第十三話 復讐者の追憶
遅くなって申し訳ありません。
追憶回の二話目になります。
~ある復讐者の追憶~
王都に有る、ある貴族の屋敷の屋根の上に一人の男が佇んでいた。
男の黒いマントが風ではためくと中に黒く禍々しい弓と漆黒の短剣が顔を見せる。
「『死神の衣』」
男の姿が夜の闇へと溶けていく。
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「今度はシュライテン男爵が賊に殺されたらしいぞ」
「でも、その賊って黒い噂の有る貴族様しか狙わないんだろ?」
「俺らからしたらスカッとする話だぜ」
「全くだな」
二人の平民は荷車を押しながら通りすぎていく。
「だそうだぜ、巷で噂の『死神』さんよ」
「別に奴等の為じゃない」
「結果として助かってるのさ」
「そんなことより、奥で話があるマスター」
「全くせっかちなんだからよ」
二人は店の奥へと消えていく。
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~酒場の奥にて~
「全員集まった様だな」
五人の男女が机を囲んで座っている。
「では、始めよう、『復讐者の宴』を」
「はーいはーいリーダー!私今月一人殺りました♪」
十代半ばの紫髪の少女がツインテールを揺らし元気良く今月の仕事を報告する。
「あっしはゼロでやんす」
燕尾服を身に纏い、オールバックに黒い丸眼鏡の怪しい出で立ちの男が見た目に合わない口調でしゃべる。
「拙者は二人ほど、斬ったでござる」
ここらではあまり見ることのない着物という衣服を纏った黒髪のセミロングの女が静かに報告する。
次は俺の番だ。
「俺は王都内外含めて五人だ」
「スゴいスゴい!!流石グリムさんだね♪」
「そうでやんすね」
「良い腕でござる」
「僕と互角かぁ、流石だね」
「「「リーダーも五人殺ったの(でござるか)!?」」」
「えっ?うんそうだよ、でも僕の復讐は終わってないからまだまださ」
そう、ここに居る五人は全員がそれぞれ復讐したい相手を持つ復讐者なのだ。
互いの内情は最低限しか明かさず、只互いの復讐を成功させるために協力する組織、
それが『復讐者の宴』というこの集まりだ。
現在の構成員は五人。
No.54『悪夢』の二つ名を持つ少女メア
No.53『十死架』の二つ名を持つ男クロア
No.49『月光』の二つ名を持つ女キャロ
No.41『死天使』の二つ名を持ち今期のリーダーである男ゼーレ
No.40『死神』の二つ名を持つ俺グリム
この内俺とゼーレを除く三人は、既に己の復讐を他四人の協力を経て成し遂げている。
なら、何故『復讐者の宴』に残っているかと言うと本来、復讐者は復讐を成し遂げるかその半ばで散ることで脱退となるのだが、彼らは復讐を成し遂げたにも関わらず、俺達二人への協力を申し出たからである。
「何時になったら二人の復讐は終わるんでやんすかねぇ?」
「しょうがないよ、沢山いるらしいし♪」
「拙者は最後まで付き合うでござるよ」
俺とゼーレは静かにゆっくりと口を開く。
「「だが(でも)、次で終わる(よ)」」
「僕とグリムの復讐相手はあと一人だ」
「「「誰ですの(ござるか)(やんす)?」」」
俺は自分の心を落ち着けながら、口を開く。
「四大貴族の一人だ」
「もしかして、『征服』のグライアス辺境伯ですの?」
「違う」
「それとも、宮廷貴族親王派『鉄壁』のアイギス公爵でやんすか?」
「違う」
「では、『軍神』のアストリア辺境伯でござるか?」
「いや、違うよねグリム、僕らの獲物は厄介で狡猾で、それ故にその件の関係者を最低限に絞った愚かな男」
「お陰で狩る獲物が少なくて済んだ」
「そう、僕達の最後の獲物は、
「「宮廷貴族反王派筆頭『反逆』のトレートル公爵だ」」
「うっわ、一番悪い悪の親玉じゃないですの」
「楽しくなってきたでやんす」
「拙者の復讐も大元を辿ればこやつが関係しているでござるよ」
「そうね、私もよ♪」
「あっしもそうでやんす」
「決行は明日だから、皆ちゃんと準備しといてねぇー」
「うむ」「了解♪」「OKでやんす」「わかった」
「では、我々にとって最後の『復讐者の宴』としようか」
五人は運ばれてきた料理を各々の思い出と共に噛みしめながら過ごした。
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~復讐者の宴~
五人の復讐者が公爵の住む貴族街の屋敷の前に集った。
各々の持つ能力を用いて、侵入を開始する。
「見張りの相手は任せろ」
そう言って俺は弓に魔法矢をつがえて放つ。
「「「うっ!」」」
黒い矢に三人の衛兵が撃ち抜かれて見張り台の上で絶命する。
「よし、私が行くわね♪」
タッ!
