舞踏会一日目 ~術を解く~
混濁した意識の中、ラーラはコルヌの声を聞いた。
「もういいから、早く術を解け!」
でも、こんなところで解くわけにはいかないわ。
こんな格好で解いたら、さすがにまずいと思うの。
「いいから! ここは私の部屋だ、心配いらない!」
コルヌの部屋?
・・・じゃあ、平気かな?
ラーラの体から淡い紫の光が帯のように解けていく。
その光の帯が消えると、部屋には甘い花の香りが強く漂った。
術が解かれたのを確認したコルヌは、寝台に横たえられたラーラに掛布をかけてから、隣室に控えるセルを呼んだ。
「術は解かせた。これで大丈夫だろう。」
「顔色も少し良くなったようですね。良かったです。」
心配していたセルもほっと安堵の表情を見せる。
「アイギスにラーラを着替えさせてもらうとして、セルにはこの部屋の警護を頼みたい。」
「私がですか?」
「君の能力なら容易いことだろう? いるだけで魔術師からの攻撃を防げて、物理的な攻撃もかわせる腕がある。違うかい?」
「う・・・。物理的な方は自信ないですけど・・・・。」
「行き過ぎた謙遜は嫌味と同じだぞ。」
コルヌに半目で見下ろされると、セルは言葉を詰まらせるしかなかった。
謙遜しているつもりはないのだが、周りはいつもそう取ってはくれない。
だから、彼は城に顔を出すのをできるだけ控えていた。
魔術師たちに嫌われるのも騎士団員に疎まれるのも、正直きつかったし、王から変な期待をされるのも辛かった。
本当に、ただただ放っておいて欲しかったのに。
「あ? 本当にセル=ラ=ユールだ。」
名前を呼ばれ振り返ると、そこには舞踏会の主役のサーペント博士・・・アイギスがいた。
はあああぁっと盛大にため息をついて、セルはアイギスに言った。
「黒幕はあんたですね? うまく王を唆して、魔術師長と騎士団長をまるめこんで、私をラーラ様の護衛に仕立てようなんて。腹黒いったらありゃしない。」
「失礼な奴だな。ひきこもりの友人を心配して、できる限りの人脈を使うことのどこが腹黒いんだ?」
アイギスはしれっと答える。
「使えるものは使わなくては、宝の持ち腐れだ。」
やはり、アイギスには適わない。
世界一の頭を持つ彼に、平凡な人間が適う訳がない。
だが、黙って従うのも面白くない。
「アルフレッド様がいるじゃないですか。初めて会う私より、いつも一緒の方の方がいいでしょ。」
「あれはダメだな。この件に関してはフレディは役に立たん。」
「ちょっと、アイギス・・・それ・・失礼すぎなんだけど・・・・?」
・・・・ん? この声、誰だ?
セルはこの部屋にいる面々を確認する。
コルヌ=コピア王太子殿下。
アイギス=ストロワーネ=ネーデル=ルーシャッサ=サーペント博士。
そして、自分。
あとは・・・・。
「誰が役に立たないって? 」
声の主は、休んでいたはずのラーラだった。