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静かなる宣戦布告 / nomad full stun その2



 次の日から早速彼らは動き出した。真っ先にナヴィガトリアのアジトへ向かう前にリネンやコトリの安全を考えて慎重な準備を整えた。

 リネンの顔は以前の報道のものと判別されぬよう変えられた。エルノウは前に施した時と同じ方法を用いると神経を常時リネンに向けなければならないため別の方法を選択する。それはコトリの協力を経て完成した変装という物質的な変化だった。

 続いてコトリについてはやはり彼らと行動を共にはしないという結論に達した。守るべき対象が二人になると彼らの攻守が安定しないことが最大の理由だった。コトリは彼らの帰る場所を守る存在として重要な役割を担うことになり、ポチは彼女の自宅に防衛の術のようなものを施して屋内の安全を確保した。



 エルノウとポチはそれぞれこの時代の常識的な情報収集に動いた。二者はそれほどに『今』に疎く、いかなる情報でもとにかく掻き集めて即座に対応しておきたいと思っていたのだった。

 互いのことを少しずつ分かり合いながらも言及を避けるような距離を保ち、歩き回った。あるいは彼らのどちらかが歩かずとも移動できたのかもしれない。しかし彼らはそれでも無駄に歩いて目に移るものを捉えていった。



 ポチは主に世界に起こった歴史を調べた。この世界は多くの情報通信を電気的な処理で管理していたため対応可能なポチの機械の身体は機能的に閲覧することが出来た。またエルノウはこの世界の文化に応じた全般的な知識を集め吸収しているようだった。彼の場合は情報の正確さというより直に触れることで直感的に真実に辿り着こうとしていたのかもしれない。



 双方は最終的に全ての情報を共有しなかった。興味の方向が違うためそうする必要がないと判断したからである。ただし彼らの考えている方向についてはほとんど同じであった。これはポチとエルノウが思うところを照らし合わせただけではなく、彼らの非凡な知識が世界という普遍的な物事に対して当然の疑問を抱いたからだった。



 このままではこの星は滅びる、と……。



「ところでロボ君、君は確か長いことこの世で活動しているんだってね」

「確かにそうだが、いきなりどうしたのだ」

「この世の中のこと、どう思ってるのかなあってさ。だってリネンちゃんから聞いたよ。最近目を覚ましたばかりでここのことなにも知らないって。でも経験豊富なんでしょ、なんでもお見通しなんでしょ?」

「おぬしのような訳の分からん者に言ってどうなるのだ、と思っている」

「もう、いじわる。そんなこと言わないでよ。ロボなんでしょあんた」

「そういうおぬしはどう思っているのだ」

「そうだね、一言で言い表すなら、欲望の絶頂、かな」

「例のクリーツのことか」

「記憶情報一時保管システム、クリーツ。今、世の中の全てがこいつに翻弄されつつある。もちろんそうじゃない人もいるみたいだけど。あとはあれ、宗教が無いことかな。これも危険だと思ったね」

「確かに。我もそれは思った」

「おう、はじめて意見が合ったね、うれしいね」

「宇宙の真理の代替に相当する思想が抜け落ちた時代はじきに発狂する。しかもこれが内部起因であった場合繋ぎ止める手段はない。その先は自己崩壊しかないだろう」

「内部起因?」

「同星人だけでそこに辿り着いたということだ」

「はあ、なるほどね、深いね。つまり本来は異星人の襲来によって起こる発想だと」

「おぬしは確か」

「同星人、だと思うよ、たぶん絶対そうだよ」

「本当か?」

「そんなあんたはどうなのさ」

「私は長い間生まれ故郷に保管されていたらしい。あくまでも残存している基礎データとの照合によるものだが」

「この時代のことよりもあんたは自分のことをもっと調べたほうが良いような気がする」

「全くだ、しかし記録がどこにも残っていない」

「もしかしておたく、単に壊れているだけなんじゃないの」

「ではおぬしが見ているこれは、アイテル思想を知っている壊れた機械人形ということになるな」

「あのおまじないのことね。そうだったね、やっぱりあんた本物だよ」

「もう否定しないのだな」

「いずればれるでしょ。それになんかさ、あまり信頼されてもいないのにリネンちゃんについて行くのもおかしいでしょ。悪いなあと思ってさ」

「我はこれからもおぬしのことは少しも信頼しないつもりだが」

「やっぱり意地悪なんだから、もう、ロボのおじさんったら」

「エルノウ、我がおぬしを引き離さない理由は一つだ」

「なんでしょう」

「敵にするよりも味方にしておいたほうが安全だと思ったからだ」

「え、この俺が怖いの? だって記憶がないんだよ」

「そんなことを鵜呑みにしているとでも? 例え本当に抜けている記憶があるのだとしてもそれによって不足することなどないだろう。おぬしが求めているものはアイテル理解よりももっと大事なもの、つまりこの星の未来に関わってもおかしくない重要な秘密である可能性がある。いや、この話はもうやめよう。リネンのためにならない」

「そういうおじさんはなにを求めているんだい? やたらとリネンちゃんに拘っているようだけど」

「我は過去にしてきたことを繰り返しているだけだ」

「回りくどい。きっとリネンちゃんにもそう言われる日が来るよ。もう来てるかもね」

「仕方がないな。我はその昔、様々な星の危機を救ってきたのだ。かつて同じ肉体を持っていた種族の永続を願い、心の思うままに動き、結果そうなったというだけだが」

「いきなり壮大な話になっちゃったね。そして実に正直者でもある。今の俺にそんなこと話しちゃっていいの?」

「リネンにはもう話したし、そもそも誰かに隠すような事実ではない」

「すごい自信だね。じゃあ、本名は?」

「ミスティリエ・ロマンズ・ローズだ。ただし信じるかどうかはおぬしに任せる。それに我にはポチという名前がある。おぬしもそう呼んで構わないぞ」

「ごめん、なんかポチは恥ずかしいや」

「そうか、それは少し残念だ」


 ポチとエルノウは目的は違えどこの地球という名の星を守ろうと考えていた。そしてその鍵を握っているのがリネンというなにも持たない人間かもしれないという予感があった。

 彼ら『二人の経験者』は確信とまではいかないものの、この時代になにかを感じずにはいられなかったのである。




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