シャヤクロの轟音
言語によって思考は制限される。
立ち上る熱気と、照りつける日差し。足元も、遠くで揺らめく景色も、その全てが黄土の単色であった。
右を見ても左を見ても、首を捻り振り返って見ても、同じ色がどこまでも続いているのみ。
空を仰げば雲一つない晴天の清らかな青に、神々しさすら感じる純白の穴が浮いている。
遠く。果ては一直線で二色が綺麗に分け隔てられる境界まで。
何も、ない。
砂漠のど真ん中に、私は立っていた。
まるで置き去りにされたかのように。
誰もいない不安感と孤独感。反して生まれる自由ゆえの解放感と、世界を独占したかのような全能感。
探検にでも行くような恰好をしていた。帽子の下では滲んだ汗が頭皮をふやかし、不快なむず痒さを生む。手を突っ込んだポケットにはコンパスがあった。確認すると正面はちょうど北を指し示している。
背負っていたザックにはミネラルウォーターと保存食がそれなりに備わっていた。
まるで、冒険にでも行けと言わんばかりに。
途方に暮れつつも、じっとしていられない性分だった私は歩き出す。なんとなく、北へ。ひたすら真っ直ぐ。
私の旅路が始まった。
歩き始めて数時間。暑い。
温くなった水を片手に、宛てもなく歩く。
何もないと思っていたが、砂漠には植物や小型の動物、虫なんかもそれなりには生息していた。
テレビで見たことのあるトカゲやサソリに出会うと、少しばかり親近感を覚える。そして孤独感が和らいだ。
歩き始めて数日。今日も天気が良い。
そろそろ何か見えてこないだろうかと遠くの方に目を凝らすと、薄ぼんやりとだが何かがあるのが分かった。今日はいつもより空気が澄んでいるみたいだ。
ザックから双眼鏡を取り出し覗いてみると、遥か前方に、白い塔が天を突くように聳えているのが分かった。
新たな目的を得た嬉しさを活力に、再び歩き続ける。
歩き始めて一週間が過ぎた。
遠くにあった塔はその姿がはっきり見えるようになっていた。着実に近づいている。
その日、ラクダを連れた行商人と会った。
曰く、ここから7日ほど歩けば"シャヤクロの塔"に辿り着けるそうだ。
だいぶ減っていた水と食料を分けてもらい、別れを告げ再び歩き出す。
6日が経った。
ようやく、私は塔に辿り着いた。
目の前に聳える塔は、直径100mはあろうか。見上げてもその先端はどこまでも伸びていて確認する事はできない。窓ひとつない真っ白な壁には傷も汚れもなく、真っ直ぐに空まで伸びている。
巨大な建造物は異質そのものだった。
正面に大きな扉がある。白い柱を唯一塔たらしめている物。
不思議な模様の装飾がされた、青銅製の扉。
ゆっくりと手を掛け、一歩を踏み出す。
中はどうなっているのだろうか。どうやって、このような巨大な人工物を作ったのだろうか。全く想像がつかない。
力を込めようとした際、ふと足が動かなくなった。これでは扉を開けない。
こんな広大な何もない世界で、これほどまでに巨大でいて唯一の存在。そんなものを一体誰が、何のために。
ピシッと、何かひび割れる音が聞こえた気がした。
一度手を放し、一歩下がってゆっくりと深呼吸をする。
なぜ、固まってしまったのだろうか。落ち着こう、きっと緊張しているのだ。
再び手を掛け、扉を開ける。
中身が、見たい。この塔の内部はどうなっているんだろう。気になる。
誰かいるのか。どこかへ繋がっているのか。
中身が見たい。気になる。
気になる。気になる、気になる。見たい。見たい、見たい、見たい、見たい。
何かが軋む、音がした。
タイミング悪く、ジジジジジと世界を揺らす爆音が響きわたる。
視界の全てが揺れ、そして溶け出すようにして霞んでゆく。
――あぁ。そうか。
私が知らないから、開かなかったのか。
何も なかったのか。
ボタンを押し込み、頭を起こす。
眠気はまだ残るが、とりあえず時間を確認する。午前7時。
会社へ行く時間だ。
私は立ち上がると、洗面台へと向かった。
なにか、夢を見ていた気がする。
でもどんな夢だったか思い出せない。
まぁ、いつもの事か。
鏡に映る私は、いつもの私だった。
想像によって世界は制限される。