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学園には全然通う暇はない。
ギルに会えないのはなんだか寂しい。私はまだまだ色々足りなくて、私が『ナザント公爵』として認められるために、親が亡くなり公爵位を継いだだけの小娘だと侮られることがないように。
そうしなければ、下手にこちらに手を出してくる貴族が居ないようにしなければ。
―――ウッカに手を出される事などないように。可愛いウッカが大変な目に合わないように。力が居る。守るための力が。
失わないために。
そういう思考に陥って、失うことが怖いと改めて思う。
お母様もお父様も、居ない。
こういう時傍にいてほしい二人は、居ない。
ウッカの顔も最近見れていない。報告として聞いているだけ。ギルの顔も見れていない。さびしいなと思う。ミモリは手伝いにきてもらっているからよく合うけど、ギルとは本当会えない。
ウッカとギル。
二人とも大切な人。
幼い頃に思いを馳せる。三人で笑い合った日々。貴族としての義務とか、貴族として狙われる事とかそういうことを自覚していなかった子供のころ。
ただ、何の不安もなく、守られて笑ってた。
お母様が居なくなることも、想像をしていなかった。
目の前で亡くなったお母様。私の強さがなかったから、って今でも思う。もっと何かしら対処していたらお母様はなくならなかったんじゃないかって。
それからウッカと距離を置いた。
ウッカを失いたくないから。
ギルとは一緒に居た。
ギルは変わらない。変わらず、私の傍にいてくれる。それに安心している。
私がなんだかんだで前に進めてきたのはギルが居たからだ。
お父様が亡くなっても、前に進めたのは、周りの支えがあったから。
ウッカももう中等部に入学した。時が経つのははやいっておばさんみたいなことを考えてしまう。
ウッカはなぜか高等部に顔を出している。
そしてナグナ様と仲良いのはずっとだが、ナグナ様の友人たちとも親しくなっているらしい。高等部に来るときは高等部の人気者たちに囲まれているのだとか。
……正直報告を聞いた時、ウッカは何をしているのだろうって思ったの。
ヤーグとルサーナが傍に居るから心配はしていないけれど、何か起こったらどうしようって。
そもそもなんでウッカが高等部に行っているのか全然わからない。
まぁ、とりあえずヤーグたちが何とかしてくれるだろう。現状、力のあるナザント公爵家に手を出そうとする家はほとんどないわけだし。
「エリザベス様、こちらは――」
「エリザベス様、王妃殿下から――」
領民たちが暮らしやすいように領地を整えたり、サンティーナ様たちから頼まれた事をこなしたり、バタバタしていた。
領民からの評価は、概ね良いといえるだろうか。配下たちに領地の情報収集はしてもらっている。私も時々いっている。顔がバレているからあんまりいけないけれど。
飴と鞭を使いこなすことが一番良い。
下手に飴を与えすぎても、ナザント公爵という大貴族である私がやれば問題になる。身分差は必要なもので、ない方が問題になる。というか、なくすにしても時間をかけてやらなければ無法地帯状態になる想像しかない。飴ばかり与えて、私と領民を同じ位置にしたらそれはそれで問題だ。
でも鞭を与え続けても、暴動が起きる。圧政を敷き続けても、力で押さえつけたものには限界が来る。
中間が良いのだ。
それを私は出来ているだろうか。色々問題はある。不満も上がってきたりもする。それをなくす努力は出来ても、それを完全になくす事は出来ない。それは理想でしかない。
頑張れば報われるなんて思ってはいないけれど、こうしてこつこつ積み重ねていることが確かに結果として、何かしらかえって来ればよいとそんな風に思う。
「エリザベス様、次は―――」
配下の者たちからの声を聞きながら、私はナザント公爵家当主としての仕事をこなしていった。
時には相手を追い詰め、時には領民たちが幸せになるように行動し、時には逆らうものを断罪し―――、そういう貴族としての日常をこなしていく。
ふとした瞬間にギルに会いたいななどと感じるから、その考えを振りほどくためにもただ一心に仕事をした。
そうして、季節は過ぎる。
季節は春になる。私も、高等部二年生へと進学する。ウッカも、また一年進学する。
その間にウッカはナグナ様たち一行と益々仲が良くなったようだ。




