第四話 始まりは突然に
少し物語が進み始めます
ヒモ無しバンジーの翌日、俺は馬に乗って父さんと護衛達と一緒に街の視察に訪れていた。
早速、街の大通りで住民を見つけた俺は満面の笑みを浮かべて挨拶をした。
「皆さん初めまして、ルークと言います。これからは父と一緒にこの領地を盛り上げていくために頑張って行こうと思っています!」
キマッタ、コレ。病弱跡取り払拭作戦!
「病弱跡取りが、元気に一人で馬に乗ってるぞ!」
「おいおい、そんなわけ………マジだ!信じられねぇ」
「あんた、冗談はよしと………バタン」
「おい、誰か!魔石屋の婆さんが倒れたぞーー!」
「俺に任せろ!脈拍は無し、呼吸音無し、離婚歴アリ。ダメだ、バツイチだ、婆さんはもう助からねぇ」
「婆さぁぁぁーん!!」
「「「「「「キャアーー!、レイク様ぁぁーーカッコいい!!」」」」」」
「けっ、だからイケメンは気に入ら………おい、隣の馬に乗ってる子供は誰だ?すげぇ、好みなんだけど」
「あれは、跡取りのルーク様だよ、確か今七歳だったかな?」
「ありがとう、チェックしとくぜ」
おい、止めろよぉぉぉぉーーー!ねぇ一体何にチェックするの?絶対アッチ系のリストだよね?
てか、一緒に居る奴教えるなよ!!あんた、まともっぽいのに何でショタ野郎に個人情報教えちゃうのぉぉーー!?
「感謝されることでもないよ………………早くレイク様みたいなイイ男にならないかなぁ、ヒヒッ」
お前もかよぉぉぉーーー!?まともな奴だと思ったのにぃぃーーー!
阿鼻叫喚、カオス、バツイチ、追っかけ、ショタ、ホモ、これが、僕の住む領地なんて信じたくない………まぁ、バツイチはよく考えたら普通だな。
てか、父さんも護衛も笑ってるってことはこれがいつも通りだということなのか?
だとしたら早急に街の改善が必要だ、うん、これは害虫駆除だから罪悪感も無いね♪殺ると言ったら僕は本当に殺るよ♪
「皆、冗談は程々にしてくれよ。うちのルークがビックリして、震えているじゃないか」
違うよ、父さん。殺意と怒りで震えてるんだよぉ?本当だよぉ!あと、貞操の危機に。
特に最後のが大きいのは内緒だ。
「「「「「「「「「「「「「ちょっとふざけ過ぎちゃいましたね、申し訳ありません」」」」」」」」」」」」」
何だ、ノリが良いだけで皆普通の住民達なのか。
良い領地じゃないか、心配して損したよ。
「俺はこの愉快な領地が大好きだからな、きっとお前も好きになるぞ、ルーク」
「なるんじゃなくて、もうこの領地が僕は大好きだよ」
「「「「「「「「「「「「「ありがとうございます
、ルーク様!(ニヤリ)」」」」」」」」」」」」」
前言撤回、やっぱり普通じゃない。
多分、全部冗談じゃなくて本気でヤッテルよ、コイツら。
所で話は戻るが、俺は今『一人』で馬に乗ってい
るのだ。
俺自身、馬に乗るのは生まれて初めてだったのだが、やってみると以外と出来ちゃったのである。
この事で、器用さは手先以外にも役立つことが分かってきた。
前世では、手先以外そこまで器用に扱えなかったのだが、こっちに来てからは割とどこでも器用に扱える様になったのを実感している。
ただ、始め焦ったのは鞍に乗れても鐙に足が届かないことだったのだが、これは無くても一応乗れるらしい。
まぁ、実際乗って歩くのは今ご覧の通りある程度は出来ている。
という理由で、住民達を置いて今度こそ視察へと向かった。
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大通りを抜けて、城壁まで着いた俺は上から街を見下ろして思った。
「あれ!外にも街がある?」
「そうですよ、ルーク様。何と我が領の最大都市である城塞都市アルクスソンムは二重の城壁で囲まれていまして、一つ目の城壁は街の中心にある領主の屋敷と家臣団の家を囲んでいるもので、二つ目の城壁は街を囲うように広がっているのです、という訳で今通ってきたのは、家臣街ですね」
護衛の兵士が自慢気に語ってくれた。
どうやら、さっきの変態達は住民ではなく家臣だったらしい。余計に危機感が増した。
街を見下ろして思ったのは、ちょっとでかすぎないか?と言うことだ。
この、規模の領地の跡取りとは露程も思っていなかった。
何で気付かなかったか?って、
だって、屋敷からじゃ城壁で外見えないもん!
