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ウッカが中等部に入学した。私も、高等部に進学をした。
ヤーグはそれとなく、入学式の日にウッカに近づいてくれたという。ガター伯爵家は私に不快感を持っているってことにしてあるから、そういう風な態度で近づいてもらったの。
家でばかり過ごしていたウッカは、外に出ようともしていなかった。だから仲が良い友達とか居なくて、中等部でクラスメイトたちと仲良くできることが嬉しいって態度をしているらしい。はぁ、そんな可愛いウッカの姿を生で見ることがかなわないなんてとため息が漏れそうになる。フラリやルサーナ、ヤーグからは話を聞く事は出来るけど、生で見れたらどれだけ可愛いのだろうかってそんな気分にさえなってしまう。
過保護にしすぎてはいけないってわかっているけれど、それでもやっぱり心配になってしまう。ウッカは可愛いから悪い虫がついてしまわないかという不安もある。ウッカの将来のお相手についても厳選しなければ。いや、ウッカが自分で連れてきてくれるのも別にかまわないんだけど。でも、ウッカのお相手として認められる相手じゃなければ許せないわ。可愛いウッカが幸せになれるようにしなければ!
高等部に入学してからも私はばたばたと忙しくて、相変わらず学園にあんまり通えていない。ギルも、家を継ぐために色々勉強しなきゃだからって実家にいることも多いらしい。というか、高等部は中等部よりも、将来のためにと事情を説明すれば学園はある程度成績をとっておけばそれなりに通っておけばなんとかなるものである。
さて、私は高等部に上がってしばらくして、イサート様から一通の社交界への招待状を受け取った。
それは他国の王族貴族も訪れる建国祭に『ナザント家当主』として参加するようにということだった。
去年までは私は当主ではなかったから、だからそれには参加していなかった。今年は参加をする必要がある。
正直他国の王族貴族も訪れるようなパーティーに参加するというのは緊張する。ナザント公爵家の当主として上手く出来るだろうかという不安はある。だけど、私はもう当主で甘えるわけにはいかない。これから幾らでもそういうパーティーに出なければならないのだから、最初の一歩を踏み出さなければならない。
「建国祭か」
「ええ」
アサギ兄様と、私は会話を交わしていた。
「ちゃんとやらなければならないから、緊張するわ」
「そりゃあ、最初だからな。まぁ、気楽にってのは無理かもしれないけれど、いつも通りやれば問題ないだろう」
「とりあえず、何事も経験だから頑張るわ」
経験は少なからず人の人生の糧にはなるものだとは思っている。良い事でも悪い事でも、何かの勉強にはなる。色々と不安は大きいけれども、『ナザント公爵家当主』として、上手くやってみせる。
「……他国の人間もいるってことはいつも以上に何か起こる可能性も考えておかなければならないわ。イサート様たちにナザント家の者を、給仕に入れてもらってもいいか聞いてみようかしら」
「……そうするなら奴隷の首輪を外した方がよくないか? そんなパーティーに奴隷が給仕としているなんて問題だろう」
「そうですわね。なら―――」
確かにそうである。何れ、奴隷たちの首輪は外していくつもりだった。奴隷をやめたとしてもナザント公爵家で働いてくれそうな子たちから。
だから私はアサギ兄様の言葉に頷いた。
それから考えた。誰なら護衛として連れていって大丈夫かを。奴隷の首輪を外しても問題がないかを。
そして考えた末に、ウェンとサリーとカートラの首輪をはずすことにした。
パーティーがはじまる少し前に、私は彼らを呼び出した。その時にはイサート様から了承の返事も来ていた。
「これから、貴方たちの奴隷の首輪を外そうと思うの。パーティーに給仕として貴方たちを紛れ込ませたいから」
まっすぐに三人の瞳を見つめていった。
「……貴方たちは奴隷ではなくなる。でも、これまでの関係で居てほしいの。私の下で働いてほしいの。いいわね?」
「もちろんです」
「構わないです」
「はい!」
私の言葉に、三人は頷いてくれた。まぁ、奴隷だったとはいえ衣食住はちゃんと与えているし、やりたいことはやらせているし、不満はないのだろう。ほっとする。
奴隷の首輪を外した。でも、そんなもの、あってもなくても、結局関係は変わらない。
そのことが嬉しかった。
それから彼らを王宮へとやった。給仕としてパーティーに参加するのだから王宮の人たちと上手く連携する必要もあるからだ。
そして私はパーティーの準備に忙しかった。何を着ていくかとかも重要で、あーでもないこーでもないと悩んで決めた。
それから、しばらくしてパーティーの当日がやってきた。
お父様、頑張りますって心の中で空を見上げて決意しながらも私は王宮へと向かうのであった。




