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 ナグナ様の言葉に周りがシンッと静まり返る。

 それからナグナ様の言った言葉を理解したのちの周りの反応はそれぞれ違った。

 何を言っているのだとでもいう風に唖然とナグナ様を見ているもの、そして私を陥れようとしている人たちはニヤニヤしている。私がこれぐらいで失脚するとでも思っているのだろうかとちょっと呆れた。

 ナグナ様の後ろには、フロンス公爵家の息子や宰相や騎士団長の息子までいる。そしてその中心に、可愛い妹がいる。

 ウッカは可愛い。

 いつみても可愛い。不安そうなウッカに、彼らが「大丈夫だから」と声をかけているが、私も「何も心配しなくていいのよ」って抱きしめたい衝動にかられる。

 「……何をいっていらっしゃるのかしら?」

 「ウッカをエリザベスは苛めているのだろう!」

 とりあえず問いかければ、そう叫ばれた。

 「私はこの学園にほとんど来ていないのよ?」

 私は全然学園には来ていないし、どうやって苛めるというんだと正直思う。それにウッカに付き従っているルサーナとヤーグとクラリが後ろからちょっとナグナ様を睨んでいたりするわけだけど、気づかないのかしら?

 でも私がいわれのない罪を糾弾されて、そして睨みつけているのはわかるけれど、睨むのはやめなさいってそんな風に思ってしまうわ。

 「指示を出したんだろう! 話は聞いているぞ」

 何をいっているのかしらね? ニヤニヤしている女子生徒たち一味がいったことなのでしょうけど、気づかないものなの? もう少しどうにかできなかったのかしら。

 「妹をいじめるなんて」

 私が可愛い妹をいじめるわけないじゃない。

 「お前は本当に性格悪いな」

 悪いわよ。悪くなきゃ貴族としてやっていけないわ。

 「ウッカは心優しい少女なのに」

 知っているわよ。ウッカは私の天使よ!

 「父上と母上は何でこんな女に騙されるんだ。お前が公爵家当主だと領民が不幸になる」

 ナグナ様はそんなことまで言い出す。正直何をいっているのかしらと思う。そりゃあ、私は色々やっているし、私を悪く言う人って結構いると思う。

 逆らうものには慈悲は与えないし、メリハリをつけて飴と鞭を使いこなしているつもりだ。それをちゃんと理解していないのだろう。

 それにイサート様もサンティーナ様も馬鹿ではない。私みたいな小娘にだまされはしない。

 私は領民の幸せを願っている。ナザント公爵領が大好きだからこそ、そんな真似はしない。

 「お姉様、何でこんな事……。昔の優しいおねえ様に、戻ってよぉ」

 泣いてる。可愛い私の妹が、天使が。可愛い。泣き顔見てると守ってあげたくなる。可愛い。抱きしめて上げたい。思いっきり撫で回したい。あああ、胸が痛い。私があの子を泣かせてるなんてっ。ウッカには笑顔が似合うのにぃ。

 でもでも、そんな事したら今まで冷たいふりしてた意味がないわ。

 「あら、私は貴方をいじめるような無意味な事しないわよ? 私は忙しいもの」

 うん、それも事実。私当主として色々忙しいし、裏でこそこそやってて忙しい。

 ああ、ごめんね、ウッカ。貴方をいじめるわけないわよーって思いっきり抱きしめたいけど、我慢してそんな言葉を言い放つ。

 「嘘を吐くな」

 とか、そんなことをいってくるけど嘘なんて欠片も口にしていないもの。

 それにルサーナとヤーグとクラリ……特に前者二人が何とも言えない表情しているわ。彼らはもちろん、私を責め立てたりはしない。寧ろ、私に暴言吐いてるナグナ様たちに怒ってるよ、これ。

 「やってないものはやってませんもの。証拠はあるんですの? 証拠もなしに決め付けるなんて上に立つもののする事ではありませんわよ?」

 本当に、上に立つものならちゃんと調べなさい! と説教をかましたくなるわよね。

 「お前との婚約は解消する!」

 「……そうですの。わかりましたわ」

 ちょっと驚いたけれど、ナグナ様からの婚約破棄なのなら受け入れる。それにこんな大勢の前で発言してしまったものはもう覆せないしね。

 サンティーナ様たちもナグナ様からそんな発言をしたなら受け入れてはくれるだろう。両親とイサート様とサンティーナ様が望んだ婚約だから結んでいただけだ。破棄をする原因も特になかったし。

 でも自分でさらっとそのことを受け入れたことに驚いた。私はナグナ様と結婚できない事を特になんとも思っていないらしい。

 というか、寧ろ言った本人のナグナ様の方がえって顔しているんだけど、なんなのかしら?

 「な、なぜ」

 「なぜとは……。ナグナ様がおっしゃったのでしょう? とりあえずその話は正式にイサート様たちに話を通させていただきますわ。それよりも、証拠は? 私はそんな命令一切していませんわよ?」

 ふふふと強気に笑いながらいう。だって本当にしてないもの。なにも焦りはないわ。でも悲しいわ。可愛いウッカに私がそんな命令したって思われてるの。悲しい。

 ナグナ様が黙り込んでしまったけれど、私は婚約破棄よりもウッカの事の方が重要なの。

 「証拠はないけど、貴様だろう」

 「あらあら、勝手に決め付けるなんて幼稚な事。そんなのでは将来苦労しますわよ?」

 全く、馬鹿な女子生徒たちに騙されて何を言っているんだか。大体私が何でウッカをいじめなきゃならない。可愛いウッカをいじめなんて死んでもしないわよ。

 「ウッカ、貴方も。泣いてばかりいるのはやめなさい。公爵家の令嬢として恥ずかしいわ」

 ごめんね、ウッカ。厳しい事を言っているけれどウッカに泣いていてほしくないの。それに人前で感情を顕にしすぎるのはあまりよくないわ。

 「お姉様……」

 「なんて酷い事を!」

 「ウッカを貴方が嫌っているからだろう」

 「うるさいわ。姉妹の会話に口出さないでくださいませ」

 まったく見当違いの事を。私がウッカを嫌うわけないでしょうが。こらこら、ヤーグもルサーナも、今にも人を殺しそうな目をしないの。私は大丈夫だから、ね?

