青髪の魔法使いの君と
「シズリーたんマジ天使。可愛い過ぎて生きているのが辛い」
肩より少し長いぐらいの青い髪。ピンクの瞳。とんがった魔女っ子帽子にミニスカートの制服。それにマントを羽織り、銀色の杖を持ってポーズを構えた女の子のアニメのポスターの前で、今日もケイタは身悶えた。
「はあぁぁぁ。どっかにシズリーたんいないかなぁ。シズリーたんがいれば他には何もいらないのに」
今期のアニメ『魔法学園騒動記』。魔法学園に入学した主人公(♂)がおりなすドタバタ学園ラブコメディ。その中のヒロインの一人、シズリー。普段は大人しく真面目だけれど、主人公のピンチにはキュッと顔を引き締めて一所懸命支えようとしてくれる補助魔法使いの可愛い女の子。
最初はそんなに推しキャラじゃなかったはずなのに、気の強いヒロイン達の中でいつしかケイタの眼はシズリーばかりを追っていた。
「あー神様。シズリーたんみたいな女の子とずーっと一緒にいられるなら、他には何もいらないです。だからシズリーたんに会わせてー」
「それ本当?」
独り言のはずの言葉に返事が返ってきて驚いた。
振り向くと、そこにはケイタと同じくらいーー15歳くらいの少年がいた。
「お前、誰なんだよ?
何でいきなり俺の部屋にいるんだよ」
ケイタが問い詰めると、少年は真顔で質問してきた。
「シズリーちゃんに似てる女の子がいたら、本当に幸せ?」
「いや、質問で返さずにお前が誰なのか答えろよ」
「ああ、僕は別の世界の神様なんだ。驚かせてごめんね。
疑われる前に、信用出来るように少しだけ魔法を見せてあげるよ」
少年がパチンと手を打つと、ケイタの体が浮かび上がった。
「マジか……。で、神様が何で俺なんかのところに?」
吊り糸もなく浮かんだ自分の体に驚いて、ケイタは少年に尋ねた。
「うんうん、さすがに若いと状況を飲み込むのも早いね。
いやあ、世界ってのは案外影響しあっててね。今期のアニメの『魔法学園騒動記』、あれね、僕の世界によく似てるんだよね。で、似過ぎて、影響受けちゃってさ。ハーレムなんてないからこのままじゃ、本命ヒロインの子以外が結婚出来なくなっちゃうんだよね。
でさ、シズリーちゃんは未来の歴史に必要な子孫ができる予定なのに、それが狂っちゃってさ、本当に困ってるんだよね」
「で、何で俺なの?」
「うん。その子孫が生まれるためのシズリーちゃんの相手が、シズリーちゃんにひどく振られてさ。それで他の女の子と結婚しちゃったんだよね。そうなると未来が大きく変わっちゃうの。で、未来を変えないような子供が出来る相手ってのが難しくて、君が一番適合率が高いから来たんだ」
つまり、三行で言うとこれだった。
未来のために
シズリーたんと結婚して
子供を作ってほしい
いやむしろ一行でいいだろ。
それよりも大切な事を確認しないといけない。
「その子はシズリーたんと似てるの?」
「もちろん」
「性格は?」
「普段は大人しくて真面目。いざという時には相手を一所懸命に支えてくれる」
「髪の色は?」
「青」
「瞳の色は?」
「薄い桃色、ピンクだね」
「シズリーたんに似てるその子は俺と結婚する気になってくれるの?」
そう!
俺だけがシズリーたんが好きでも、シズリーたんに好かれなきゃ結婚は出来ない。
「大丈夫。シズリーちゃんと君は運命で惹かれ合う様になっているから」
「………………」
「………………」
俺は。
おもむろに。
土下座した。
「不束者ですがよろしくお願いします!!」
異世界のシズリーたんの名前もシズリーだった。
顔も体格も、リアルシズリーたん。
性格も大人しいけど芯のある子。
確かに、神様の言う通りだった。
理想の女の子そのままだった。
ある一点を除いては。
青い髪にピンクの瞳。
薄紫の肌に黄緑色の唇。
確かに確認はしなかった。
けど普通そんなこと聞かないだろ。
いや、聞かなかった俺が悪いんだけどさ…………。
青い髪や赤い髪、緑の髪もここでは普通で。
つまり、あらゆる色彩が当たり前だった。
産まれる子供は何色かしらって妊婦同士が楽しみにして語り合ってる。
「あなた、迎えに来てくれたんだ」
シズリーが俺に気がついて、公園のベンチから立ち上がって駆け出そうとする。
「こらこら、妊婦が走っちゃダメだろう?」
シズリーを抱きとめてから手を繋ぐ。
うん、まあでも幸せなんだろうね、俺は。
例え、神々しいほど純白のゴキブリだったり、毎回が毒々しい色の食事だとしても。