第六話 英雄の片鱗
初陣編はこれで完結です。
誰一人、森で起きている異変に気付いていなかった。
その生物は、ボロボロの翼と身体を起こし、勝利に沸く矮小な生物に顔を向けて全開のブレスを放った。
その生物のブレスには、広範囲を焼くものと、収縮して放つものの二種類が在り、
この全開とは後者の方であった。
その生物は世間では飛竜と呼ばれた魔物の上位種の一角だった。
最初に気付いたのは空で戦っているレイクであった。
最初に倒した筈の飛竜が、起き上がりブレスの溜めをしていたのだ。
レイクがその事に気付いたのはブレスが充填されるのと同時だったことは不幸としか言いようがなかった。
「**********************************」
可聴域を超えた音を出しながら、圧縮されたブレスは熱線となり、人々へと襲い掛かる。
「ルゥゥゥゥ━━━━━ク!!」
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俺は、突然騒ぎ始めた精霊達のお陰でブレスを放つ直前に、察知することが出来ていた。
だが、分かっていてもこの距離とタイミングでは全員の避難は不可能だ。
このまま放たれれば、此処に居る全員が消し炭だろう。
なら、俺が止めるしかない。
俺は近くに落ちていた槍を拾い上げる。
(あの、ブレスは確か風魔法で炎を圧縮して放つ飛竜固有の風と火の混合魔法だったか、たしか射程は約二百メートルぐらいのはず)
なら、この一投で逸らして見せる。
「まだ、行けるか?」
「「「「「「「「キツイッ!でも、行ける!」」」」」」」」
精霊達も疲労するらしく、先程までの元気が無くなっている。
「ごめんな、無理させて。後、今のうち謝っとくよ
………お前らと遊ぶ約束守れないかもしれ「「「守るのっ!!!!」」」、そうだな、そうだよな。俺は何を弱気になってるんだか!」
俺は、息を深く吸い込み集中力を極限まで高める。
「じゃあ、行くぞお前らぁぁぁ!風力全開!『音速槍ァァァァ!』」
俺は超集中状態が見せるスローモーションの世界で自分の身体が淡く白い光をを発していることに気付いた。
その光は腕へと集まり、槍へと移っていく。
「えっ?何だこれ?」
俺は疑問を抱きながらも、全力で槍を振り切る。
そして、遂に飛竜のブレスは放たれた。
「************************」
正面から俺の『音速槍』と飛竜のブレスが衝突する。
徐々に勢いを失う音速槍に、これは防げないなと諦めかけた俺は驚きに目を開くこととなった。
槍が先程より光を増し、これといった実体を持たない筈の飛竜のブレスを………………………弾いて、地面へと叩きつけたのだ。
その結果ブレスは地面へとぶつかり、槍は大空へと吹き飛んでいった。
「「「「「「「「「「「「はいっ?」」」」」」」」」」」」
俺も含めて、皆ビックリ。いやぁ~まさか軌道を逸らすつもりで投げたのに、ブレスを弾いてくれるとは運が良かったよ。
日頃の行いがDAIZI♪
「って!ブレスを弾くって何でだよ!予定と違うよ!誰かこれについての専門家プリィィィィズゥゥゥゥーー!!」
俺は反射的にツッコミをしてしまったせいで、今さら喜べないというジレンマを抱えながらも、内心ホッとしていた。
というか、周りはどうなったのかな?
