舞踏会二日目 ~真名~
「僕は・・・・・ラーラ=ルーシアン=アルフレッド=サーペント・・・だよ。」
そう言ったアルフレッドの目には、セルに挑むような色が見えた。
さあ、謎を解いてごらん。
その目がそう語っていた。
「それが・・・真名ですか。」
セルは、ありえないと思っていたことを頭でもう一度整理しながら、アルフレッドの挑戦を受けた。
「最初からあなたとラーラ様は双子じゃなかったんですね? 同一人物だ。そもそも、男女の双子で全く同じ顔だなんてありえない。」
セルはアルフレッドを見つめる。
アルフレッドはまっすぐそれを見つめ返し、先を促す。
「魔術でその体を女に変えて、双子だと周囲に認識させた。ただ、膨大な魔力を使い続けなければ姿を維持できない。だからこそ、ラーラ様は滅多に姿を現さない『幻の姫』となった。アルフレッド様が本体だから、普段はあなたが動く。宮殿に出向き、魔術師として魔術師長に会い、失われた魔力を少しでも回復させられるように。」
アルフレッドは目を細めた。
「ああ、セルは魔術師長の魔力を知っているんだね。」
魔術師長の特殊な魔力は限られた人物にしか明らかにされていない。
それを知っているということは、かなり近しい人物か信頼されている人物ということになる。
全ては悪用されない為。
そして、魔術師長の身を護る為。
現魔術師長はその特殊さ故に、長らく王宮に秘匿された身だった。
彼女は淡い蜂蜜色の髪と琥珀色の瞳を持つ前王の末の妹で、現王の年の近い叔母にあたる。
降嫁して後に魔術師長になり、子供を産んだことで特殊な力は失ったーーーことになっている。
実際は衰えもせず、寧ろ増大しているのだが。
さて、魔術師長にどこを見初められたのか、見せてもらおうかな・・・
そんな思いを込めて、アルフレッドは目の前の青年を見つめる。
緊張感が漂う中、臆することなくセルは口を開いた。
「あなたが双子だと思わせたかった理由・・・・・敵を翻弄すること、ですか?」
そう言うと、先ほど以上にじっとアルフレッドを見つめ返す。
問うように言ってはいるが、確信に満ちた目をしている。
口許を引き締めて答えを待ち続ける姿が何故か憎めない。
誤魔化しも嘘も通じない澄んだ瞳が、アルフレッドの心を射抜く。
あーあ・・・これかぁ・・・・
魔術師長が彼を気に入った理由が分かった気がする。
アルフレッドは、ふぅっと軽くため息をついてからゆっくりと微笑んで降参した。
「正解。よくそこまで辿り着いたね。騙し通せる自信があったんだけどな。」
「アイギスの話を聞いたら、簡単にわかると思いますよ? だってあの人、一度だってラーラ様の名前を言わないんですから。」
額の宝石のことを話す時、アイギスはアルフレッドの名前しか出さなかった。
体が弱く屋敷で保護されるように育ったのなら、当時もその場にいたはずなのにラーラの名前も、その身の心配もしていなかった。
ラーラにも魔力があるというのに。
「ああ・・、アイギスはこの話になると設定忘れるからなぁ。」
困った顔でそう言うと、アルフレッドはセルに問いかけた。
「で? セルはどうして『沈黙の魔術師』なのかな?」
「え?」
「・・・・・・」
「・・・・・知らないんですか?」
一時期大変な問題となったセル自身の魔力による、その称号を知らない魔術師はいないはずだった。
他の魔術師に嫌われる理由を知らない魔術師がいるなど信じられなかった。
「僕は他の魔術師と交わることはしないからね。噂なんて知らないし、魔術師長も何も言わなかったし。」
アルフレッドは少し拗ねたように、目を逸らして言った。
セルは驚いたものの、すぐに納得した。
魔術師長が噂を止めていてくれたのだと。
「昨日、何度か見たじゃないですか。襲ってきた相手も驚いていましたね。」
「え?」
笑顔でアルフレッドを見て、セルは明かした。
「私の周りでは、魔術が無効化されるんです。」
その笑顔は、とても淋しそうに見えた。