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7月の海で怪獣物にでるロボットについて考える



「先輩、トレードマークの白衣はどうしたんですか?」


「海の家にあるロッカーまでは持ってきたが、流石に思い直して着るのを止めた」



 7月3番目の日曜日、白衣セーラ先輩と後輩の通う高校は既に夏休みに突入していた。

 補講や夏期講習に関しては現在ビキニの上からシャツとパレオを纏った先輩も、迷彩ショートパンツとゴーグルな後輩も期末テストの学年順位はトップ30には入る程度には優秀なので特に問題は無い。



「しかし先輩、お約束でスクール水着位は着て来ると思ったんですけど…… ネタ力不足してません?」


「最初はそうしようと思っていたのだがな、冷静に考えると無いなと白衣と一緒にロッカーの中だ」



 そう呟く先輩の水着は黒でフリルの付いたビキニの上に白いシャツであり、チラチラと見える胸や太ももが逆に煽情的で後輩は目をそらす為シートを広げることに専念する。広げたそれの中央に穴が開いたにパラソルを突き刺す。速攻で海の家に併設されたフードコーナーに突っ込んで酒を飲んでいるダメ教師の車で持ってきたビーチセットは傍から見るとドンヒキするレベルで整っていた。


 当然クーラーボックスも用意されており、中にはキンキンに冷えた炭酸飲料が詰まっている。



「先輩が白衣を着ないとか、完全にキャラ崩壊じゃないですか」


「私の個性は白衣だけでは無い。むしろ私の本質はロボットスキーな女子高生と、そういう部分にある」



 早速先輩は持ってきた浮き輪を椅子の代わりにしてサイダーをシュワシュワと楽しんでいた。格好もさることながら今日は泳ぐことを優先してか、コンタクト着用でメガネ無し。好きな相手の新たな一面にドキドキしている部分はあるのだがそれを隠し通す程度には後輩の面は厚い。もっともそう思っているのは本人だけで、傍から見れば惚れているのは明らかなのだが先輩の方が鈍感なので大した問題は無い。



「で、そんなロボスキーな先輩は海で何を語るんですか? 水陸両用機とか? それとも潜水艦による強襲揚陸作戦とか? ああ、マイナーですけど空母から出撃するロボについて語るのも良いかもしれませんね」


「いや、そのどれでも無い。今日の話題は怪獣だ」


「怪獣ですか?」



 確かに怪獣とロボットの相性は悪く無い。ハリウッド発の巨大ロボット物の敵役は怪獣だし、昭和のスーパーロボット達は皆怪獣達と戦っていた。ついでにちょっと古いが警察用のロボットだって怪獣と戦う話があったと後輩は考える。



「そう、怪獣だ。最近マグロ食って無い奴がハリウッドで映画化された怪獣とかそういう方向だな」



 そして炭酸飲料を片手に、ウキウキしながら先輩は語りだすが後輩は微妙に自分が持っている知識から離れた話の内容についていけなくなってしまう。一応怪獣王のシリーズはそれなりに。21世紀生まれの子供としては見ている方だという自負がある。だがノストラダムスがやってこなかった歳に生まれた先輩と比較するとまだ甘い。


 というよりも2~3歳の頃から怪獣王的な映画をを見るという英才教育を受けてた先輩に勝とうというのが厳しいのだ。ロボットアニメならともかく、特撮関係の知識はそれこそ先輩から借りた分以外だとそれこそマグロ食ってる米国産か、食って無い方の米国産しか見た記憶はないレベルでしかない。



「あんまりロボットが出てるイメージないんですけど?」


「いやいやいや、怪獣に対して巨大ロボで戦いを挑むのは日本特撮の伝統と言っても過言では無い!」


「炊飯器や陸の空中戦艦の方がメジャーでは?」



 ゴールデンウィークの3日間耐久ロボット物合宿で見た怪獣王シリーズの内容を思い出しながら反論を試みる。確かに三首竜との決戦以後、怪獣型巨大ロボットという存在が増えている。だが後輩的にはあれは邪道なのだ。ロボでは無い。正確にはロボの文法で動いていない。方向性としては怪獣でありその動かし方は戦艦のそれに近いと認識してしまうのだ。


 そういう意味では最初からそういう物だと割り切って見れる炊飯器や陸軍の空中戦艦の方がずっと好みであり、もしくは最終戦争のドリル戦艦も悪く無い。



「確かにメジャーかもしれんが、私は好きなのだ! あの怪獣という存在を自らの制御下に置くというコンセプトが! 特に骨だけ使ってみたというパターンが良いな、未来人が作ったあれは生ものが多すぎてちょっと好みから外れる」



 そう言い切った後、先輩はごくごくと炭酸飲料を飲みほした。ぷはぁと口を放した瞬間、頬から汗が落ちてそのまま胸元に流れて消える。ついその行方を追ってビキニに包まれた谷間に視線を向けてしまった後輩は自分の男性的な欲求を恥じてゆっくりと明後日の方向に目を向けた。



「まぁ、細かい好みをぶつけあっても益はありません」


「確かにそうだな。話題を変えるか」


「それで、我らが担任はいつこっちに来るんですかねぇ?」



 後輩は海の家に目を向ける。一応この海水浴は部活の遠征という名目なのである。実体としてはダメな飲んべぇな教師がビールを飲みまくり、高校一年生な男子と、二年生の女子が水着でデートしているようにしか見えなくとも遠征なのである。よって一通り飲み食いが終わったら、これらのビーチセットの監視を任せて海で泳ごうと考えていたのだがこの流れだともう暫く海に入るのはお預けになるパターンであった。



「まぁ折角だし水遊びする前に海を見ながら怪獣とロボットについて語るのも悪く無いと思わないか?」



 そんな風に浮き輪の上で楽しそうに笑っている先輩を見ると、まぁ彼女に惚れている後輩としてはハイそうですねと苦笑いする事しか出来なくなってしまう。因みに酔いどれ教師が生徒二人の処にやって来たのは午後三時で、それまでの4時間、先輩と後輩が怪獣とそれに付随するロボットについてやんややんやと語り合う羽目になったのだが。


 割といつも通りな展開であり、三人が全力で楽しんだという事だけは間違い無かった。


 

 なお7月最後の日曜日に、日本中を震撼させるシリーズ最新作が公開され、二人も大いに感想を言いあうこととなるのだがロボットについて語りつつ二人の行く末を描くこの物語とは関係のない話である。

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