国を救った英雄の領地だから、ある意味納得かも知れないが。
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城壁から降りて、街へと出た俺は、肩身の狭い思いをしていた。何故なら病弱跡取りと呼ばれていた上に、魔力も少ないので、人によっては余り良い顔をされないからだ。
だが、そんな事はもう覚悟の上だ。
背筋をピンと伸ばし表情を作り直した俺は小声で呟いた。
「やってやるさ、必ず」
「余り気にするなよ、ルーク。皆も悪気がある訳じゃなくて、不安なだけなんだよ」
父さんには聞こえていたようだ。
「認めさせてみせるよ、父さん」
「七歳なのに俺以上にしっかりしてるんじゃないか……本当に」
呆れた様子で父さんは俺の頭を撫でる。
一通り街を視察した後、城壁の更に外の農業区へと俺達は足を伸ばした。
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城壁の外は一面に畑や牧場が広がったいた。
「本当に広いんだね、父さん」
「いや、昔は違った。と言っても今から六年前位だから、お前が一歳位のころからかな」
「…………どういうこと?」
「昔は魔物や盗賊が出るから、余り開拓が進まなかったんだが、六年前位から盗賊が気絶した状態で城門の前に積んで有ったり、魔物が寄り付かなくなったお陰で此処まで農地が広がったんだ。」
「盗賊は誰かがやったかも知れないけど、魔物の方はどうしてなの?」
「話によると、畑を荒らす魔物が森の中で死んでいたり、棲みかを変えたりしたかららしい。冒険者達が、魔物の数が減ったから、やり易くなったって喜んでたしな」
「魔物が減って冒険者は喜ぶの!?」
「あぁ、ここらは辺境だからレアな魔物や素材が多いんだけどな、その分、数もレベルも段違いだったから中々冒険者が居着かなかったんだよ。まぁ、今は冒険者ギルドもやっと支部を改修出来るって喜ぶほど冒険者が増えて儲けてるらしいがな」
「じゃあ、ここらはもう安全な場所になったんだね」
「いや、そうでもないんだよな。弱い奴は来なくなったから良いんだけど、依然強い魔物は普通に来るからな…………ほら、ちょうど空から飛竜がって、飛竜!?はぐれが此処まで来たのかっ!?しかも番かよ、お前らは農民の保護を最優先に行動、ルークは城壁まで撤退して衛兵に報告、俺はあいつらを仕留めてくるっ!」
「「「「了解」」」」
「分かったよ、父さん!」
「じゃあ、行ってくる。我が身を覆え風と雷よ『疾風迅雷』」
おぉー、上級魔法を短縮詠唱ですか、流石ですな父さん。
俺も中二詠唱してみたいっすね!まぁ、魔力少ないから出来ないけど。
父さんは2匹の飛竜へと、向かっていく。
バチッバチッ
五百メートルは距離が有った筈なのに、一瞬で飛竜の近くまで移動している。
父さん、速っ!
飛び上がった父さんは、2匹のブレスを風魔法で回避し、小柄な方の飛竜に肉薄して踵落としを浴びせた。
小柄な方の飛竜はまるで質量差を感じさせない勢いで森へと突き刺さる。
更にそこに無数の雷撃連射。
鬼畜だね、父さん。
死体を確認することなく、呆然とするもう1匹へ剣を抜いて斬りかかる。
我に返った飛竜は自慢の爪で剣を防ぎ続ける。そして、父さんを尻尾で弾きすかさずブレスを放つ。
これ父さん、ヤバくね。
すると、ブレスは空中で不自然に向きを変えて地面へと着弾した。
地面には大きなクレーター…………、はっ?威力ヤバくね。そして、防ぐ父さんもYABAI!
父さんは次々とブレスを弾いていく、その度に増えるクレーター。
逃げないとマジでヤバいぃー!
俺は慌てて馬を走らせる。
俺は先程と違い馬を走らせてるので滅茶苦茶お尻が痛い。いや、本当に。
まぁ、もっと痛そうなのが後ろに見えるから我慢するけどね♪
今の所、あの大きい方の飛竜と父さんは中々良い勝負してるし、避難は余裕だなぁ………んっ?
