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「そう……」
探らせて発覚した事実に、私は内心動揺しながらもそう告げた。パーティーの最中、周りに悟られないようにカートラたちから報告を聞くのも大変だ。
全員にバレていないって事はないだろう。私はそこまで社交界の場を知っているわけでもなく、どれだけ隠そうとしていても隠し事は誰にもバレないというのはありえないのだから。
聞いた話は、私にだけ伝わるように彼女たちがこっそりと教えてくれたのは、先ほど話したクィア様が狙われているということだった。
私の住んでいるカサッド王国で、王位継承権があるのは何人もいるが(王族の親類も含めて)、継承位第一位のイリヤ様は立派な方で、王太子としての地位を確立している。
その地位を誰かに渡さないようにと基盤も作ってあり、王位を狙うものは少なく、狙うものがいてもどうにかできるようにしている。
が、クィア様の国はそうではないらしい。
母親の違う五人の王子がおり、王位争いが苛烈であるというのは、情報として知っている。
クィア様は第二王子という立場である。継承権第一位の、王太子よりは狙われていないかもしれないが、継承権が高いのもあって色々な思惑から狙われているようだ。
さて、どうするべきか。
知ってしまったからには放ってはおけない。
というか、クィア様自身も自分を狙うものがいるという情報ぐらいはつかんでいるだろう。ついこの前ナザント公爵家を継いだばかりの小娘な私とは違ってクィア様は王族で、生まれた時から王位継承権を所持していた人なのだから。
とりあえず、私はこの手に入れた情報をサンティーナ様たちに伝えようと思った。あちらで既に情報はつかんでいるかもしれないけれども、カサッド王国が主催のパーティーの中で、王族が暗殺なんてことになったら大問題だ。
イサート様とサンティーナ様は、沢山の人に囲まれている。
イリヤ様は……、お二人とは少し離れた位置で、参加者たちとお話をされている。
どちらならば接触しやすいかと考えて、イリヤ様に伝える事にした。カートラたちに探らせた情報の中には、この場で自由に動けるからこそ手に入る情報もいくつも見られた。
もしかしたらイリヤ様たちが把握していない情報も私が知っているかもしれないのだ。
私の動ける手駒は、給仕の中に紛らせているウェンとサリーとカートラだけだ。そんな私が動けることなんて限られている。
それよりも、イリヤ様たちに伝えた方が良い。
「イリヤ様、ごきげんよう」
自然な感じで、イリヤ様に挨拶をする。
イリヤがこちらを見た。イリヤ様は、今年21歳になる。その年で今の所お相手がいないのもあって(今選別中らしいとは聞いた)、いたる所で令嬢たちに囲まれていたりするらしい。まぁ、このパーティーに参加できるのは当主とかばかりだから、あんまりそういう肉食系のご令嬢は見られないけれども。
「エリザベスか」
「ええ」
「楽しんでいるか?」
「はい。このような大きな規模のパーティーに参加をするのははじめてなので緊張はありますが、楽しんでおります」
そういいながらイリヤ様に近づく。
どのタイミングで、どう伝えるべきか、それに思い悩む。もう少し私が経験豊富ならば、いくらでもこういう状況で情報を伝える手を持ち合わせているのかもしれないが、生憎私は当主になってまだ日も浅く、お父様が予想外に早く亡くなられたからあまりそういう技術を受け継いでいない。
イリヤ様は私の意図を読み取ったのだろうか、向こうから近づいてきた。これで噂されるかもしれないが、そんな噂はとりあえずおいておこう。
「クィア様を狙う、方法、裏切りによる呼び出し」
早口で伝えたそれ。カートラたちが探った情報。クィア様は、人質を取られた親しい従者による裏切りで呼び出される。そしてそこで殺そうと企んでいるらしいのだ。
尤も、カートラたちがこの情報を手に入れたのは本当に偶然らしい。
たまたま、そういう事を話している場面に出くわして、獣人であるが故に少し離れていても声を聞くことが出来、身軽であるが故に、隠れることが出来たらしい。
私の言葉にイリヤ様が目を細めた。
「第五王子」
狙っているのはどうやら第五王子の陣営であるらしいことも、会話から見られたとカートラが言っていた。正しいかはわからないけれども。
「まだ、未確定情報ですが」
ただそういって離れる。イリヤ様は、なるべく平然を保ちながらいった私の言葉に、動揺など一切見せずに笑みを作った。
「では、私は行きますわ。また」
「また」に込められたのは、引き続き何かしらわかったら伝えるということ。イリヤ様は頷いてくれた。
私はこの会場内から動けないから、実際に動くのはカートラたちだ。
あの三人には無茶をさせてしまうけれども、頑張ってもらおう。
一旦感想を受け付けないにしてます。
完結させてからまた設定変えます




