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6月の雨の中で口径を考える



「60㎜バルカン砲というものがあるが、M61バルカン砲は20mmであり宇宙世紀でゼネラル・エレクトリック社は新バージョンとして大口径にしたのだろうか?」


「そりゃステープラーをついついホッチキスって呼ぶのと似たようなもんなんじゃないですかね。作品の設定を作ってた時期は正確な情報は手に入らなかったんでしょ」



 しとしとと降る雨の中、今日は珍しく白衣セーラ先輩は古いブラウン管にロボットアニメを映すことなくPCを開いて何かを打ち込んでいた。恐らく新作の設定でも練り込んでいるのだろう。



「つまりホチキスは針でガチャンと物を固定する為の装置その物ではなく商品名だったというのか?」


「正確には製品を作っていた会社の名前ですよ」



 ふとテレビの方を見やると、今日は三毛猫はいなかった。大方もっと居心地のいい場所でゴロゴロしているのだろう、ふてぶてしい顔の彼女は今学校にいる3年生より長く在学中なので、ここ以外にも沢山居心地の良い場所の知識があるのだ。



「まぁ、それは興味深い知識だと思うけれども今私が語りたいのはそういう部分では無い」



 セーラー服の上に白衣を纏った先輩はパタンとノートパソコンを閉じて、向かい合ってカタカタキーボードを叩いている後輩の見つめる。メガネの内側にある黒い瞳は真剣で、そこそこ美人に分類出来なくもない顔と合わせて彼女の事を詳しく知らない人なら告白でもされるのかとドキドキするかもしれないが。ここ2カ月の付き合いで大体どんな人間なのか把握している後輩はそんな勘違いはしない。



「つまり、私が議題にしたいのはロボの装備する火砲はどの程度が丁度良いのかという類の話だ」


「まず気になるのはロボットのジャンルですね」


「ジャンル…… 大きさや目的では無いのか?」



 しとしとからザーザーに変わった雨音の湿気で重くなっている先輩の髪を愛でつつ、後輩は書きかけの文章を保存してからノートパソコンを閉じて語りだす。



「ええ、スーパー系なのか、リアル風味なのか、それともガチでリアルなのかという分類が」


「ああ成程、スーパー系ならそれこそ荒唐無稽な口径にした方がそれっぽく見えると。副砲が46cm砲だったりするとインパクトが出て来るという理屈は理解出来なくもない」


「ええ、頭が悪い位の方が映えますからね」



 最も本気で適当に設定すると明らかに機体に搭載できない量の火砲が乗ってしまう事になるので、最低限ラクガキレベルでもどれくらいの砲をどこに装備しているのか決めていた方が良いのだが。

 実際に51cm砲を全身に30門装備しているスーパーロボットを考えてそれを主役に物語を進めたのは良いが実際どこに砲門が取りつけられているのか説明出来なかったのは彼に取って苦い黒歴史である。



「じゃあそのリアル風味とガチリアルというのは?」


「リアルを見せたいのか、リアルにやりたいのかの違いです。この辺りは私見なんですけれども――」



 つまり後輩の言いたい事を簡単に纏めてしまうと、口径や型名を設定することでリアリティを出すことを目的にしているのが風味。現実に存在する兵器の名称や口径をそのまま持って来ることでリアルに近づけることを目的としているのがガチリアルであるという事になる。

 もっともこの内容自体、その場で思いついた内容を適当に口走っているだけで、本人は梅雨の鬱陶しい湿気に負けて少し開いた先輩の胸元からチラチラ見えているブラジャーに意識を集中させているのだが。

 だが先輩の方は話題に意識を傾けてしまっている為、後輩の不埒な視線には気づいていない。



「つまりどちらにしろ作品にリアリティを出す為にそういう部分まで設定しているという事なんだな?」


「ただ注意したいのは些末事に拘り過ぎて、物語を進めるのを忘れては本末転倒って事くらいですか」



 話を続けながら後輩は自宅のPCに眠っている黒歴史に意識を向けた。機体関係の設定だけで100KBを超えるテキストファイル。個別の機体に関するデータを含めれば有に300KBを超える設定の山。

 ただし細かく決め過ぎた設定に縛られ、筆が進まず結局HDの肥やしになってしまっているのだが。10年後それを開いた時に黒歴史だと後悔するのか、それとも意外といけると流用するのか、もしくは懐かしいとこの日々を思い出すのか。


 出来れば2番目でありたいと思うが、白衣セーラ先輩によって文芸部に入部しなければ、自分はここまでロボット物について考えていなかった事を考えるなら。まぁ10年後も先輩が隣に居てくれるなら、自分はその黒歴史を一番今の自分が望んでいる気持ちで見ることが出来るのだろうが。



「ん、どうした後輩? 8m前後のロボットにはどんな火器を持たせると自然なのか一緒に考えてくれ」


「あー、ハイハイ。それで速度や装甲はどれ位を想定してます? 特殊能力とかも気になりますけど――」


 コピー用紙を取りだしてその上にペンを走らせていく。普通なら菓子やコーヒーがあると良いのだがこの二人がロボットについて語る時には必要ない。6月の雨すら蒸発させる熱量で二人の会話は教師が見回りに来るまで続くのであった。



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