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お父様が生きている間、全然こちらに近づいてこようとしなかった親戚だと名乗る人々がよく私の元に本当によくやってくる。
それらに対する対処は、正直疲れてしまう。
あしらってはいるのだけれども、私にあしらわれた彼らは色々とこそこそやっているという話である。きな臭い話だ。何かナザント領を悪い風にしようとしているのならば、どうにかしなければならない。
配下の者に調べるように命じれば、私を亡き者にしようと考えていたらしい。私がいなくなれば次は――と思っているようだ。ウッカならば、簡単に操れるだろうってそんな風に思っているのかもしれない。
そんなの許せるわけもない。
私がダメならウッカをなんて、そんなこと、させない。
「―――どうにか、しなければね」
ウッカは、可愛い妹は、危険な目にさらしたくない。笑っててほしい。幸せになってほしい。ウッカは私のたった一人の妹だから。たった一人の、家族だから。
「エリーを狙っているという事ですから、現場を押さえて罰を処するのが一番ですわね。一人でも罰せれば小心者であればエリーに恐れをなして、行動に出ないでしょう」
そういったのは、学園で親しくなった少女で、伯爵家の三女でメグという。
噂に惑わされず私と仲良くしてくれる人たち。本当にうれしい。
「そうね……」
「当主を狙うということですから、処刑をしたほうが手っ取り早いでしょうね」
「そうね、処刑か……」
私の命を狙っているというのなら、それだけで罪になる。ナザント公爵という、大貴族を狙うのだから。
それなりの報復をしなければならない。
それも、近づいてくるナザント領を自由にしたいっていう人たちを黙らせるだけの事をしなければならない。そのためには現場をとらえて処刑するのが一番なのかもしれない。
でもそういう指示を出すのは、正直恐ろしいと思う。
それで怯えていたらどうしようもない。私はもう、ナザント公爵の当主になったのだから。
それからメグの意見を参考に、アサギ兄様と話して、結局そういう存在をおびき寄せることにした。
お話をしましょう、と手紙をしたためた。
飛びついてきた。私を言いくるめるか、殺すか、そんな風にしようと思っているのだろう。
処刑とか、本当はしたくない。
でもどこかで、どうにかしなければ、これからどんどんナザント公爵の力を求めて色々と集まってくる。嘗められないようにしなければならない。私が、ナザント公爵としてやっていけるってことを証明しなければならない。
だから、頑張ったの。
正直おびき寄せるのも怖かったけど、みんながいてくれたから上手く対応をして、そうしてなるべく怒らせるようにあおったの。
そうしたら、逆上してこちらを殺しにかかるかもしれないと思ったから。こちらを殺しにかかるというのならば、それはそれでやりやすかったのだから。
結局彼は、ムナの前で私の毒を盛ろうとした。それで発覚してすぐさまとらえられた。
「ひいぃい」
処刑を言い渡した時の顔は忘れられない。私に盛られたのはじわじわと時間が経過して、苦しみながら死ぬというものだった。ムナがいてくれて本当に助かる。
嘆願をしてきた。
殺さないでくれと。
助けてくれと。
でも、それには頷けなかった。
男を処刑した。少し噂が流れた。そして、寄ってくる人間が減った。
処刑は怖かった。でも必要なことだった。
私という存在が、貴族社会で生きていけるようにしなければならない。
立派に、ナザント公爵として生きるために。
ナザント領をよくしたい。大好きなこの領地を、お父様から継いだこと場所を私はよくしていきたい。
そのために、もっともっとやれることがあるはずだから。
少しずつでもいいから、よくしていきたい。
ここを、この場所を。
学園には全然行けていない。それよりも、領地の方が大事なのだ。まぁ、試験は受けなきゃいけないし、勉強は怠っていないけれども。
色々忙しくて、やることが沢山ある。
「ふぅ」
息を吐く。
沢山の書類に目を通して、お父様がやってきた事を学んだり、引き継いだり。目が疲れてもくる。
「エリザベス様、これ、目の疲れに利く薬草入りのお茶です」
そういってムナが差し出してくれたお茶を飲む。ちょっと苦いけど、温かくて、疲れが取れる。
「ありがとう、ムナ。助かるわ」
「あと大ババ様がエリザベス様が最近来ない事嘆いていました」
「あら、そうなの? 時間が出来たらいかせてもらうわ」
『魔女』の一族の集落には最近行けていなかった。学園に通ってからは全然だ。ツードン公爵の事もあったし、お父様が亡くなってナザント公爵を継ぐことになってばたばたしていたからだ。
でも今度息抜きもかねて大ババ様のもとにいってもいいかもしれない、そんな風に思えた。




