第十二話 幸福者の追憶
過去への回想が二話続きます
フラムに見とれていたのは、時間にして約五秒、本来の仕事を思い出したルークは口を開く。
「聞きたいことが有るなら聞いたらどうだ?」
「あ、あぁ俺が犯罪者を逃がしても良いと思える理由を教えてくれよ、精霊様」
「それは……………貴方と彼らが同じだからです」
んっ?あれ?説得するんじゃないの、フラムさん?
「俺の何処が犯罪者と同じなんだよ!」
まあ、でも掴みは悪くないかなぁ。
さあ…………お手並み拝見といこうか。
「彼らの顔を見てみなさい」
俺と鱗少年は一緒に振り返り他の人の目を見た。
一部は鱗少年と同じように犯罪奴隷に対して、怒りのこもった目を向ける違法奴隷の少年少女達だが、残りの犯罪奴隷達は何処か哀れみと影のある表情をしている。
「何なんだよその顔は…………言いたいことが有るならはっきり言えよ!」
確かに気になるのは俺も同意しとこう。
「分かったから、落ち着いてくれないか、坊主」
三十代半ば程の古傷だらけの男が立ち上がり、フラムに話かける。
「本当に精霊様は真実を見抜くんだな………疑ってた訳じゃねえが驚いたぜ」
「貴方達の犯した罪とその過去を見て裁くのが精霊としての役目ですから」
「成る程な…………よし、坊主、ある二人の男の昔話をしようじゃねえか」
「あんたの話なん……………分かったよ、聞くよだから、そんな顔すんなよ」
「すまねぇな、情けない顔しちまって、同情させたかったわけじゃねえんだよ」
「いいから、さっさと話せよ………その上で同じかどうか確かめてやる」
「あぁ、これは一人目の男が二十代の頃の話だ………」
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~ある幸福者の追憶~
体長三メートルを越す巨大な男鹿が悠然と森を歩いていた。その分厚い体毛は生半可な武器など通さないであろうことが窺える。
だが、そんな鹿にも唐突に死はやって来た。
ヒュッ、ドス
「よし、当たった!」
「目にピンポイントで当てるなんて流石ラルズだね、これは今日の狩りは君の勝ちかな」
「何を言ってるんだよピート、お前の方が頭数は多いんだからお前の勝ちだろ」
「いや、僕じゃあの距離で目を正確に狙う自信がないよ」
ピートは腕は確か何だが、どうも自信無さげなんだよなぁ。
「それ言ったら、俺だってお前みたいに動き回る獲物を仕留めるのは無理だよ」
「褒めすぎだよ(モジモジ)」
ピートは身体の線が細いし、青髪の爽やかイケメンなので、こんな動きも何処か愛嬌があり、村一番のイケメンと言っても良いかもしれない。
「って、いかんな、早く帰って村に獲物を持ち帰らねえと」
「そうだね、僕を褒める暇が有るなら、家で君の帰りが遅いのを気にしてプンスカしてる人にどう謝るか考えてた方が良いんじゃない?」
「無理、あいつ絶対に話を聞いてくれねぇよ」
「ははっ、確かにそうだね」
そう言って、俺達は村へと戻っていく。
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「バカァァァァ!何でこんなに帰りが遅いのよぉぉぁ!」
ズッシャァァァーーー
村の入り口で口を開くと同時に、顔をグーで殴られ吹き飛ぶ。
「まぁまぁ、ラルズも悪気が合ったわけじゃないんだよ」
ピート、言った通りだったろ。
はっ、それよりも、俺は自分を殴った美少女、いや美しい女性に即座に駆け寄り、
「レミア!女性が身体を冷やしちゃだめだろ」
そう言って、これ以上暴れないように優しく抱きしめる。
「ぎゅっ何かじゃ今日という今日は騙され無いわよ……………はふぅ」
レミアは安心したのかとろんとした目で、こちらを腕の中から見上げてくる。
「風邪引くと良くないから、家に戻るぞ」
そう言って俺はレミアの身体を魔法で温めながら、レミアをお姫様抱っこする。
「むぅ、もう私にあんまり心配掛けないでよね」
そう言ってレミアは頬を膨らませる。
…………可愛いすぎる
それを見て俺は愛しさと幸福が頂点に達し彼女の柔らかい唇に自分のそれを押し当てようとしたその時。
「えーと、僕が居るの忘れてない?あと、獲物達も」
「「チッ」」
ピートめ至福の時を邪魔しやがって、
「分かったよ、獲物は運んどくからお好きにどうぞ」
そう言ってピートは、獲物を載せた台車を孤独に引っ張っていく。
「俺達もそろそろ帰ろうか?」
