第三脅威の勝因 / do not disturb その2
……副大統領、ジェイサン氏がお見えになられておりますがいかがいたしましょう。
わしが呼んだのだ、通せ。
失礼いたしました、只今。お通ししろ。
お久しぶりですね、スドウさん。
おおジェイサン、よく来てくれた、さあ掛けてくれ。
聞きましたよ。結構派手にやってくれたみたいで。
あの声明の件か、そうだな。しかしいずれはやらなくてはならないことだ。むしろ良い機会だった。
あれはスドウさんが?
そうだ。わしが直接命令した。害虫はたとえ小虫であろうとも徹底的に駆除する。下級民には見せつけてやらねばならん。
それで、わざわざ私を呼んだのは、やはりその件ですか?
すまんな。極秘裏に事を遂行してもらいたくてな。
そうですか。では内容を簡潔にお願いします。
まず、先のファスークス爆破についてだが、貴様のところの指示通りの場所をくまなく探してみてもそれらしきブツは見当たらなかった。
と、言いますと?
部屋自体は破壊されて開放されていたが、中の『石像』は粉々に砕けていてそれ以外にめぼしい物はなにもなかった。
そうですか。我々もあの後、調査隊を向かわせましてね。やはり結果は同じでしたよ。あれは我が社の技術をもってしても傷一つ付けることが出来ない代物でしたから、何者かがあれに気づいて持ち去ったか、あるいは……。
自分の意思で逃げたか。
迂闊でした。ああなる前にもっと投資して精査するべきでした。ま、今となってはどうすることも出来なさそうですが。
あれを知っていた者はいたのか。
さあ、私と創設時のメンバー数人以外は知らないはずです。
そいつらは漁ったのか。
はい、というかですね。妻以外はもうこの世にはいません。もちろん私の妻は持ち去ってなどいません。
確証はあるのか。
我々は常時お互いを監視していますから。現代夫婦の関係維持には手間を要します。スドウさんもどうです? 良かったら紹介しますよ。
いいや、結構だ。しかし情けないものだな。自社の宝石箱の鍵を失くすなんて、ジェイサン、君らしくないぞ。
返す言葉もありません。これは全て私の失態です。
それで、これからどうするんだ。
実は、スドウさん……副大統領にお伝えしなければならないことがあります。
どうした。急にあらたまって。
我が社に宣戦布告した組織なんですが、あれは本当のところ裏で通じているんですよ。
おいそれは初耳だぞ。ということはつまりあの電波ジャックは、なにか?
はい。綿密に打ち合わせをしました。
ナヴィガトリア、と言ったか。そやつらも相当のタマだな。
そうですね。しかしそれも表向きにです。互いにまだ牽制し合っているというのが正直なところですので。
目的はなんなのだ。まさか奴等もあの秘密に気づいたというのか?
半分がそうで半分は分かりません。クリーツ社としては宣伝に利用できればあとは用済みです。なので、この場を借りて陳謝したいと思います。
政府の力を利用したか。結果論であれ、やるべきことを了承し実行したまでだ。今さら謝る必要はない。しかし、あれに気づいてしまったか。実際どうなのだ、このまま放置していたら増幅することはあるのか?
どうでしょうね。彼らのような突出者がクリーツを否定するようなことがあれば、それは本当の戦争に発展するかもしれません。なので我々は近く彼らと協議の場を設けることになりました。
ほう、それで?
まずは停戦に向けて双方の意見を交わします。おそらく奴等はクリーツ世界と現存世界の完全分離化を求めてくるはずです。クリーツ世界、つまり形のない生命を持った人の世界は、物質世界からの破壊行為を最も恐れています。
知っておる。だからクリーツには守る者が必要になる。
そうです。ですがそれも恒久的な社会平和を保障するものではありません。クリーツの中の『器界』の民は物質世界よりも強く粛清を欲しています。可能であれば全ての魂を器界へ送りたい。ですが実際その希望は叶わないでしょう。私達が本当に守らなければならないのは器界の民の安全などではなく、クリーツそのものでありますから。
なるほどな。要は近づいて、おびき寄せて、叩く。最終的にはそうするしかないと?
少なくとも私は神ではないし悪魔でもない。彼らにはありのままを伝えて選択させるつもりです。
平和的解決か。わしもそろそろ大統領の後を追わねばならなくなってくるな。この時代はとても分かりにくい。荷が重いのだよ。
いつでも申し出てください。出来れば静かなうちに、よろしくお願いします。
そうか。ワイフと相談しておこう。
話を戻してもよろしいですか? 副大統領。一つ頼みたいことがあります。
なんだ。
ナヴィガトリアとの会合の場所を政府のほうから準備していただきたいのです。
意図はなんだね。まさかまた公共に流すのか。
その逆です。極秘裏に行うためです。外部からの介入を一切閉じた状態でやるために政府の力をお借りしたいのです。
具体的にどうすればいいのだ。
我が社が準備した者達の個人情報を一時的に抹消してほしいのです。理由は単純です。
証拠隠しか。
そうです。ファスークスの時と同じ手順で構いません。これが出席者のリストです。
これだけか。よろしい、すぐに手配させよう。
よろしくお願いします。
あとはなにかあるか。
ありません。では今日はこの辺で失礼させていただきます、副大統領。
使いの者がじきに行くだろう。
いいえ、今回はこちらで準備します。
そうか、ならそうしてくれ。
では。
頼んだぞ。
……失礼いたします。
……。
録れたか。
今確認中です。
しっかり保管しておけ。
承知いたしました。
いずれあいつは世界を乗っ取りにくる。わしの勘がそう言っている。くそったれが。今に見てろ。その影結いだかなんだか知らぬが財団もろともわしの最強兵器で微塵にしてくれるわ……。
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……録れてるか、マイヤーズ・マスター。
はい、クリート社長。
よろしい。では、行こうか。
はい。
その前にどうだ、ここの近くにおいしいパンケーキ屋があるんだが寄っていくか?
わたくしは、その、甘いものが苦手でして。
正直でよろしい。では今日のところはお預けにしよう。
すみません。
いいよいいよ、ところでマスター。
はい社長。
最近君が勧誘した新人の様子はどうなんだい?
はい。順調です。
うんうん、そうじゃなくてさ。
と、申しますと。
甘いもの大丈夫なのかな?
すみません、あとで確認しておきます。
あ、そうなの。へえ、そうなんだ。そうかそうか。確か若い子だったからたぶん大丈夫だよね? どうしようかな、一人で行っちゃおうかな。
あの、お付き合いします。
ええ? いいよ。だって嫌いなんでしょ?
はい。そうですが。
君って本当に正直者なんだね。今時珍しいよ。
まことに、恐縮です。
じゃあ私も君に倣って行こうかな。ああいいよ、一人で行ってくるから。先に帰ってて。いろいろ準備があるでしょ。
はい、それでは失礼します。
……ジェイサン・クリート。異常なし。
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