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9月の気だるげな夕日にロボの出自を設定する


「そういえば、その白衣セーラ姿も久々ですね先輩」


「ああ、夏にやるのは流石に辛いからな」



 休み明けの試験が終わって一息ついて、さてそろそろ中間試験の勉強を始めなければといった9月を半ばを過ぎた頃。白衣セーラ先輩と、その後輩は夕日の光が差し込む部室内で互いの作品を試読していた。


 先輩の作品は6月に書き始めたリアルロボット物で一昔前に流行った学園ドタバタパニック物と軍事物を組み合わせたロボットライトノベルの金字塔と呼べる作品をオマージュしたと思われる作品である。



「しかし、飛ばしますか…… ズムウォルト級を」


「だってあれ、飛ぶだろう? いや飛ばさねば嘘だ」



 つまり先輩は作中で国連管理下の秘密組織である主人公チームが敵のテロ組織要する東系の空母を含む艦隊に取り囲まれたシーンでオーバーテクノロジーで強化されたズムウォルト級を飛行させたのだ。確かに飛びそうな形はしているし、作中で反重力と慣性制御システムを仄めかせていたので有り無しでいえば断然有りだと後輩は考える。


 ただ比較的丁寧なミリタリー描写を重ねてきたので人によっては超展開だと感じる可能性がある。



「しかし、君のは… なんだ、恋愛物か?」


「そういうのがあった方が喰いつきいいですしね」



 二台のノートパソコンを挟んだ向こう側でセーラー服の上に白衣を纏った先輩が赤面している。まぁ内容は特に特徴のない主人公が謎の黒髪ロングな先輩に導かれて巨大ロボに乗って戦うという一世代どころか二世代位古いライトノベルのテンプレ展開で進む物語である。


 しかし問題はそこにあるのではなく明らかにヒロインは細かいディテールこそ違うが、明らかに白衣セーラ先輩を意識した造形であり、それに対して好きだの愛してるだのと呟く主人公の台詞は間接的に愛を囁いているに等しい。



「その、なんだ。この前の夏祭りから思っているのだが……」


「なんですか先輩、はっきり言ってくれないと分かりません」



 赤面している先輩を愛でつつニヤニヤと笑う。別に虐めたいとかそういう訳では無い。ただこうやって先輩後輩以上恋人未満の関係でチキンレースをするのが楽しいという部分もなきにしもあらずなのだが実のところはここまで来ても断られたらどうしようと悩んでいるチキンでしかないのだが。



「その、なんだ…… 君は、その――」


「僕が、なんですか?」



 恐らく先輩の中では自分が自意識過剰なのでは? という疑念といや、ここまであからさまならば…… という気持ちとの間で綱引きが行われているのだろう。それを可愛いと思うのと同時に先輩自身が自分の事をどう思っているのか、傍から見れば確定的でも自分の事になるともしかしてと不安がよぎる。



「こ、この小説のヒロインと、主人公なんだが」


「なんだが?」



 先輩の顔が赤く染まっていく、このまま羞恥が蓄積すれば爆発して恥死しそうな勢いだと思った瞬間。バンッ! と机を叩き先輩は立ち上がって窓際にスタスタ歩いて――



「ここからどうなるんだ? 丁度くれた処が今と同じ真っ赤な夕日の中で次回に続くって感じだしな!」



 窓枠を掴んで夕日を見ながら話題を明後日の方向に切り替えた。もしくはその展開云々から踏み込んで行こうというつもりなのかもしれないが、踏み込みが甘い。折角だから切り払った上で一発かましてやろうとエリート染みた事を考えながら言葉を続ける。



「このままキスしてハッピーエンドだと思います?」


「えっ、その――」



 固まる白衣セーラ先輩、その背中に向けて後輩は一歩、また一歩と足を進めていく。



「えっと、待て。待って! その困る!」


「なーにが困るんですか?」


「何が困ると言われても困るが、困るのだ!」



 あと一歩、その背中に手を伸ばせば届く位の位置で後輩は立ち止まる。



「いや、そもそもあそこで終わりじゃないです」


「――なん、だと?」



 そして臨界まで張り詰めた空気をたった一言で砕いて潰す。限界まで引き絞られた糸の様なそれがプツンと切れる音が後輩の耳に届く。ここで踏み込むのも選択肢としてなしでは無かったのだが困るという一言が心の中にあるビームサーベルをあと一歩のところで止めたのだ。



「渡した処で章としては終わってるんですけど」


「いや、まて。あそこからどうやって展開する?」


「次章から並行世界編です」



 くるりとこちらを向いて問い詰めてくる先輩に対して言い放ってから細かい伏線を説明していく。



「そもロボがどこから来たのかとかそういうの全然作中で説明とかそういうの無かったですよね?」


「た、確かにそうだが。スーパーロボなのだからそういうものなのだとばかり思っていて――」


「そもそもスーパーロボットだからこそ出自の説明は無きゃおかしいんですよ」



 例えば古代文明の遺産、例えば天才科学者が作り上げた、例えば敵の技術を流用して建造された。基本的にスーパーロボットというものはリアルロボット以上に出自が明らかな物なのである。



「確かに、説明されればそうではあるが……」


「他にも、細かいところに伏線張ってるでしょ?」



 一つ一つ説明していくと流石にテンションが下がった事もあり先輩も納得してくれる。少し不機嫌に見えるのはからかわれたと思ったからか、それとも期待を裏切られたからか恋で煮えたぎっている後輩の頭では判断がつかない。



「しかしなんだ、その展開だと少々間延びするぞ?」


「しませんよ、あと3ヵ月。クリスマスまでには綺麗にカタを付ける予定ですから安心して下さい」



 そうか、という先輩の生返事に対し、覚悟しておいてくださいね?

と、後輩は心の中で呟きノートPCをしまうのであった。

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