メアはジャンプで軽々と塀の上の見張り台に飛び乗り、周りを見張る。
続いてキャロが塀の表面を切り裂き即席の足場を作り、四人も庭園内に侵入する。
魔法・物理どちらの罠もクロアが見つけ次第解除していく。
「順調すぎるな」
あまりに簡単すぎる。
「僕もそう思うよグリム」
「はっはっはっ、勘が冴えているではないか、小悪党ども!!」
屋敷に向かう五人の前に王国軍の軍服を着たムキムキなリーゼント男が衛兵を従えて立ちふさがっている。
「何で分かったか聞いても良いかな?」
ゼーレの問いにムキムキはポージングを決めながら言葉を返す。
「自分に劣るとも劣らないパワータイプの気配を感じたからね!」
ふざけた理由だが、心当たりがある。
「それって私のことですの?」
そうメアだ。
「お嬢ちゃんは黙っときな………んっ、以外と可愛いじゃねえかおじさんと遊ぼグベッ!」
衛兵の一人が無用心にメアに近付き屋敷の壁の染みとなった。
「どうやら、君の様だね!私と戦ってくれるかねお嬢さん?君があの有名な『悪夢』なのだろ」
「良いわよ♪雑魚もろとも掛かってきなさい♪」
そう、これがメアの二つ名の由来である。
可愛らしい容姿に反した化け物じみたパワー、これを見た者が「こんな可愛い娘が馬鹿力なんて詐欺だろ、悪夢なら醒めてくれよぉぉぉ!」と言ったのが広まったのだ。
「私がここを抑える、人が集まる前に標的を片付けてきなさい」
そう言ってメアは青い籠手をはめて、敵中に飛び込む。
「行くよ、三人とも!」
「あぁ」
メアの覚悟は受け取った。なら、それを無駄にするわけにはいかない。
「死ぬんじゃないでやんすよ」
「これが終わったら拙者と一緒にまた遊びに行くでござるよ」
二人もその後に続く。
「えぇ、任しておきなさい♪」
屋敷にたどり着いた俺は中に入ろうとしてクロアに止められる。
「罠でやんすよ、グリムさんらしくないでやんすね」
ドアが爆発で吹き飛ぶ。
「助かったクロア」
「まあ、自分も使う手でやんすから」
吹き飛んだドアの向こうから金髪のイケメンが出て来た。
「ムカつくね君、折角の罠が台無しじゃないか」
ぞろぞろと衛兵達が集まってくる。
「これは、あっしの番でやんすかね…………三人とも行って下さい」
クロアの口調がふざけたものから真面目なものに変わる。
「君一人でこんだけの衛兵と僕を倒すって言うのかい、面白すぎるよぉぉ君ぃぃぃ!」
スパッ、
男の髪が一房宙を舞う。
更に近くに居た衛兵数人が十字に身体が裂ける。
「気を付けろ、そこはもう殺害圏内だ」
クロアが宙を指差す。
「僕の髪がぁぁぁ、ちくしょう僕を罠に嵌めるとは良い度胸じゃないか……………分かったぞお前があの『十死架』って奴だろ、やり方が似ていて気に食わなかったんだよぉぉぉ!やれっ、お前達!」
「健闘を祈ります御三方」
クロアの見た目に良く合う口調で行き先を指差す。
「ありがとう、クロアくん」
「助かるクロア」
「かたじけないクロア殿!」
指差す方向に向かって走り出す。
「バカが罠が有るんだぞ!?」
「わたしがもう解除しておいた」
「くそがぁぁぁ!!」
屋敷の衛兵を蹴散らしながら公爵の元へと向かう俺達三人の前の床が突然崩れる。
だが、この程度で止まる程俺達は弱くない。
三者三様に軽々と飛び越える。
飛んだ先で待ち構える女に俺とゼーレは矢を放ち、キャロは刀を抜き、切り掛かる。
矢を軽々と避けた女はキャロと同様の東洋風な顔立ちでキャロと同じく刀を抜きそれに応戦する。
「すまぬが私個人の客の様でござる…………先に行って貰えるでござるか」
キャロの殺気が高まっていく。
「その忍び装束………………何故貴様が生きてるでござるか?」
「あんたこそその忍び装束似合わないんですけどぉぉ!まぁ、どっちみち死ぬキャロちゃんにお洒落なんて関係ないけどね♪」
「まだ、拙者の復讐は終わらないというわけでござるか」
「ほざけムッツリィィィ!」
「黙れ、カマトト…………御二方先に行くでござるよ」
俺とゼーレはにらみ合う二人の横を抜けて、公爵の元へと向かう。
走り続ける俺達の耳に届く怒号や剣戟の音が仲間の奮闘と生存を知らせてくれる。
ついに執務室の前まで辿り着く。
「入りたまえ」
渋い男の声が扉ごしに入室を促す。
「どうやら、お見通しみたいだね!」
バガァン!