もちろんのごとく、飛竜も含めて唖然とした様子。
デスヨネ。
誰もが目を開いて止まるなか、
突然、空に巨大な魔方陣が浮かび、
「貴方は死刑よっ♪『隕石召喚』♪」
唖然と上を見上げた飛竜に……………魔方陣から飛び出した隕石が突き刺さった。
クレーターの発生と同時に巻き起こる巨大な土煙。
この威力、流石の飛竜も倒せたはず………………うん、あの肉片が飛竜かな。
てか、俺のブレス弾いたのが凄く普通に思えてきた。
それを起こした張本人の姿は、
「ルゥゥゥゥーーーーーくぅぅぅぅーーーーーーん♪」
俺の母さんのエリーゼそっくり、というか本人だった。
「母さん何で此処にいるの?!」
「何でって……………………ルーくんに会うため?」
「はぁー、何はともあれ、助かったよ母さん」
「そうよぉ~、危ない所だったんだから!」
「こっちも片付いたぞ」
今の間に父さんも呆然としていた大型の飛竜の首を落として、決着をつけていた。
「流石父さん!あの飛竜を倒したんだね♪」
「おっ、おうとも。あれくらい余裕だったさ…………はぁ」
何気に卑怯な倒しかただったことは黙っておこう。
彼の哀れな姿に、これ以上磨きを掛けるのも可哀想だ。
というか、母さんのあれって投影魔術だよな。でかくないですか、上級以上は確実なんですけど。
「助かったよ、エリー」
「あ、な、た♪ルークが危なかったんだけど、どう言うことかしら(ピキッ)?」
こっちからは見えないのに、冷や汗がノンストップなのは何故だろうか。
「(;゜0゜)」
無言でこっちに助けを求めないでよ、父さん。
まぁ、でも父さんは悪くないから、此処はフォローしとこう。
「母さん、僕はこの通り元気だから、頑張った父さんをあまり叱らないであげてよ」
「何て、ルークは父親想いなの。まぁ、確かに飛竜2匹同時は後手に回ると大変だったろうから、許してあげるわ、ほらレイクも土下座を止めて立ちなさい」
我が憧れの父は、いつの間にか土下座していた。
近くに居たのに全く気付けなかった。
なおかつ、形も角度も何もかもが黄金比で成り立っている。
本当に無駄なスペックの高さを見せ付けてくれる…………見習いたい。
何となく将来必要になりそうな気がしたのだ、もう一度言うが本当に何となくだ(ガグガク)
「まあ、でも何はともあれ」
「お前が無事で良かったよ、ルーク」
「うん♪……………………………(バタン)」
俺の意識はあっという間に暗転した、流石に七歳ではこれが限界らしい。
「「ルーク!!」」
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~護衛side~
御二人は慌ててルーク様に駆け寄っていった。
「七歳でこれだけ働けば当然でしょう…………領主様、奥様」
「そんなにルークは働いてたのか?ブレスを弾いたのしか見てないな」
「私もだけど、もしかして活躍したの?!うちのルークは?」
ルーク様の偉業に全く気付いて無いようだ。
「後ろを見てもらったほうが早いんじゃないんですかね」
俺は御二人にそう言った。
そう、御二人の後ろには、俺達が倒してきた魔物の死体がわんさか有るからだ。
しかも、大半が顔に槍やらフォークやらが一本ずつ刺さって絶命している。
これが、何を意味するかを理解してるのは護衛の俺らと、共に戦った農民達だけだ。
「この、魔物の死体がどうしたんだ?」
「おかしな所は無いけど?」
俺達は苦笑いしながら、互いの顔を見合わせた。
「実は、俺達の危機を助けて、指揮を執ったのはルーク様なんですよ。」
「ルークが指揮を執ったのか?本当に?」
「えぇ、水の張った田を使った戦術を考えたのもルーク様です」
「流石、俺の息子だな!」
「そうね、レイク。自慢の子供よ………本当に頑張ったのね」
そう言って、エリーゼ様はルーク様の頭を優しく撫でている。
(まずったぜ、これで話が終わりみたいな雰囲気になっちまってる、だが、まだここからが本題なんだよな…………)
「あと、頭に武器が刺さったままの奴は全部レイク様が倒しました、まぁ、大体半分位ですかね」
「「はっ?ハァァァァァァーーーーーーー!!」」
「いや、半分って言うけど、大体何体魔物が居たんだ?」
「少なくとも30匹は居ましたね」
「七歳で15匹かよ、しかも魔法なしだろ………強すぎる」
流石にこれは、ご両親の二人でも気味悪く感じてしまうかもしれない。
俺達は、命を救われたからか、それともルーク様の性格のせいか、気味が悪いとは全く思わなかった。
御二人は顔を見合わせた後、
「流石っ私(俺)達の息子ね(だな)!!」
デスヨネ。この人達も人間ヤメテルから、むしろルーク様がああなのは普通なのかもしれない。
「とりあえず、ルークを運びましょう、あなた」
「そうだな………………」
「私達の子供はきっと英雄になるわ」
「当たり前だろ、それとルークについて二つ気になったことがあるから、目覚めたら話をしてみないとな」
「私もそう思っていました」
「「でも、今はゆっくりやすみなさい(んどけ)」」
彼の初めての戦闘は死者ゼロで終結した。
それは、魔物達の規模を考えれば凄まじい功績だったことを本人はまだ知らない。
こうして、英雄の物語は始まる。
こうして物語は動き出す。