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神々の起床 / man made it



 人類という生物は、繁栄の先に宇宙の外側へと思いを馳せていた。

 彼らにとって不要であるだろうその心情は、いつの時代も身近な環境の中で多くの現象を起こし、確かめようもない解に自身を納得させ、その意義を果たした。

 理由は誰にも分からない。誰も知ることの出来ない事実に自由を求めていたのかもしれない。もしかしたら、そこに人類の神がいると願っていたのかもしれない。

 人類達と直接繋がっていた事象があるとするならば、それは大局的な安寧。心の逃避が、彼らに世界の限界を共有させたのである。



 宇宙の外側にはなにも存在しないと……。



 その『外宇宙』という名の領域には、一つの大きな球体があった。

 いつからあったのか、誰が造ったのかは知らないが、そこには確かに一つの大きな球体があった。

 ……そして、この外宇宙には球体という物体は存在していなかった。

 いつからなかったのか、それは誰が知らずとも常にずっと、存在していなかった。



 この不可思議を説明できる者は球体の中にも『内宇宙』にもいない。だが球体は確かに内宇宙の外側に存在していた。

 内宇宙の存在が肯定されるように、この大きな球体の存在も肯定された。従って外宇宙には球体どころか内宇宙すらも存在していなかった。内宇宙が確認できている以上、外宇宙という領域にも球体は確かに存在していたのである。

 正確な位置というものはなかった。異なる次元空間であるため、座標を定められないからである。これは内宇宙にも合致することだった。



 球体には『リンボル』という名前がついていた。そこには生命体らしきモノが五つ、循環しながら活動しており、主に内宇宙の監視をしていた。



 この生命体らしき五つは、時として身体を纏う者達であった。



 『彼ら』は特殊な意識体を本体として永久に生き続けていた。互いに交信することは極めて少なく、表出される感情もほとんどない。

 この中の誰がリンボルを造ったのかはもう分からなかった。長い時の経過が記憶を薄れさせ、どこかに昇華させていったのかもしれない。



 この得体の知れないモノ達はかつて現人類と同じ肉体を持っていた。リンボル球体内部のどこかにその事実を裏付ける情報が確かに存在する。時の流れと共に用途が薄れることがあっても、何者かの意思により今も大切に保管されていた。



 彼らがリンボル内で活動をする時は、頑丈で安全な機械のような身体を纏った。物質としての定義から外れた『意識体』というものは、彼らにとってはなによりも守らなくてはならない命そのものだった。



 果たしてこの球体内に住む五つは、内宇宙の人類が想像するような神がかった存在などではなく、有限の者達だった。



 そして彼らは、神と呼んで等しい存在でもあった。



 リンボルのある場所は誰にも分からない。

 宇宙を創り出したものがいたとしても、宇宙の外側を支配しているものがいたとしてもそれを知る方法はない。そのように造られていた。

 ゆえに彼ら五つの神は、外部からの介入を完全に絶つことが出来た。



 そう、完全に絶つことが出来る、はずであった。



 リンボル内部に危険を知らせる警報が鳴り響いた時、五つのうちの二つは身体を纏い活動していた。リンボル全体を知らせる警報と共に異常の詳細が伝えられたが、かつての長く平穏だった時の流れがそうさせたのか、彼ら二つは落ち着いた様子で現状の理解のみに集中していた。

 侵入物の知らせが入ってもその情動に変化が起こることはなく、目の前にある異様な物体の情報を残りの彼らに送信し終わった後も、平静のままだった。



 滅せられるという未来を予測することは可能だった。なぜなら彼らはなにかを破壊する道具を持ち合わせていなかったからである。

 白く光る硬い棒状の物で、その身を切り裂かれた時に痛みを感じなかったことは、彼ら二つを死に向かわせる十分な引き金となりえた。死の寸前になにかを思い出したのかどうかは、彼らにしか分からない。



 二体が破壊された直後、残り三つの内の一つが直感的に防衛行動を起こしたことは、極めて事務的な行為だった。そして、奇跡的な反射であったとも言えた。

 その一つは急いで機械を纏うと、二つの神を殺した『異様な肉体』を迅速に処理し拘束した。簡単にはいかなかったものの、彼らの積み重ねてきた知識に勝る脅威ではなかった。



 処理に成功した一つは、生き残った二つを起こし事実を確認させた。

 彼らが二つ減ってしまったことは、リンボルが稼動して以来最大の事件だった。残った彼ら三つは自身の存続の不安定を目の当たりにし、その時がとうとうやってきたのだと少しだけ肉体を纏っていた頃の情動を蘇らせた。



 侵入者の『肉体』が彼らの消えた記憶を視覚的に復元したのかもしれない。

 しかし彼らを復元させたその肉体は、『無』を通過してきたからなのか、全身を黒く焼き焦がしていた……。



 生体情報を調べてみると、内宇宙から来た生命体であることが判った。そしてそれ以外の情報を抽出することは出来なかった。

 唯一はっきりしていたのは、それは絶対に起こりえないことが現実に起きてしまったということであった。人知を超えた領域に、人知を超えた存在を殺すため、たった一つの謎の方法を用いて侵入してきた肉体……到達した者が現れてしまったのだ。



 彼ら残された三つの神は本当の神の怒りでも想像したのだろうか、内宇宙の変化を、まるで未知の領域を調査するような精密さで探した。無限と呼ぶに等しい時間を過ごしてきた彼らが、時間に追われる立場になったのである。

 原動力となったのその焦燥は中心に宿る本能が機能していることを証明したが、彼らにはそれを噛み締める余裕はなかった。



 調査の末に見つかった変化は、彼らの想像をさらに打ち砕いた。



 とある小さな、たった一つの惑星の中に特異な波動を持ったなにかが多数連なっていたのである。仮にその中の一個がこの『神殺し』を送ったのであれば、再訪の可能性は十分にある。的確かつ速やかな対応が求められた。

 彼らはまず、神殺しの生体情報から肉体を一体複製した。そして神殺しを処理した彼ら一つの意識体をその肉体に嵌め込み、浸透させた。惑星内で起こっていることの実地調査と神殺しに繋がった際の直接対処をするためには、ここまでのことをしなければならないという結論に至ったためである。その最終判断を下したのは、自ら調査に行くことになる彼らの一つであった。



 この、少し他とは違った一つは、今回の事態に至る過程に運命とも似たなにかを感じていた。一度掻き消えた記憶が蘇ってくるような、それでも全く戻ってくる様子のない妙な感じが意識の中に膿を呼んで、それが人たらしめる要因を形成しているような気がしたのだった。



 そして『彼』は再び肉体を纏い、内宇宙へと飛び立った。



 黒い装甲で固められた小型の宇宙船は、白い光を浴びながら青い惑星の目の前に着いた。操縦席に座る彼は、一層人らしい思いに耽る。それはとても短い時間であったが、地上に降り立つまでの気持ちの準備には余るくらいだった。



 装甲は特殊な力場を発生させ『視覚的』に消失すると、惑星の重力に身を委ね、降下した。



 地上に降り立った彼は星の空気を肺いっぱいに取り込む。視界をはみ出すほどの青空と、広大な雲を眺めながら、かつての神は新たな人生の再開に心を震わした。



 遠い上空から一閃の青い光の矢が、地上に向かって落ちていく……。

 星の意思が彼の到来に応えたのだろうか。

 それはとても冷たそうで、しかし触れると火傷しそうな光だと、彼は思った。




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