 「まったく貴方なんかが公爵家の当主など嘆かわしい」

 「ウッカの方が領民を幸せにできるのに」

 それはそのとおりかもしれないわね。ウッカは優しいから。ウッカが収める領地って凄い幸せでほんわかしたものになるんじゃないかしら?

 私のウッカは可愛くて、人を自然に味方にするオーラがあるもの。本当可愛い。死ぬほど可愛い。世界で一番可愛い。やっぱ撫で回して思いっきり可愛がりたい。うぅ、七年近くウッカを可愛がってないから可愛がりたくて禁断症状が出そう。今も握る手が可愛がりたくてわきわきと怪しく動く。

 「お、お姉さま」

 「なによ」

 「……お姉さまは本当にやってないんですか」

 「やってないわ」

 もう、ウッカってば私の目を真っ直ぐにみてるの。ウッカの目がこちら向いてるってもう、可愛い、こっち見ているウッカが可愛い。私可愛いしか言ってない気がするわ。

 「……嘘つかないで。お姉さま」

 「どうして、そう思うの?」

 「だって、お姉さま、私の事……嫌いでしょう?」

 「ふふ、どうかしら」

 ああ、嫌ってないわ。大好きよ!

 「ナグナたちに聞いたの…。お姉様がうちの領を悪くしているって」

 何そのでまかせ。

 「領民は幸せよ?」

 「でもお姉さま、夜中に出歩いたり、よくわからない人たちと会話してたりしてるもん! 国で起こってる悪い事は全部お姉さまの仕業って」

 いやいや、何それ。噂怖いわ。私悪の棟梁か何か? というか、それは裏で動いてるだけで悪い事はしてないわよ? 寧ろ私悪を滅する側だと思う。

 「やってないわよ?」

 「お、お姉さま、領民のためにも当主を辞退して。私が、私がお母様とお父様の大事にしてたナザント領を、ダメになんかさせないもん」

 力強い目でウッカが私を見てる。ああ、私はそれを見て感激していた。甘ったれで、泣き虫な私のウッカが、自分の意志で私に歯向かおうってしてる。妹の成長にほろりと感激しそう。

 ウッカの言葉に、私はうーんと悩む。

 別に当主であることに私は執着しているわけではない。別に当主じゃなくててこれまで作った人脈と私兵たちがいればなんとでもなる。というか、国王陛下と王妃殿下は私が当主じゃなくても交流は持ってくれると思う。

 私は自分が当主になって評判が悪くなっても、嫌われても権力者でいられればウッカを守れるしいいと思ってた。でもウッカならそういうふうなやり方じゃなくてもお母様とお父様の大事にしていたナザント領を何だかんだで上手く回せるんじゃないかっても思う。

 うーん、1回譲って見る?

 昔の私じゃない。手に入れた人脈と私兵で当主じゃなくてもウッカは守れるし。領地運営をちゃんと出来ないなら私がまた出ていけばいいわけだし。何より、可愛いウッカがこれで成長できるっていうなら試練として当主の座を譲るのもいいかも。

 それに私が当主をやめたとしても配下の子たちはそのままだし。上が変わったとしてもあの子たちは有能だし、アサギ兄様もいるから問題がないといえば問題がない。無理だったら私が出ればいい話だし。

 うん、決めた。

 「ウッカは、領主になりたいのかしら?」

 「……そりゃあ、そうだよ。だってナザント領はお母様とお父様が残してくれたものだもん。ダメになんかさせない!」

 「そう、ならやる?」

 「え?」

 覚悟があるなら、明け渡してもいいの。それを本当にウッカが望むなら。

 「別に私は当主の座に執着しているわけでもありませんもの。欲しいなら貴方が当主でも構いませんわよ?」

 「そんな……、ナザント領をものみたいに言わないで!」

 言ってないよー。ウッカの勘違いは悲しい。自分でそう仕向けたとはいえ。別にこれ、ナザント領がどうでもいいからの発言じゃないからね? ちゃんと考えてるからね?

 「物なんて思ってませんわ。お母様とお父様の残した領地ですもの。ただやりたいなら貴方がやっても構いませんわ。大変ですから、ウッカにできるかわかりませんけど」

 「……やるわ!」

 私の挑発するような言葉にすぐ答える。ああ、もう単純で可愛いわ。でも、ウッカ挑発に乗りやすいのはダメよ? 何れそれで痛い目にあうかもしれないからね? 心配だわ。でもいい加減過保護すぎてもウッカのためにもならないものね…。

 「では国王陛下と王妃殿下に伝えておきますわね。貴方が当主を務めるって」

 「……お姉さま、何を考えているの?」

 「ふふ、それは貴方が知らなくていいことですわ。あと、私は本当に貴方に嫌がらせは命令してませんからね。私を責めたいならしっかり証拠を手に入れてからお願いしますわ。では、私は忙しいので」

 私は結局言っても信じてもらえないらしいので、そういって切り上げてその場を後にするのだった。

 ルサーナとヤーグ、クラリも………、ついてきたそうに私の方見ているけれど、貴方は私の命令通りウッカを守りなさい。命令は継続してるんだから、ね?



 そうして私はウッカに当主を譲った。





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