一人きりの終局 / the answer to the shame
「……社長。準備が完了しました」
『ご苦労さん。こっちもね、いろいろ大変だったよ。なかなか言うことを聞いてくれなくて』
「ということは、無事に済んだのですね」
『ああ。副大統領がとんでもないブツを向けてきてね、あれには難儀したさ。仕方なくあらかた開示したら即決で移行してくれたから良かったものの、決断を誤っていたらまず死んでいただろうな。なんにせよ、これで文明の主導権は我らに移ったわけだ』
「そうですか、社長のことですからなにも心配はしていませんでしたが、ひとまず安心しました。それで、こちらの件ですが」
『それに関しては前に指示したとおりでいいよ。彼らの未来はもう防ぎようがない。その点は客も理解してくれているから、除外対象として始末しちゃって構わないよ』
「取引はこれで成立したということですか?」
『不毛ではあるがね。これが人類にとって最良の選択になるとはなんとも情けない話だ。負の遺産があってこその現在だが代償まで人類全体が背負う必要はない。うちらがやるしかないのだ。たとえ悪役を演じ続けてもね。なんとも儚い結果だが、この現実を受け止めるしかないよ』
「最後まで、お供いたします」
『本当にすまないことをした。君もさぞかし辛かっただろう』
「……あなたは正しいことをしたまでです。わたくし達は必ず未来の正義になる。この星が奪われようとも、肉体が奪われようとも、人類は絶対に負けない。ですから、いつか必ず取り戻しましょう!」
『お互い、すぐ見つかるといいな』
「社長、いや、ジェイサン・クリートさん。あなたに出会えて、本当に幸せでした」
『私もだ。あとは頼むよ』
「はい。魂を込めて、封じ込めます」
『アレは、出来ることなら使いたくない。これが最後の通信であることを祈る』
「お任せください。それでは、奴等がそろそろ来るみたいなので」
『また会おう』
「必ず」
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「これが、クリーツの心臓部なのか」
「なんなんだ、これは」
広大な敷地の中心に十メートル程はあろう円筒状の建物が屹立していた。周囲に柵も警備もない静かなこの場所が、他にはなかった選択の最後の地として彼らを導いたのだった。
エルノウとドラゴンは追跡者がその建物の中に入っていくのを確かに見た。しかも彼女は誰でも入りやすくするために入り口を大胆に破壊してから入っていった。
エルノウはもはや『罠』という言葉を頭の中から消していた。この先こそが行くべき場所なのであり、運命であることを痛感していたからである。
「エルノウ、入るのか?」
「大丈夫だ。俺達が行くしかないんだ」
二人はほとんど歩みを止めることなく入り口の奥へと進み、消えていった。
……その四分後、同じくやってきたのはポチだった。
彼は到着するなり円筒状の入り口付近を精査した。すると建物はどうやら地下に伸び、広がっていることが分かった。
見る限りここ以外の侵入口はない。そうなるとクリーツ移行志願者は現在、中にいる人のみとなったと考えるのが自然である。果たして本当にそうなのだろうかとポチは思った。
人々の行動の流れを調査してクリーツ施設を特定したところまではよい。だがこれまで世界中の人々が騒いだこの問題の中枢に人の気配が全くしないのはどうにも異様だと感じていたのである。
ッドム!!
地下からであろう、なにかを打ちつけるような強い音と振動が鳴り響いた。
「……あまりにも出来すぎている。ということはおそらく、双子の片割れが中にいるとみた。経験と法則、これらが安定した未来を構築する。イルカよ、おぬしはとんでもないものをくれたみたいだ……」
ポチは破壊されるまで小さかった建物の扉の中を難なく潜り、地下へと降りていった。
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「くっ、ペイス! どうやって!?」
「あんたが、やったのか?」
「どうしてか分からないけど、ありがとう。助かったわ」
「……ったく、めんどくさいなあ。ほれ、娘、こっちに来い」
イルカに指名されたリネンは怯えた表情で控えめに前進した。早く来いと急かされて不安が頭から離れないのか、なかなか歩調を変えられない様子だった。
それを見たイルカが痺れを切らして自ら近寄っていく。
不意の行動に驚いたリネンは全身を硬直させて急に足を止めてしまった。
「……こんな時だっていうのに、時間がないんだよ。バカタレが」
イルカはいきなりリネンを抱きしめた。
そして驚いた顔を見せる声無き女性の耳元に口を寄せ、優しく安全を伝える。
「……すまなかったな。でもまあ、こんな状況、滅多に作れるものでもないし、お前としても好都合だったろ?」
「……あっ」
「……おいおい黙れ。ここにいる奴等はまだ喋れないと思い続けている。お前はまだ都合のいい現実に浸っていたいだろ? その時が来るまではとっておけ。どうしても今喋りたいというのなら私はあえてそれを止めないが、この会話の意味をよく考えればなにが重要かは明らかなはずだ。どうだ? 分かったら首を振れ」
彼女は首を縦に振った。
「……よし、それでいい。あとは太郎達のケツにくっついてしかるべき時を待て。アイツを狂わせた男と対峙させてやる。もちろん、一対一でな。この意味が理解できたら首、振れ」
また首を振った。
「……お前は本当に可愛いな。どうだ、気持ちいいだろ? ああいう馬鹿どもを転がせて。……おっと、動揺するなよ。ばれるぞ。うちらは仲良し女子だ。久しぶりの再会で感極まって抱き合った。そういうことだ。いいな? じゃ、離すぞ」
二人はゆっくり剥がれると、イルカが右手で軽くリネンの肩を押した。
よろめいて後ろ向きに倒れそうになったところを太郎が受け止める。
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……ポチがいたら今の会話は成立しない。もし聞かれてしまったらその時点でリネンの都合は続けられない。つまり、そういうことなのです。
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「ペイス、ポチさんはどこだ?」
「先に行ったよ。お前達も後を追うんだろ? 早く行ったほうがいいんじゃないか? あの犬型機械、補助器つけてないぜ」
「先生があんたを助けたのか? 俺達が嵌められたのを知って」
「はあ? 雑魚は黙ってろ」
「おい、女ごときに雑魚呼ばわりはされたくねえなあ。あ、でもあんた強いんだったな。悔しいがここは黙るしかねえか。くそがよ。この非力さを呪うぜくそが」
「ペイス、案内してくれ」
「その必要はないだろ。端末でも見てさっさと行っとけ。私は忙しいんだ」
「あの……、補助器、一つ余ってるけど」
「いらねえよこのクソばばあが。他の仲間にでもあげてろ。じゃあな」
太郎達が閉じ込められる前にはなかった鉄柱の壁がイルカの拳の連打で砕け散った。そして彼女は光を伴わない超高速飛行で飛び去っていった。
「経緯がどうであれ僕達の条件は揃った。今調べたがドラゴンさんがこの島にいる。合流しよう」
「あの、私は」
コトリは浮かない表情をしていた。
ガラームはそんな彼女に冷たい視線を送った。
「裏切られたんだ。俺達と一緒に行動したほうが安全だろう。もっとも、歓迎はしないがな」
リネンはコトリに微笑んだ。コトリもそれに応じた。
「事態は一刻を争う。人類の全てがクリーツ化する前に奴等を止めよう!」
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