第3話 Ⅷ合わせ
第3話
Ⅷ合わせ
2015年秋、ついに発足したレジストの本部はアセルドロイドは海から出現していることを考慮し、
第1線で戦えるように、茨城県の鹿島に本部が設置された。都心からの良い距離感も要因の一つらしい。
新調された本部の門をくぐる若者達がいた。この春自衛隊に入り、研修を終え、レジストに配属される
人々だ。その中の一人、「ペルクス」彼がこの叙事詩のキーパーソンだ。
彼は東京都の病院が運営する児童養護施設で育った。彼には父の記憶も母の記憶もなく、物思いがついたころには
その施設の中にいた。施設の人間に自分の出自を聞くと、自分は捨て子でこの施設を運営する病院に勤める
外国人の客員医学教授が拾って連れてきたという。彼はその外国人の医学教授に会いたいと何度も施設の人間に
懇願したが、もとの国に戻り連絡がつかないと言われた。
「ペルクス」という名はその外国人が勝手に呼んでいたようで、ペルクスは自分の名付け親に会いたかった。
児童養護施設で普通より少しいいくらいの学校で育った彼にとっては日本人離れしたその名前だけが彼のアイデンティティになっていた。
ペルクスはこの春から茨城で一人暮らしを始めていた。何故か防衛省に入った時点でレジストに配属されることが
決まっていた。どうせ新人だから新部署の人数合わせ兼パシリになるのだろうと思っていた。
「え?俺がこれに乗るの?」
彼に伝えられた部署は「アセルデストロイヤ操縦班」だった。テレビでしか見たことのないアセルデストロイヤを
生で見ただけで驚いていた彼は驚きを隠しきれなかった。
「あなたには今から操縦訓練をしてもらいます。」
指導担当の今野玲菜にいわれるまま配属1日目でアセルデストロイヤに乗ることになった。
「うそだろー?」
そのまま彼は言われるまま彼は本部の裏のグラウンドに連れていかれアセルデストロイヤの上半身の人型の部分にすっぽり入った。
乗ったというより、鎧をつけたようだ。操縦席はコックピットといえるものもなく、体中に心電図検査のような
吸盤がつけられた。
「オペレーターの一ノ瀬弘人です。聞こえますか。」
「はーい、しっかり聞こえてますよ」
「同じく二宮文香です。もっとしっかりしてくださいよ」
二人の初対面のオペレーターにもこの口調のペルクス、同じ年代とはいえ、さすが児童養護施設で様々な年代の
子供たちと一緒に暮らしてきただけはある。
「一ノ瀬です。まずは進んでみましょうか」
「二宮です。歩くジェスチャーでいいですよ」
「下はランニングマシンまんまじゃん・・・クローラーのくせに超はえーーー!」
アセルデストロイヤに乗ったペルクスはクローラーの速さに感動している。
それもそのはず、アセルドロイドの機動力に対応できるように戦車のものより倍速は出る。
「次は射撃試験ですよ、その前に適当に腕を動かしていてください。」
「右手パー、左手チョキ!」
「したぞ」
「オッケーです。」
アセルデストロイヤは装着者の上半身の動きをそのまま出力できる。
彼は腕を振り回したり、振り上げたりした。
「緊急警報!緊急警報!本部前の海からアセルドロイドが多数出現!・・・特殊型ありです!形は正八面体!」
「一ノ瀬です正チーフ!聞こえますか!」
すぐさまオペレーターの口調は真剣になり、責任者の今野正に連絡がいった。
彼はアセルデストロイヤの出撃、砲撃の許可、すべての責任を仕切っており、レジストは彼の一言で動く。
「正さんどうするの、まだ訓練始まったばかりなのに」
「玲菜ここではチーフと呼べ、ここはプライベートを持ちこめるところではない」
「わかったわ、早くみんなに命令して」
「こちらチーフの今野正だ。ただいまから緊急フェーズに入る。訓練中だが全アセルデストロイヤの外部出撃、砲撃を許可する。
ただしMarkⅡの指令はオペレーターではなく私自ら行う。オペレーターは各組織への連絡を取れ、他は訓練通りだ」
「「了解」」
「これがMarkⅡで”全”ってことは他にもあるのか?」
ペルクスの独り言はオペレーターをはじめとする多くの人の”了解”にかき消された。
彼はまだ自分が第一戦で戦うことを認識しきれていなかった。
「オペレーション変わった今野だ。今から私の指示に従ってアセルドロイドを討伐してもらう」
突然違う声が流れてペルクスは驚いていた。
「そのまま本部の前に向かえ、」
グラウンドから本部を横切り、本部の前に出た。
そこにはすでに100体ほどのアセルドロイドがいた。
「そこにある銃型のユニットをとれ、」
「わかっ、わかりました。じゃあ、撃ちます」
彼が狙いを定めるモーションをとると、アセルデストロイヤも同じように動く。
そして一発目が撃たれ、一体のアセルドロイドの胸を貫いた。
しかし穴はすぐにふさがった。
「核撃てばやられんじゃないのかよ!」
「最後まで聞け!核は胸にあるとは限らない!まずは一度赤いレバーを引いてそれを撃て!」
言われるがままに撃つと、赤い弾がアセルドロイドに命中し、頭の部分だけが赤くなった。
「その赤いのが核だ、あとはさっきみたいに撃ち抜け!」
弾はアセルドロイドの頭を貫き、緑色の液体に還元した。
そのまま彼は赤い弾と普通の弾を撃ち続け、倒していった。
「ちくしょう、数が多すぎる!」
「聞こえるかか新人!」
また聞いたことのない声が彼の耳に入ってきた。それと同時にもう一台のアセルデストロイヤが現れた。
彼が見たアセルデストロイヤは彼自身が乗っているものと大差はなく言えた。
違いを言うなら彼の機体は迷彩色だが、その機体は赤かったことである。
「まとめてやっちまうぜ!チーフ!拡散オルセイン弾の許可よこせや!」
「いいだろう、redの拡散オルセイン弾を許可する。MarkⅡいったん離れろ!」
ペルクスは一瞬自分が呼ばれていることに気づかなかった。
「あ、俺か、了解」
「一応メインは真ん中の人じゃない奴!拡散オルセイン弾発射!」
赤い弾が正八面体の特殊型にあたり、爆発、あたりにいたアセルドロイドもろとも、核の
場所が記されていた。
「新人!赤いマト撃ちまくれ!」
「了解!」
二人はアセルドロイドを一体一体倒していった。
「雑魚は全部片付いた!ってあれ?」
そこに正八面体はなかった。