ゼーレ蹴破った扉は部屋の正面の執務机に座る男へと真っ直ぐに吹き飛ぶ。
「礼儀も知らないとはとんだお客ですな、旦那様」
男の横に立っている執事服の男がフリントロック式の拳銃を構え引き金を引く。
拳銃から放たれたとは思えない銃声を上げて爆風が扉ごと俺達二人に襲いかかる。
「申し訳ありません旦那様、屋敷を壊してしまいました」
「構わん、貴様のことだ反省もしておらんであろう」
「これは手厳しいことで」
笑顔を一切崩さない初老の執事と表情を全く変えないそれより少し若い主は手慣れた様子で爆風で吹き飛んだ二人を見る。
粉塵の晴れた先に居たのは、粉々のドアと吹き飛んだ壁だけだった。
「おやおや、避けられましたか………………しかし、若さ故に甘いですぞ」
懐から出したもう一丁の拳銃をまだ粉塵が晴れていない方に向ける。
「殺気位は隠したほうが宜しいですよ?」
発砲した直後複数に別れた弾丸は、粉塵に紛れて翔んできた大量の魔法矢と衝突し火花と破砕音を起こす。
「生憎、これが最後だと思ったらいつもみたいに冷静で居られなくてね♪」
粉塵の晴れた先で機械式連弩を構えるゼーレが答える。
「おや、その連弩はもしや」
「そうだよ、これは王具『双銃王海老砲』」
「奇遇ですな私の使う弾丸の名も王具『双銃王海老弾』と言うんですよ」
王具、それは過去の大戦時に作られた決戦兵器のことを言う。
その数は十二個あり、当時の六大国である王国、帝国、皇国、聖国、龍国、そして神国のそれぞれが作ったことから、
『王具』『帝具』『皇具』『聖具』『龍具』『神具』と呼ばれそれぞれ十二個存在する。
現在では、総称して七十二宝具と呼ばれている。
そして、この『双銃王海老砲・弾』は七十二宝具で唯一、二つの王具が揃うことで真の力を発揮する変わり種の宝具なのだ。
「また、これも運命なのかも知れませんね」
「お前と運命って言うのが気に食わないが、僕も同感だよ」
この『双銃王海老砲・弾』は元々王国の双子湾に棲んでいた二匹の巨大危険種から作られたものである。
その討伐時には、片方の王海老が全身を砲とし、中に入った小柄な王海老を弾丸の様に射出するという攻撃法により多くの王国海軍の軍艦を海に沈めたと記されている。
そんな対になる宝具で屋敷を破壊しながら二人の攻防は続く。
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「全く屋敷の修繕に幾ら掛かると思ってるのだ、奴らは」
屋敷を壊しながら戦っている二人を見て男が呟く。
「今日死ぬお前には関係ないだろ」
「死ぬかもしれないから言っているのだよ、『死神』」
「微塵も死ぬ気が感じられないがな、『反逆』のトレートル公爵」
俺はトレートルに向けて突入前に外に打ち上げておいた魔法矢を外から呼び寄せる。
「んっ?」
何かに気付いたか、トレートル……もう遅いけどな
さながら爆撃の様に空から天井を突き破り爆発する。
「ふむ、面白いではないか」
爆発の寸前に公爵は窓を破って外に飛び出す。
「旦那様!!」
「余所見は良くないぜ、執事さん」
ゼーレが再度魔法矢を大量に射出する。
「くっ!」
不意を突かれた執事が爆発の余波で壁を何枚もぶち破って吹き飛んで行く。
「行ってくれるかなグリム、君にトレートルは任せる」
「あぁ、俺とお前から全てを奪った報いを受けさせる」
俺はトレートルが外へと吹き飛んだ穴から外へと飛び出す。
「トレートルは……………あれか」
トレートルは身体能力強化の魔法を使って、庭を翔ぶように駆けて行く。
それに対して俺も死神の衣の能力で半ば空中を滑るように駆けて行く。
どうやら、俺のほうが速いらしいな。じわじわと距離が詰まって行く。
「追い付かれてしまったか」
そう言って、アイテムボックスから弓を呼び出し矢を放つ。
「当たらん」
死神の衣の速度と回避性能で尽く矢を避ける。
そして、トレートルに肉薄しナイフを振りかぶ……………何故コイツは避けようとしない?
