舞踏会一日目 ~コルヌ=コピア殿下~
王宮主催、サーペント博士の偉業を祝う舞踏会の開催一日目。
早くもラーラは心が挫けていた。
「姫、是非一曲踊っていただけませんか?!」
「いいえ、姫、私と!」
「さぁ、姫様、お手をどうぞ!」
目の前には我先にと群がる貴族のご子息様一同が、厚い壁となって押し寄せていた。
多分、目の前にいる人物が身分の高い者だろうと想像はつく。
が。
どれが誰だが全然わからない・・・・
ラーラはゆったりと青年たちを見回すと、こっそりため息をついた。
とにかくここを切り抜けなければ、王の側にさえ行かれない。
あー、なんだか帰りたくなってきたわ・・・・
そう思っていると、横から爽やかな低音が響いた。
「ラーラ姫、こちらにいらしたのですか。」
声の主は金髪の青年だった。
琥珀色の瞳が印象的な、美丈夫がそこにいた。
「コルヌ=コピア殿下。」
この国の王太子殿下の登場に周りがざわめく。
殿下自ら足を運ぶということはあの噂は本当だったのか、と青年貴族たちは納得した。
『幻の姫』は王太子殿下の恋人。
もう、彼らは引くしかなかった。
いくらなんでも王太子殿下と競い合うなど、恐れ多いことはできない。
ラーラの周りにできていた壁は、一人、また一人と離れて行き、間もなくきれいに消え去った。
「少し風にあたった方が良さそうですね。顔色が良くない。」
コルヌはすっとラーラの頬を撫で、バルコニーへと誘った。
「また変な噂になるわ。」
軽く眉を顰めて、ラーラはコルヌに訴える。
本当に不本意だ。
誰が王太子殿下の恋人なんだろう。
冗談にも程がある。
「そう嫌な顔をしないでおくれよ。いい盾があるとでも思っていればいい。」
コルヌはにっこりと微笑む。
普通の令嬢だったら、この笑顔で恋に落ちる・・・だろう。
だが、ラーラには通用しなかった。
「コルヌ、自分の立場がわかってるの? 変な噂で縁談がなくなったらどうする気?」
「んー・・・そうなったら、本当に結婚する?」
「馬鹿言わないで。できる訳ないでしょう?」
「立場的には問題はないけどね。」
このままでは本当に結婚させられそうで、ラーラは身震いをする。
コルヌとは仲がいいが、それは従兄としてであって、恋愛などという甘いものではない。
アイギスと同じ年の従兄は好きだが、結婚など以ての外だ。
いや、コルヌが相手でなくても結婚はできない。
しないのではなく、できないのだ。
「私のこと、知ってるくせに、そんなこと言わないで!」
怒りで潤んだ目でコルヌを睨みつける。
「・・・ごめん、調子に乗りすぎた・・・」
コルヌはそっとラーラの額に口付けた。
「! コルヌ!!」
突然のことに、ラーラは血相を変えて体を引き離す。
それでも、その体は震えて止まらない。
「大丈夫だよ。宝石には触れてない。」
コルヌは寂しそうに笑って、ラーラの体を抱きしめた。
宥めるように、慰めるように、優しく優しく包む温もりに、ラーラの震えも収まっていく。
「もう、しないで? お願いだから。」
「ああ。しないよ。そんなに驚くとは思わなかった。」
私のこと、知ってるくせに・・・・。
ラーラは自分の秘密を知る従兄に、本当の意味で心を開いていないのかもしれない。
いつでも守ってくれる存在に甘えながらも拒絶する。
拒絶しつつも、どこかで依存している。
だから思うのだ。
私のこと、知ってるくせに、普通に扱わないでーーーと。