あれっれ~?飛竜の落ちた森から魔物出て来てマスよね?
話と違って一杯いるじゃないですかぁーーーって、ハァ!?
ヤバイじゃっないっすか。
いや、まだ大丈夫だ、父さんが居るし。という訳で任したよ、父さん…………飛竜と戦闘中ですね♪
じゃあ、護衛………農民を守りながら魔物と戦闘中ですね♪
なら、俺………絶賛敵前逃走中ですね♪
「しょうがない、やるしかないよね」
魔物の移動速度から考えても、城壁にたどり着く前に農民たちは追い付かれる可能性が高い。
俺は馬を翻し、魔物と戦闘中の農民や護衛の元へ向かう。
だって、これだけ目立ってれば城壁への伝言など必要ない…………というか、俺を帰らせる為の口実だったのか。まぁ、いいさ。
俺は地面に突き刺さったままの鋤を馬上から拾い上げて、魔物へと駆けて行く。
「手足の震えが止まらないのは愛嬌ってことでヨロシクな♪」
恐怖を圧し殺して、更に加速する。
どうやら状況は芳しくないようだ。見たところ護衛四人に対して、魔物は大量にいる。後はもう時間の問題だろう。
案の定、予想を裏切らない形で俺の十五メートル先で、若い女性がオークの上位種に槍で突き刺されようとしている。
それに気付いた護衛も苦い表情をしている。
もう、間に合わないと気付いたのだろう。
護衛はもう間に合わないなら、
俺が止めなきゃいけない、そう思った時には俺の手は勝手に理想的なフォームで鋤を放っていた。
その鋤は子供の手から放たれたものとは思えない速度でオークの顔面を貫通した。
護衛や逃げる農民達がこちらに気付く。
「皆さん、ここから逃げて下さい。僕が足止めします!」
俺はオークから槍を奪い、馬上で構えた。
護衛はそんな俺を見て、
「全く、領主様にそっくりじゃねぇかよ!なぁ、お前ら?」
「まったくですねぇ、本当に」
「まだ、僕は行けますよ」
「撤退戦をすべきと進言します」
護衛達は一緒に戦う気らしい。
「よし、死んでもルークの坊主を守れよお前ら!」
「いいよぉ~」
「愚問ですね、何のための護衛だと」
「御意、仰せのままに」
こんなに慕われる父親を誇らしく思うと同時に、羨ましくもある。だが、俺はそれを超えると誓ったんだ。やってやるさ。
農民達は、そんな俺達を見て声を掛けてきた。
「しかし、ルーク様は魔力を持たないのでは?」
「えぇ、一般人レベルしか持っていませんね」
「それでは、死んでしまいますよルーク様が」
「死ぬ気は有りませんが、そうなるかも知れませんね」
俺は向かってくるコウモリの魔物を槍で落としながら、言葉を返す。
どんな武器でも器用な俺ならそこそこ扱えるのが分かっただけでも上出来だ。
「しかし、見殺しには出来ません。共に戦いますよ、我々も伊達に辺境で農民をやっていませんから」
「そうだぜ、女子供は逃げてもいいが、俺ら男が子供のあんたを置いて逃げちまったら、妻や子供に何を誇れるってんだよ」
マズイ、そろそろ魔物の大軍がくる。
飛竜が父さんの攻撃で飛べなくなってるけど、こっちに走って来るのは時間の問題だな。
これは、言うしかない。
「ルーク・ベル・アストリアが貴族として貴方達に命じます、城壁へと避難してください。違えば、後々罰を与える事となります、護衛の方もですよ」
そう言って俺は、魔物の大軍へと向き直る。
後ろで遠ざかる足音が聞こえる。
そうだ、皆は逃げてくれ。
「何で、武器になるもの集めて帰って来ちゃうんですか?アホなんですか?バカなんですか?」
「坊主には、言はれたくねぇな」
「だから、言ったろ。もう、諦めなどちらにせよもう逃げても間に合わねぇよ」
何てアホな人達なんだ。だが、もう切り替えよう。
「わかりました、絶対に死なないで下さい!では、始めましょう、世界最巧の初陣を!!」
世界最巧による初陣が幕を切った。
バトルが始まらなくてすいません