舞踏会二日目 ~沈黙の意味~
「え?!」
アルフレッドは昨日の事を思い出す。
初めて目の前にセルが現れた時、確かに敵の攻撃は届かなかった。
まるで何事もなかったかのように痕跡すら残っていなかった。
そしてその後も、やはり同じように攻撃は立ち消えた。
あれは・・・無効化されたから?
「残念ながら、攻撃も防御も関係なしに無効化されます。」
それでは戦いになった時、魔術師のいる意味がなくなる。
騎士団さえいれば戦えるではないか。
そう。
だから魔術師に嫌われる。
「私がいると何もなかったことになる。どんなに強大な魔力を持つ魔術師でも、攻撃をすることも、刃から身を守ることもできなくなる。周りは静かに、ただ静かに時が流れるだけ・・・・。」
「だから『沈黙の魔術師』か。」
ただ黙ってそこにいるだけで無効化するーーだから『沈黙の魔術師』
無効化された誰もが驚きで声が出なくなるーーだから『沈黙の魔術師』
「いいんじゃない? そういうのも。」
セルは、俯きそうになる顔を上げてアルフレッドに向けた。
今まで魔術師長と騎士団長にしか言われていない言葉が、目の前の人物から発せられたことに驚く。
「人と違うことの何がいけないんだ? 卑下する事も嫌悪する事も、全くないと思うけど?」
にっこりとした笑みを浮かべたアルフレッドは、セルに右手を差し出した。
「よろしく。『沈黙の魔術師』・・・いや、セル=ラ=ユール。」
セルは悟った。
魔術師長はいつか二人を会わせるつもりだったのだと。
だから余計な噂も評判も、アルフレッドには聞かせなかった。
アイギスに唆された王の言葉だけで、自分を舞踏会に呼んだ訳ではなかった。
孤独のままでいる姿を心配していてくれた。
そう、きっと騎士団長も。
セルはゆっくりと寝台に近付き、出されているその右手をしっかりと握った。
そして、柔らかく微笑み言った。
「こちらこそ、よろしくお願いします。アルフレッド様。私が必ずお護り致します。」
その目にはうっすらと涙が浮かんでいたことにアルフレッドは気付きながらも、敢えて気付かない振りをした。
信頼できる相手だと認めたから、いらぬことなど言わない。
平気な顔をしていたけれど本当は辛かったに違いない。
だけど。
これからは僕の側にいればいい・・・
アルフレッドは心の中で、そうセルに語りかけた。