舞踏会一日目 ~ラーラの異変~
「大丈夫ですか? ラーラ様。」
目の前で起きたことに呆然としたままのラーラは、セルの声で我に返った。
「あ、あなた、一体何なの? 魔術師だって言うけど、あなたのことは見たことも聞いたこともないわ。」
「あー・・・私は魔術師の皆から嫌われてますからねぇ。主に自宅待機で、城へはほとんど来てませんし。お兄様から聞いたこともありませんか?」
「ないわね。」
ラーラがきっぱり言うと、セルは困ったような顔で続けた。
「まあ、アルフレッド様にお会いしたことはないですしね。仕方がないですよね。」
「 え? 兄ってそっち?」
ラーラはここでやっとアルフレッドのことを思い出した。
突然の襲撃と『沈黙の魔術師』というこの人物の出現に、一番大事な人の存在がすっかり頭から抜け落ちていたのだ。
それに気付いた時、ラーラの体は急激に怠さが増し、ひざから崩れていった。
「ラーラ様!?」
セルがその体を支えた。
酷く冷たく感じて顔を見ると、白く見える程青ざめ、額には汗が滲み唇の赤さも失せている。
ただ額の宝石だけが、その色を更に濃く変えて煌めいていた。
「魔力の使いすぎ? どうして・・・」
セルは首を捻った。
こんなになるまでの使いすぎなど、そう簡単に起こるものではない。
強い術を継続してかけ続けていなければ、ラーラのような強い魔力の持ち主がこんな状態になるはずもない。
そっと額に触れようとした時、声が聞こえた。
「何があった、ラーラ?!」
セルがそちらに顔を向けると、輝く金髪と琥珀色の目が飛び込んできた。
「コルヌ=コピア殿下。」
そう呼びかけると、セルはにっこりとコルヌに微笑んだ。
その顔を見た瞬間にコルヌの目は見開き、少ししてつぶやくように言った。
「セル=ラ=ユール・・・・?」
呼びかけに人懐っこい笑みで返す。
「はい。ご無沙汰しております。」
コルヌはふっと顔を緩ませ、セルに近付いた。
「来ていたのか。」
「要請がありまして。さすがに魔術師長と騎士団長の両方に言われては、断ることはできませんでした。」
「・・・・父上の手が回ったか。」
「と思います。それより、ラーラ様が。」
腕の中のラーラの体が、更に冷たくなったのを感じて、セルは事情を知るだろうコルヌに助けを求めた。
コルヌはラーラの様子を見ると、険しい顔になってこう言った。
「ここではまずいな。とりあえず、私の部屋へ運ぼう。」