流石に今からもう一回あの雰囲気になるわけにもいかないので、そう腕の中の最愛の女性に声をかける。
「そうね、私達の家に帰りましょ♪」
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~その夜~
眠って一時間もしないうちに目を覚ました俺はすぐ横で寝顔を見せているレミアを愛おしげに眺める。
さらさらの金髪に二十代にしては幼い顔つき、しかしツリ目がちな琥珀色の目が強気な性格を良く表している、そして何よりもけしからんお胸様……………素晴らしい。
飽きもせずずっと眺めていると、
「何よ、そんなに見つめちゃって」
目をごしごしと擦りながら、レミアが起き上がる。
「目の前に美少女が居たら眺めるのは普通だろ」
「ラルズは他の娘と寝ても同じこと言いそうね」
ふっ、俺のモテなさを舐めてるらしい。
「生憎他の娘と寝たことないし、その予定も無いからその心配は杞憂だ!」
「私はそのことを喜べば良いのか、それともそんな男と結婚した自分を嘆くべきなのか」
全く結婚して数ヶ月経つのに、昔からのツンが抜けてないんだけど。はっ!もしや、
「……………もしかして俺と結婚したの後悔してる?」
レミアが真顔になる。
おいおいマジか、幸せな気分が吹き飛んじまったよ。
この気分を言葉にするなら、
「よし、死のう」
素早く縄を天井から吊るし、首を掛ける。
~五分後~
「バカバカ何やってるのよぉぉ!」
「面目ない」
俺はレミアに即座に降ろされ、床に正座させられている。
「死のうとかバカなこと言うんじゃないわよ!」
「いや、だって俺、良いとこ無くない?しかも、お前に後悔させてると思ったら感情が爆発して」
自分に自信が無いのはピートだけじゃない、俺もなのさ。
だって、容姿普通、強さ普通、財力普通のミスター凡人だぜ。
「ハァー、あんた鈍感なの?結婚してるのよ私達!」
「お前優しいし、腐れ縁だからなし崩し的に結婚したのかなーと」
「そんなわけないでしょ!私はあんたのことが……ずっと昔からす、好きだったのよ!」
マジか、お情けでプロポーズを受けて貰ったと思ってたわ、俺。だって、レミアは超絶美少女なんだもん。実際イケメンがわらわら寄ってきてたし。
「そ、そうなの?」
「あんた以外と結婚なんて考えたこと無かったわよ」
「俺は結婚どころか他の娘のことは眼中にすらなかったけどな」
ボンッ、レミアの顔が赤くなる。
「もう、そういう話じゃなくて、あんたにも良いところがいっぱい有るってことよ!」
「またまたぁ~」
自他共に認める凡人だぜ、俺は。
「まず、優しいところ」
「お前にだけな」
ボンッ!
「うぅ、浮気しないところ」
「常にレミアで浮わついた気分になってるから、これ以上浮かれようがない」
ボンッ!
「うぅぅ、命を張って何度も私を守ってくれたこと」
「レミアの前に立ってたらたまたま俺に武器や魔法が当たっただけさ」
ボンッ!
「うぅぅぅ、国が敵になっても、危険なモンスターが出ても一度も私を見捨てなかったこと」
「お前に俺の心臓を持ってかれたまま死なれたら、俺の心臓もレミアと一緒に死んじまうだろ」
ボンッ!
「もうっ!とにかくあんたのことが本当に好きなのよっ!結婚したことを喜んだことはあっても後悔したことはないわよ!」
「お、おうなんだ、そのありがとう」
「し、証拠に私が何度もあんたを誘惑してるじゃない!なのにあんたは結婚してから数ヶ月経つのに全く手を出してこないし!」
「誘惑?したの?」
全く身に覚えが無いのだが。
「したわよ!わざと服を捲ってお腹を見せて寝たり、胸元のボタンを外したままで寝たりしたのに、あんたと来たら、何もしてこないから私って魅力無いのかもって心配したんだから!」
何か勘違いしてるみたいだな、仕方ない教えてやるか。
「俺はちゃんと手を出したぞ」
「えっ、まさか私が寝てる間に手を出したの?」
「その、まさかさ」
「初めてだったのに~、ひどいわラルズ!ラルズなんてきら………って何で私それで起きてないの!?」
「お腹は冷やすといけないから戻したし、胸元も一番上までボタンを掛けてやったぞ」
「バカァァァァ、勘違いしたじゃないの!手を出すの意味が違うわよ」
「しょうがねぇだろおぉぉーーー、変に手を出して嫌われたら俺はいきてけねえんだよぉぉーー」
「私だっていつ来ても良いように準備してたのよぉぉぁーーー」
あれ?いつ来てもってことは今もなのか?
