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大ババ様の元へと向かった。
大ババ様は久しぶりに現れた私を気遣ってくれた。優しい人だ。『魔女』の人たちは保護の代わりに無理やり動かされる立場にあるのに優しい。
「エリザベス様、お久しぶりです。お話は聞いております。こちらは疲れに利く薬です」
ってそんな風に渡してくれた。一応毒味もしてからその薬を飲むことにした。色々疑う事は貴族として必要なことであるのだから。というか、もし、私が死んでしまったら残されたウッカがどうなるかわかったものではないもの。
毒殺にも一層気を付けるべきになった。
毒の見分けも自分でももっと出来るようになりたかった。
「ありがとう。大ババ様、今日も色々教えてもらえるかしら?」
そう問いかけて、色々教えてもらった。私だけじゃなくて、奴隷たちも連れてきた。彼らもそういうことを知っていた方があとから色々やりやすかったから。私が時々学園に通う間も、配下の子たちは色々と学んでくれていたり手伝ってくれている。本当に助かっている。
「エリザベス様、無茶はしないでくださいませ」
「ええ、心配かけてごめんなさいね、大ババ様」
「エリザベス様が倒れられたら、私たちもどうなるかわかりませんので」
そういう言い方をしていたけれど、大ババ様が私を心配してそういうことを言っている事はよくわかった。
大ババ様は優しい人で、だからこそこの『魔女』の一族の事をまとめ上げることが出来るのだろう。
大ババ様の言葉には考えさせられる。私が倒れたら本当に沢山の人に迷惑がかかってしまう。大事な妹であるウッカにも、配下の子たちにも、『魔女』の一族たちにも。そして領民たちにも。私の命は私だけのものなんかではない。沢山の物を私は背負っている。そのことを忘れてはいけない。私は自分の命を大事にしなければならない、これからのことを考えるとそれは重要なことだ。
頑張り続けることは大事だけども、それでも自分の体調に考慮してもっと行わなければならないというのはお母様が亡くなったあと、一回やらかしてギルにも心配をかけてしまったから、わかっている。
時間が欲しい。もっと時間があればとやっぱりどこか焦ってしまうのは、私が未熟だからだろうか。
もっと強くなりたい。すべてを守れるように、失わないように。
そればかり私はずっと願ってる。
二度と失いたくないなんて感情は傲慢かもしれない。
それでも、それを望んでしまうから私はこうしてここにいる。失っても構わないならこんなにも必死にはならない。
「でも、思い詰めてはダメですよ、エリザベス様。私たちもいますから、なにかあったら、ご相談してください。エリザベス様は一人ではないのですから」
大ババ様はそうもいって笑ってくれた。一人ではないってそんな風な言葉が私には本当に嬉しかった。
大ババ様たち、『魔女』の一族としばらく過ごして別れた。次にいつ、ここにこれるかわからないけれど、また時間を見つけて時々ここにこようと思った。
それから、慌ただしく私は過ごした。
気がつけばあっという間に時間は過ぎていき、中等部の卒業式を迎えていた。中等部の三年の年は、当主を継いでばたばたしていて、全然学校にこれなかった。
ただ、学校には通っていなくても勉強はしていたから、主席を維持していた。卒業生代表の言葉は、私が言うことになっていた。次席は、ギルで、三席がナグナ様。
ナグナ様は主席の座を私から一度も奪えなかったことを悔しく思っているようだ。卒業生代表のあいさつをする私をナグナ様は睨みつけてきた。学園に全然通えていない私が主席なのはナグナ様にとって不服な事なのだろう。
「エリー、卒業おめでとう」
「ええ、ギルもおめでとう」
卒業式が終わって、ギルとそんな風に笑い合った。
私の保護者はもう誰もいない。卒業式を見に来てくれる存在はいない。だけど代わりにギルの両親が私の分まで祝福してくれた。嬉しかった。色々と当主を継いで忙しくて、ギルと一緒に話すのもちょっと久しぶりで、そうやって会話を交わせることに幸せを感じた。
ギルは私が『ナザント公爵家の次期当主』だろうと、『ナザント公爵家当主』だろうと変わらない。ギルはギルで、ギルの前では私はただのエリザベスなのだ。それが、とても心地よい。
ギルと一緒に居れないのはさびしいし、喋っていられたら本当に、心の底から安心できる。
これが、兄妹のような家族愛なのか、親友に対する友愛なのか、それとも溢れるほどの恋愛の意味の愛情なのか、私にはやっぱりさっぱりわからない。
でも結局わかったところで、私には婚約者がいて、このままいけば私とナグナ様は結婚する。貴族とは、そういうものである。考えても仕方はない。
「どうしたの、エリー」
「なんでもないわ。ギル、また高等部で会いましょう」
年頃の男女で、婚約者でもないから私的に会う事は出来ない。そうすれば不貞を疑われるから。だから、次にギルと会えるのは高等部だろう。
私の言葉にギルも笑ってうなずいてくれた。
高等部に上がれば、私の可愛いウッカも中等部に入学する。あの子を守るために気を引き締めよう。




