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ウェンとポトスとカートラとムナを連れて学園へと顔を出した。
私が学園へと到着すると、生徒たちの視線が一気にこちらへと向いてきた。そしてこそこそと彼らは何かをささやいている。
私の事。
そしてウッカの事。
両方言われているのだろう。
ウッカは今日も高等部に顔を出しているのだろうか? そんな風に思いながらも教室へと進む。
私とそれに付き従う四人。
何かをささやかれようと特に気にしない。でも悪意を持った目を向けてくる人たちは……、私に濡れ衣を押し付けてきている生徒たちかしら?
私にそんなもの押し付けてくるなんて馬鹿だわ。
後からどうにでもするわ。きちんと調べてからね。
濡れ衣を押し付けたぐらいで、ナザント公爵の私が揺らぐわけもないのに、そんなことをわからないのかしら? そしてカタリ様とオント様もそういう一味と一緒に居るのは、そうね、私が対応を上手くできなかったってことね。
でも取り巻きなんてものは正直信用できるようなものではない。今も私に群がってくる生徒たちは多くいるけど、適当にあしらった。
ナグナ様たちの事をそれとなく聞いてみたのだけど、ウッカが高等部に来ていて、ナグナ様たちはそれを守るためと授業に出てないらしい。ウッカも教育は施しているから中等部では主席らしいんだけど、だからってなんで授業中に高等部に来ているのかしら? とちょっと謎だった。
なんか、中等部ではそこそこ嫌がらせははじまっているらしい。ウッカに好意的な人が中等部には多いみたいで、中等部の方で起こっている事はそこまで酷い嫌がらせではないみたいだけど。
ナグナ様たちが「俺たちの傍にいた方が危険はない」とかいったらしい。どちらかというと、高等部で一緒に居る方が危険だと思うのだけど、そういう思考には至らないのかしら?
ウッカはまだ14歳だし、ちょっと足らないところがあるから……まぁ、そういう所も可愛いんだけど……わかるんだけど、ナグナ様たちはそれでいいと思ったのはなんでなんだろう。ナグナ様たちと仲良いからあまり周りによく思われていないっていうのに。
……でももうウッカも中等部に上がったわけだし、ナザント公爵の妹としてどこかに嫁ぐ前に教育に力を入れなきゃ。高等部卒業までにそういうことを教えられれば上出来だろう。
私は十歳でお母様が亡くなってから自主的に色々と学んだけれど、普通十歳児はあんな風に色々は学ばないしね。私もお母様とお父様が生きていたら我儘に育っていた可能性だってあるし、世間知らずに育っていた可能性も十分にある。
それを考えると、学び続けていてよかったと思った。突然二人が亡くなった時に、私がそういう存在だったらと思うと恐ろしい。そもそもクラウンド先生と交流がなかったら後見人がどうなっていたかもわからないし。ナザント領はこんな風に上手くいかなかっただろう。
まだ右も左もわからない子供しか取り残されていない公爵家なんて、欲にくらんだものたちにとってみれば恰好の獲物であるんだから。
今日はギルはいた。
ギルとは、挨拶だけを交わした。
話したい事は沢山あったけれど、我慢をした。
それからただ普通に授業を受けた。もちろん、情報収集は欠かさずにやってはいるけど。
それによると私がウッカを苛めたっていう噂は結構広まっているらしい。意図的に広められているみたいだし、ナグナ様たちがそれを信じてしまっているからもあって広まりが激しいんだとか。
でも幾ら私が気に食わないとはいえ、嘘でもいいから婚約者の味方だといった方が良いと思うんだけどね。ナグナ様って良い意味でも悪い意味でも取り繕うことが出来ない方である。第三王子だからそうやって育つ事を許されていたわけだけど、不仲だってことで色々と噂もされてはいる。
あとウッカについては、中等部から男をあさりに来ているとか言われているらしい。うーん、私の可愛い妹はそんなことには関心ないってヤーグに聞いていたんだけど、そもそもウッカは何をしたいのかしら。
わからないけれど、とりあえずウッカたちに接触をしようと思って、ウッカたちがいるという場所に向かっていたら、
「お姉様…」
ウッカたちの方がこちらに来た。
周りには人が沢山いる中でウッカとその周りにいる人気者たちと遭遇した。
正直話をするなら人気があまりない場所の方が良かったけれど、会ってしまったものは仕方がない。
「エリザベス・ナザント!」
「なにかしら?」
ナグナ様が荒げた声で私の名を呼んだ。
それに笑みを張り付けて問いかける。
「----実の妹であるウッカ・ナザントを苛めた罪で貴様を俺たちは糾弾する!」
なんだか、そんな宣言をされたわ。