「気付いてしまったかな?」
俺のナイフは宙を舞う一本の光の矢に防がれ、後ろからは先ほど避けた筈の矢が戻ってくる。
「ちっ!」
反対の手にも漆黒のナイフを持ち、二刀で矢を迎撃する。
くそっ、弾いてもすぐに返ってくる。
なら、利用させてもらうまでだ。
俺は矢を十分に引き付け、トレートルに向かって疾走する。
「ほう、考えたな……………だが、想定していないと思ったかこの状況を?」
確かに過去に同じことをやった奴はいただろう、だが、俺は更にその上を行く!
接近する俺に対してトレートルは弓を構え、新しい光の矢を放つ。
挟撃か?いや、違うあれは結界!?
光の矢はトレートルの前に格子状の壁を作り出す。
「これには、触れないことをオススメしよう」
「あぁ、そうするよ」
そう言って俺は後ろから迫る矢をわざと追い付かせて避ける。
そして、光の矢をそのまま自分の弓につがえ更に加速させて放つ。
矢は格子の外を回り込み俺を穿たんと再び旋回を始める。
だが、俺と矢の間には結界を張ったばかりのトレートルがいる。
そして、矢とトレートルと俺が一直線になった。
俺は格子と残った背後の矢に挟まれる直前に横に回避する。
格子と矢が衝突し甲高い音を立てて粉々になっていく。
俺が加速させた光の矢はトレートルの背後に密かに迫り、
何事も無かったかのように再度トレートルの手により、つがえられ放たれた
「私もその程度のことは造作もない」
「………………そうかよ」
回避した先で俺の左胸に光の矢が突き刺さる。
俺は血を流しながら庭園に崩れ落ちた。
トレートルは俺の近くに土魔法で椅子を作り腰かけ、話を始めた。
「これから死ぬお前には、ここまで来た褒美に全てを教えてやろう」
あれ……………俺はまだ死んでいない、何故だ?
あぁ、そういうことか。
親友と妻との絆とも言える共通点が俺を救った。
心臓まで刺さって消える筈だった光の矢は、心臓に届く僅かに手前で止まって消えたのだ。
そう、この身体を久々に覆った龍鱗鎧に阻まれて。
あの時以来一度も纏うことが出来なくなってしまった筈なのに。
「そうだ、俺の龍鱗鎧は翠だったっけな」
「…………何を言っている?」
「俺がまだ………………戦えるってことだよ!」
俺は咆哮と共に立ち上がる。
「心臓を貫いた筈だぞ……………………ほう、そう言うことか龍人」
「家族を失って以来一度も龍鱗鎧が出なくなってたけどな」
「なら、再び相手をしてやろう。私とこの皇具『雨宮摩可古弓』を以て」
「あぁ、どうやら俺はやっとこの武器に復讐者と認められたらしいな!」
グリムが叫ぶと同時に弓と短剣に加えて死神の衣までもが無数の黒色の金属の粒子となり、グリムの前で渦巻く。
「復讐者の宝具だと……………………まさかその宝具は」
「地の牢獄、閉ざされし未来、その憎しみの代行者がこれより正義を執行する!来い!『乖離鎌ァァァァ!!』」
「まさか貴様が72宝具の一つ、神具『乖離鎌』の適合者だったとはな」
黒い渦に手を入れて鎌を掴むと同時に地面から鎖が飛び出し、全身の龍鱗鎧を覆い『黒鎖龍鎧』を形成する。
「トレートル、貴様の命貰い受ける」
「何を勘違いしている…………私もまた皇具の適合者なのだよ、これでやっと君が舞台に立ったというだけだ!」
光の矢をつがえ、グリムに向けて放つ。
「この矢の追尾能力からは逃れられんぞ、グリム!」
「逃れる必要はもう無い、地に縛れ『金剛黒鎖』!」
黄金の矢を地面から飛び出した黒い鎖が絡めとる。
同時刻五人の復讐者は叫ぶ。
「「「「「さぁ、復讐者の宴の時間だ!」」」」」
それぞれの戦いが最終局面を迎える。
長くなってしまったので追憶回がもう一話続きます。
書きたいアイデアがどんどん湧いてしまい、中々綺麗にまとめれなくてすみません。




