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舞踏会六日目 ~セル=ラ=ユール~

「だ、大丈夫かい? セル。」



時間を見つけては足を運び、アルフレッドとセルの様子を見ていたコルヌは、草臥れたセルの姿に心配になった。



「大丈夫、です。今日一日熟せば、フレッド(これ)も起きます。」



そう言うセルの目の下には隈が浮かび、疲労の色が隠せない。

実際、セルは疲れていた。

ただいるだけ、だったらどんなに楽だったろう。

トイレや風呂もそれなりに不便はなかった。

短時間なら魔術の心得のある近衛騎士が代わってくれたし、コルヌがいる間は休憩時間を作ってもくれた。


だがしかし、アルフレッドの額の宝石(いし)を狙うあの男は、あらゆる隙をついて接触しようとしてきたのだ。

それも、主に夜や明け方といった普通は休んでいる時間帯に、窓から姿を見せてみたり、気配だけを放ってみたり、時々殺気も放ってみたりで、それに翻弄されて落ち着く時間がない。

何を仕掛けてくる訳でもないのが、地味に体力と精神力を削ってくれる。

まるで嫌がらせの様だ。



絶対、決着着けてやるっ!



睡眠不足でヨレヨレになりながら、セルは心の中でそう誓った。



「とにかく、明日は何があっても出席者に害がないように、騎士の方々に警備の強化を徹底させてくださいね。魔術師の方は、私から離れていれば術を使えるんですから、そちらもしっかり仕事させてください。」



本来なら王太子に対して言う言葉ではないのだが、眠すぎて頭の働かないセルは思ったままをコルヌに告げた。

それを怒るでもなく、にっこりとした微笑みで受けたコルヌは感心したように言った。



「さすが次期魔術師長にして次期騎士団長だな。その状態で他の者への指示も忘れない、か。」

「はい? 誰が次期魔術師長で次期騎士団長なんですか。私なんかがなれる訳ないでしょう? 纏まらずに無法地帯になるだけですよ。」



座った目でコルヌを見る。

それを流し、涼しい顔でコルヌは言った。



「実力は相応、だろう? 知らないのかい?騎士団の面々は、お前のことを“影の騎士団長” とまで言っているよ?」

「何ですか、それ!?」



騎士団から疎まれていると本人は思っているが、実際はそれは最初の頃だけで、今は団員たちに認められている。

だが、長く家の中で閉じこもっていたセルにはそんな変化は分からなかった。


魔術師でありながら、剣の腕も恐ろしく立つ。

それがどんなに珍しく且つ大変な事かは、鍛錬を積む彼らにはよく分かっていた。

見た目は頼りないこの魔術師が剣技にも長けているのは、幼い頃から訓練を欠かさなかったからだろうと誰もが思い、しかもそれは軽いものではなく、かなり厳しい誰かに叩き込まれたものだろうと推測できた。

瞬時に状況を把握する力は天性のものとしても、騎士団の中で剣を持ったセルに敵う者はいない。

とすれば、彼の師はただ一人。



「騎士団も馬鹿ではない、ということだよ。」



コルヌはにっこりと微笑んで、少し眠るようにセルに言った。

渋ったものの、かなりの寝不足で頭がはっきりしなくなっていたセルは、有難くその申し出を受けた。

だからと言って横になることはなく、椅子に座ったままでの仮眠に止める。

目を瞑ってすぐに寝息をたて始めた友人を、コルヌは複雑な思いで見つめた。



「魔術師たちにも騎士団ほどの柔軟さがあれば、難しい事はないんだが。」

「それも時間の問題だと思いますわ、殿下。」



いつの間にかコルヌの横に、ローブを纏う者が立っていた。

目深に被るフードで表情は見えないが、コルヌにはそれが誰なのかすぐに分かった。



「アルフレッドに力を貸しに参りました。眠るだけでは間に合わないでしょうから。」



そう言うと、足元に魔法陣が現れた。

普段、魔術師たちは陣を使わず詠唱だけで魔術を使う。

魔法陣は膨大な魔力を必要とする時のみ使われる特別なものだ。

ふわりと風が舞い上がり、術者のローブが煽られる。

新緑の色に染まった風は、そのまま寝台で眠るアルフレッドへと向かった。

部屋の中に草の香りが充満し、温かい光で包まれるとすうっと風は収まっていった。


いつの間にか術者のフードは下り、蜂蜜色の長い髪が露わになっていた。



「では、私はこれで失礼致します。」



琥珀色の瞳がきらりと光ったと思うと、そこにはもう誰の姿もなかった。

コルヌは小さくため息を吐く。



「久し振りなんだから、もう少しいらっしゃればいいのに。」



寝台で眠るアルフレッドを見て、それから椅子で眠るセルを見る。

何が起きたのかも誰が来ていたのかも知らないままに、二人の眠りは続く。

コルヌは術者の残した香りを嗅ぎながら、一人窓の外に目を移した。




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