっかしい子」
「溶けそうなアイスの心配」
「私の知らない他校の制服」
―――まだ、15歳なので。
うちの高校には細かい校則が無い。
きちんと校則を読めば、知ることも出来るだろうけど、”原則としてアルバイトは禁止”らしい、くらいしか私は知らない。
そのアルバイトも、クラスの3割はやっている。隠している人も少ないし、バレたところで何もない。
制服もあるにはあるが、私服も許されているので、指定通りに着てくる女子は1割もいない。
男子は私服のほうが面倒なのか、制服を着ている人が多いようだが、指定のワイシャツなど無いものだから、人によってバラバラ。
自分の高校を示すものが何も無い生徒の集会や登下校は、結構カオスだ。
これが、自由を尊重する私の高校の見た目だ。
私、古間 亜子自身の見た目は、1学期に吹っ切れて以来、ガッツリの金髪。今はインナーカラーも薄く入っている。
メイクと目つきと服装から、キッツい性格だと思われているだろう。少なくとも、街ですれ違う人たちの視線はそう語っているように見える。
近寄り難い雰囲気が出ているなら正解だ。
私は、人を見た目で判断する人が嫌いだから。
そこまで威嚇しているつもりは無いが、派手な見た目なら、皆、気を使って話かけてくれる。距離をいきなり詰めてくるような子は苦手だから、5月に思い切って髪を染め、着たい服を着るようになってから人間関係が楽になった。
昭和だったら、ヤンキーと呼ばれていたに違いない。
「亜子は、人を見るときに睨んでるように見えるんだよ」
と言うのは、私の友達の丸佐 蘭萌。
皆から”まるさん”と呼ばれている。
そのあだ名は私が最初に付けたものが浸透した結果だけど、皆が”まるさん”と呼ぶようなった頃には、私は彼女のことをラモと呼ぶようにシフトした。
これは嫉妬だと自覚している。
私はラモが好きなんだ。
ラモは、黒い長髪で額や輪郭を隠さない。誰に接する時も明るく、面倒見が良い。隠し事など無い、彼女自身の性格を表している。
漫画とかだと、スポーツが得意で勉強が苦手みたいなキャラがいるが、ラモは全部得意だ。しかも、時間を多く取られるダンス部に所属している。その上、体育祭の実行委員をこなし、何にも所属していない私との遊びにも付き合ってくれる。
出来る人間は何でも出来るのだと思い知った。
これがラモ1人だけなら目立つだろうけど、うちの学校の生徒は勉強にも行事にも全力で取り組む人が多く、部活動も盛んで、課題提出が多い。
皆どうやって時間をやりくりしているのか本当に謎だ。
自分のランクよりも少し上の、この高校に受かったことに浮かれて入学した私は、課題や実力テスト、各種イベントの多さに、5月にはすっかり参っていた。
そんな理由をつけなければ、派手な髪の色に出来なかった。
中3の春休みに茶髪にした時は、親に色々言われたが、今回はそこまででもなかった。もちろん、先生にも何も言われない。
うちの高校は、都立の中でもそこそこ頭の良い方で、それと引き換えの自由な校風だ。だから皆、チャラチャラしていても、馬鹿じゃない。ほとんどの人はちゃんとしている。
夏休みを越えて、今は9月。
夏季課題も全部は提出出来ていない。私はこれからどうなるのだろう、と不安に思う反面、どこか他人事のように考えてしまう。
「国井センセイなら土曜まで待ってくれるよ」
昼休み、渡り廊下の放置してある椅子に座りながら私とラモは安いパックのお茶を飲んでいた。
私が物理基礎の宿題を出していないことをラモは知っていて、教えてくれた。
ラモは私の宿題を手伝うことも出来るだろうけど、それが私の為になら無いことと、私が強制されることが嫌いなことを知っていてそういう言い回しをしてくれる。そういう所が本当に好きだ。
でも私はやる気がないので、
「えー、いいや別に」と答える。
「よくねえだろ」とラモは笑いながら言う。
ラモは生まれつき目元にクマがある。
本人はそれがコンプレックスだと言うが、それを他人に言えてしまうのがラモらしい。
コンプレックスとの付き合い方も、とても上手い。
その、幸の薄そうな笑顔がとても儚く見えて美しい。さぞや男にモテることだろう。
しかし、彼女に彼氏はいない。
本人から彼氏はいないと聞いていなくても、側で見ていれば分かる。
ラモにそんな時間は無い。
勉強、部活、委員会…、他クラスの女子の集まりにも参加している。
彼女の人脈は広く、上級生にも知り合いが多いようだ。
そんなに忙しいのにも関わらず、空いている時間のほとんど私の相手をしてくれている。
ラモの目元のクマは睡眠不足を表しているのかもしれない。