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8月の夏祭りでヒーローロボに思いをはせる



「流石に浴衣白衣なんてトンでもファッションはやりませんか」


「一応白地で白衣っぽいものを選んでみたのだが……?」



 先輩は不服そうな感じで後輩のからかい半分の言葉で答える。白をベースとした浴衣に赤トンボが飛んでいる浴衣は普通の浴衣と比べれば可愛らしさは少ないが先輩らしいと感じられた。



「白衣っぽいかは兎も角として、似合ってますよ? 特に普段は見えないうなじが色っぽいですし」


「君は時々フェチズムが極まった言葉を吐くな」



 ウェーブがかった髪をポニーテールに纏めた先輩はいつも通りなメガネの下からジト目で後輩を睨みつけて来る。少々頬が赤く見えるのは夕日の残りなのかそうで無いのかは分からない。



「まぁ、男の子ですから。女の子と一緒に夏祭りに行くとなればにテンション上がりますしねぇ?」


「まったく、私を誘うなら彼女の一人でも誘えばよいのだ本当に……」



 数日前、文芸部のメンバーで夏祭りに行きましょうとという言葉に先輩が何も考えずにウンと言ってしまった結果がこれだ。部員全員で行く=幽霊部員を除けば二人きりで夏祭りに向かうという事実に先輩が気が付いたのは恐らく昨日の夜辺りなのだろう。


 それでも逃げずに来てくれて、その上でもの言いたげに自分を眺める視線を見る限り一定の成果は上げている。つまりはある程度こちらの意図も伝わっているのだと後輩には感じられた。



「残念、先輩より仲が良い女の子が居ないので?」


「ど、どいういう意味なんだそれは!?」


「そのまんまの意味ですけど?」



 一見するとクールに見えてロボットを語る時は熱くなる。そんな普段の様子とは全然違う焦りを見せる先輩を永遠にからかいたい欲求が湧き上がるが、それでは拗ねられる可能性があると無理やりそれを押し込める。



「じゃあ行きましょう、まだ花火までは余裕ありますし」


「え、ちょ!? ま…… 手を!?」



 先輩の手を握って祭囃子の流れる神社に向かって歩き出す。入学してずっと振り回され続けて来た訳で偶には好きな相手を振り回すのも悪く無い。そんな気分で夜店が並ぶ境内に足を踏み入れていく。



「いや、ほんとにまだ心の準備が――あっ!」



 ずんずんとかき氷かリンゴ飴でも買おうと進んでいくと先輩の足が止まって次の瞬間逆に引きずられてしまう。無理やり抵抗すればどうにでもなりそうだが、先輩が怪我する可能性があると思えばそんな無茶は出来ないしする意味も無い。



「ほら、このお面! 懐かしいなぁ! 日曜朝の顔だぞ! 私が小学生の時にあってた奴だ!」



 お前だって知ってるだろう? とキャピキャピとお面を指さし満面の笑みを浮かべてはしゃぐ先輩。そこにあったのは日曜の朝に5人で一人の怪人をリンチしていると一般人からは見られているが、意外と戦闘員がいっぱいいるので不利なのは味方側である戦隊ヒーローが駆るロボットの面が飾られていた。



「冒険する奴でしたっけ?」


「もっと新しい」


「なんかいっぱい出て来た海賊の?」


「もうちょっと古い!」



 むぅ、と頬を膨らませるのを見て主導権を奪われた事に気づくがもう遅い。こうなってしまうと止まらないと半年弱の時間で良く理解出来ている。そもそも深い興味を持たないと戦隊ヒーローに出てくるロボを顔だけで区別するのは難しく、どちらかといえば特撮よりアニメ派な後輩は先輩お気に入りなお面のロボの名前すら分からないのだが。



「よし、足りん愛を補う為、明日から一週間くらいずっと戦隊ヒーローマラソンだぞ? 覚悟しておけ!」


 

 そんな後輩の良く分からんですオーラを感知したのか、ふんすと気合を入れて先輩が妙な予定を組み立て始めた。こうなると止まらない事はこれまでの付き合いで良く理解している後輩はそれでもささやかに無駄な抵抗を試みる。



「僕らは文芸部であってそういうオタ系の活動をしている訳じゃ無いんですけれどその辺については?」


「そんな話、私の部長権限で跳ね除ける!」



 ああやっぱりダメだったよと明日から始まるであろう延々と特撮を見続ける日々を覚悟する。後輩自身戦隊ヒーローを幼稚だとか、嫌いだとか、そういう訳では無い。けれど起きてる間ずっと見ていられる程好きでは無いのだ。


 当然ただ見続ける訳では無く宿題や休み明けテストの勉強と並行して行われるのだが、途中で先輩が感想を求めて来る為、ハンパに見ながら適当に相づちを打つわけにもいかない。まぁ勉強していなくとも楽しそうな先輩の方に集中して結局内容が頭に入らない事が多いのではあるが。



「じゃあ、まぁそうですね…… おじさん、これ下さい」



 二人のやり取りをニヨニヨと眺めていた売り子のオジサンに800円を払って件のお面を購入し、あっと驚く先輩の頭にひょいとそれを斜めに被せてしまう。一般人から見ればかなりシュールな光景ではあるが、先輩が結構な美人である事を含めればギリギリ許される・・・・・・ のかもしれない。



「えと、その…… ありがとう」



 突然の事態に先輩はそのお面で顔を隠した。恐らくは赤面する顔を自分に見られたくないのだと察する事は出来るがやはり高校生2年生の女の子が戦隊ヒーローロボの仮面を被るのはかなりシュールで無理があった。



「明日からちゃんと戦隊ヒーローマラソンします。だけど今は折角だから夏祭りを楽しみましょうよ?」



 しかし好いている相手であればその程度あばたもえくぼという訳で、そんな言葉に先輩は、ロボットの面を付けたままコクンと頷く仕草は後輩から見れば途方もなく可愛らしく見えるのであった。


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