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舞踏会最終日 ~ 庭園にて 2 ~

今回流血シーンがありますので、警告タグを追加しました。

「魔術師ですよ。ただの、ね。」



セルの声は普段よりも幾分低く、眼差しも冷ややかだ。

それは殺気を放ち、いつでも戦いに臨める戦士の目だった。

騎士よりも遥かに上をいく冷酷さが滲み出ている。

その姿に、ラーラの背筋に冷たいものが走る。



何なの・・? これがセル? 嘘でしょ?



こんなにも変わるものかという驚きと共に、ラーラの脳裏に一人の男の姿が掠めた。

それは城に来る度に見掛ける、この国最強の剣の使い手であり、平時と戦闘時は別人の様に変わるという、騎士団最高位の男だった。



「ただの魔術師がそんな殺気を放つか!」



黒衣の男はそう言うと共に、間合いを詰め剣を振りかざした。

何でもない様に、セルはそれを自身の剣で受ける。

静かだった庭園に金属音が響き、それを合図に戦闘が開始された。


振り降ろされた剣を軽く払い、できた隙を狙って剣を振るう。

互いによって繰り返される動きに、無駄な所は一切ない。


緊張感が否が応でも増し、見ているだけのラーラの疲労も溜まっていく。

徐々に鼓動が早まり息苦しくなる。

胸がきゅぅっと締め付けられ、しっかりと気を持たなければ気を失ってしまいそうだった。


闇の中、月の光に照らされて戦う二人は、まるで絵画の様に美しく見える。

だがその見た目に反して、どれだけの体力が消費されているのだろうか。

時間が経つに連れて少しずつ動きが鈍ってきた事は、ラーラの目にも分かる。


どちらの物とも知れない汗が飛び散り、月明かりに輝く。

息が荒くなるのは同時だった。



これ以上は無理そう・・・



そうラーラは思ったが、二人の間に入る事はできない。

魔術が使えれば簡単なのに、全ての魔力を無に帰すセルの側では適わない。

自分の不甲斐なさに眉を寄せた。


その時、男の狙いが変わった。

セルの横をすり抜けてラーラへと剣先を向け、大きく振りかざす。



しまった!



魔術以外に己を守る術を持たないラーラには、今、迫る刃を退ける手段は何一つない。

覚悟を決めて、ラーラは目を閉じた。



その耳に、肉を断つ音が鈍く聞こえた。

次いで、生々しい血の匂いが鼻につく。



「・・・・ぐ・・ぅっ・・」



そして、呻く様な声が続く。


自分には届かなかった刃。

ならば、あの音と血の匂いと、この声は。

嫌な気がしてそっと目を開けたラーラが見たのは、真っ赤に染まった左の顔を左手で押さえるセルの姿だった。



「セルっっ!?」



膝を着くセルの顔から胸に掛けて走る赤。

止めどなく流れる血が、地面に溜まっていく。

呼吸が荒く乱れながらも、その右目は男を射殺さんばかりに鋭い。



「思った通りの行動で嬉しいね。殺すには惜しいが、その傷では時間の問題だろうなぁ。」



男はセルの目を愉しそうに見返し、すぅっと細める。

そして、彼の胸の傷を必死に止血しようとするラーラに視線を移すと、ゆっくりと右手を差し出した。



「さあ、ラーラ()。その額の宝石(いし)を渡して貰おうか。」



一歩一歩、男はラーラに近付いて行く。



「嫌よ! これは誰にも渡さないわ。いい加減にして!」

「それはこちらの台詞だ。何年も強情を張って、その結果がこれだ。その男、死にますよ。・・・・可哀想に。」



びくり、とラーラの体が跳ねた。

セルの方を見遣り、その表情を崩す。



「ああ、徒らに苦しませるのも可哀想、というもの。今すぐ止めを刺した方がいいだろう。」



男は、ねえ?とばかりに首を傾げ、血に塗れた剣を振り上げた。



「っラーラ様、お逃げ・・くださ・・っ」



咄嗟に傷付いた友人を庇おうとするラーラに、セルはそう告げて自分から引き離した。


その時だった。

男の首に鋭い刃が当てられ、動きが止められた。



「何してくれてるんだ、あぁ?」



男の背後から、セルに似た、いやそれ以上の殺気を放つ声が上がる。

それは、その場にいる誰もが動けなくなる程の怒気を孕む。

なのに、黒衣の男はにやりと笑った。



「やっぱり、あんたの息子か。」

「分かっててやったのか? よっぽど死にたいらしいなぁ、マヴロ?」

「冗談。あんたに殺られるくらいなら、真冬に裸で水掛けられての凍死の方がマシだよ、団長殿(・・・)。」



そう言って喉で笑う男ーーマヴロの喉に、朱色の線が軽く付けられた。



「ああ、怖い怖い。でも、いいのかい? このままだと、あんたの大事な大事な息子は確実に死ぬんだけど?」

「死なねえよ。」



その答と同時に、強く漂う草の匂いと、強い緑の光が現れた。

それはセルの前では使えない筈の魔力(もの)だった。


驚きに目を瞠ったマヴロが見たのは、フードで顔と髪を隠した、魔術師のローブを着た女だった。

普通の魔術師とは桁違いの魔力(ちから)が迸る。

その勢いで被っていたフードが外れ、女の蜂蜜色の長い髪が、自身の魔力(ちから)の流れで靡いた。



「この子はこの私(・・・)が死なせません。」



強い意思の宿る琥珀色の目が、鋭くマヴロを射抜く。

ラーラはその女を、信じられない思いで見ていた。



どうしてここに、この方が?



そう口から零れる前に、マヴロが口を開いた。

少しだけ、先程よりも声が震えている。



「・・・姫さんまでご登場かよ・・・・」



くすり、と女は笑った。



「可愛い息子の危機ですもの。大人しくなんてしてられませんわ。少々おいたが過ぎましてよ、“(マヴロ)”。」



ラーラ(アルフレッド)を狙う黒衣の男の名前が、漸く出ました(笑)。

マヴローーー意味は台詞にある通り、“黒”です。ギリシャ語です。

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