「じゃあ、今も準備出来てるか?」
「い、今!?え~とねほら、お隣さんに声とか聞こえちゃうし、ちょっとね」
「そうだよな、隣の家まで五十メートルしか無いもんな」
俺はニヤニヤしながら言葉を返す。
今日の所はテンパっているみたいだし止めとくか…………………んっ?おかしいな
「そっ、そうよ五十メートルしか無いんだから…………って良く考えたら聞こえるわけないじゃない!」
「うん、俺にしか聞こえないな。もし、他の奴に聞かれてたら明日村人が沢山消える羽目になるな」
ビクッ
家の外で気配が動く。確定。殲滅。
「レミア、俺ちょっと外で(あいつらを)落ち着かせてくるわ」
「外って、ラルズ今冬よ?………あっ!もしかして、こっ、興奮を落ち着かせるってこと?」
「いや、そっちはもう落ち着きようがない、とりあえず少し経ったら帰ってくる」
あぁ、俺の心は怒りに満ちて、もうどうやっても落ち着きそうに無い。
そう言って俺は弓を持って外に出た。
バタン
「(えぇぇぇぇーーーー!?落ち着きようがないって、そ、そのアレがってことよね?しかも、少したったらって帰ってくるって、心の準備して待っとけってことだよね!?どうしよう、どうしよう嬉しいけど恥ずかしいよぉぉぉ!)」
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「おい、村人ども、未遂で良かったな……………半殺しで済むんだから」
「ちょっ、ちょっと待ってくれよたまたまお前の家の近くを散歩してたブギャーーーー」
「夜に散歩か…………体冷やしちまっただろ、あっためてやるよ『火球』ゥゥゥゥ!」
「ヤベェ、ずらかるぞお前ら!」
「「「「「あったりまえよぉぉぉーーーー!」」」」」
「熱っ熱っ、ちょっと俺を置いていか…な…バタン」
ちっ、もうのぼせちまったか。まぁ、いい村人はまだいる。
俺は魔法矢をつがえて、逃げる村人を狙撃していく。
「熱ちちちちちち、許してくれよぉぉーー!!」
「魔が差したんだよぉぉーーー、あんな綺麗な人妻そうそういねえよぉぉ!!」
「レミアの美しさを理解しているとは、フッお前だけは特別扱いしてやる」
「ゆ、許してくれるのか?」
「「「「「お前だけ許されるなんてずるいだろぉぉがぁぁぁーーー!!」」」」」
「許す?お前らは何を言ってるんだ?特別扱いって言うのは家の妻に色目を使ったから刑罰三倍って意味だぞ?」
「「「「「ざまぁみやがれ!」」」」」
「連帯責任に決まってるだろぉぉぉがぁぁぁーーーー!!」
「「「「「「ちくしょぉぉぉぉぉぉーーー!」」」」」」
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冬の夜空の下で火の十字架に七人の罪人が貼り付けになるという幻想的な光景を作り上げた俺は意気揚々と家に戻った。
「ただいま、レミア♪」
「う、うん…………落ち着け私、体は綺麗にしたし下着も変えたし大丈夫、大丈夫」
ボソボソとレミアが何か言ってるがどうしたのか。
「『浄化』っと、よしレミア寝るか」
今日はレミアと本当の意味でレミアと夫婦に成れた記念すべき日だな。
「は、はいっ!」
俺はベッドに入り、レミアの方を向いて寝転がった。
「今日は記念すべき日になるな、レミア」
本当に良い一日だったな。
「そ、そうね。じゃあ寝ましょうか」
「あぁ、お休みレミア」
村人のお陰でいい感じに眠気が来てるな。明日からが楽しみだ。
「ぐぅぅぅぅーーーーー」
「はっ?えっ?寝ないの?」
「ぐぅぅぅぅーーーーー」
「ラルズのバカァァァァァァァァーーーーー!!」
ズッシャァァァーーー
「ぐぅぅぅぅーーーーー」
「もう、いっつも最後が締まらないんだから」
そう言ってレミアはベッドから吹き飛んで床で寝ているラルズの元に毛布を持って行き一緒にくるまって寝息をたて始めた。
その後二人の間には双子の娘が産まれ、幸せな夫婦としての道を歩み始めた。
ついでに言うと親友のピートも猟の途中で助けた行商人の娘と結婚し、今は妻と二人の子供と共に村で暮らしている。
幸福者の物語はこうしてフィナーレを迎えた。
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「これが一人目の男の話だ」
「只の惚気話じゃねえかよ、聞く意味有るのか」
「分からないのは、二人目の男の話を聞いて無いからかもよ」
嘘だ、俺はフラムとこの男の話から薄々感づいている。
正直聞かせるべきではないと思うが、聞かせないとこいつは納得しないだろう。
男がゆっくりと口を開き二人目の男の話をし始めた。
「これは二人目の男が二十代後半に差し掛かった頃だった………………」
次回男は何を語るのか?
そして王国の『亡霊』達はどうなっていくのか。
フラムの秘密が少し明らかに!




