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領地を経営することってこんなに難しいんだって、やってみてああと思った。私のお父様はどれだけ偉大だったんだろうって。
お父様はきちんとしていて、ちゃんと領地を回していて。
お父様は私にとって、大好きで、優しい、そして立派な領主だったんだ。
ばたばたとしながら、色々な事をアサギ兄様から習っていく。時々クラウンド先生もやってきて、色々教えてくれたりする。
こういう状況になってみて、私はクラウンド先生とアサギ兄様と出会えていてよかったって思った。もし、私がそういうつながりもなしに、お父様をなくしていたら後見人がどんな人になるかもわからないし、色々と大変だったかもしれないから。
今までのつながりとか、やってきたこととかは無駄になんかならないんだって。
少なからずそういうことは私の糧になっていくんだって。それを実感できて。なんだか嬉しかった。
奴隷であるサリー、ヒラリ、エーマ、レンナ、ツントは頭を使うことが好きみたいだから領地経営を手伝ってもらっている。そもそも私の手足となる存在を作るために奴隷を買っていたのだから、手伝わせるのは当たり前である。
あと孤児の子供たちにも教育をして、手伝ってもらったりする。まぁ、中にはほかの仕事に就きたいって言っている人もいるけど。それはそれで別に良い。優秀な人材がこの領地から出ていくのはいいことだしね。
一番最初に私のもとにやってきた五人の孤児は、「エリザベス様のために頑張ります」って残っているけど。あと他にも何人かは。
『魔女』の一族からも優秀な人材をこちらにやってもらって、何人かは手伝ってくれているし。ミモリとか、あと以前に親しくなった家を継げない優秀な生徒たちも手伝ってくれている。
それらは、お母様が亡くなってから私が作ってきたつながりなのだ。
私は本乙に沢山の人に支えられて、今、ここにいる。
こうして、前に進めている。
とりあえず、私はクラウンド先生の教えを受け継いでいるから、現地を見てこそだと思っているから、この広いナザント領を見て回ることにしていた。
私は領地に顔を出していたけれども、それは家から近い範囲でしかないし、もっと領地は広いのだ。私の顔を知らない領民もいるだろうし、視察は大事である。
「ウェン、カートラ、ケル、ムナ、私を守ってね」
そういって、笑いかけたら頷いてくれた。
もちろん、彼らだけではない。ナザント領の私兵たちだっているし、ツードン公爵家のいざこざで私の下についた傭兵たちとかもいる。
私が顔を出していた家の周辺の領地は、領地内で最も安全とされていた場所だった。
家から離れた領地は、飢えはしないけれども生活が厳しい面があるといった場所もあった。お父様はそういう人たちに仕事を与えて、金銭や食べ物を与えたりとかしていたみたいだ。
広い領地だと、その中で貧困な人は飢えて亡くなったりとかもするから領民が飢えることがないようにしていたお父様は凄いと思っている。
でも、生活が厳しいって人も中にはやっぱりいて。そういう人たちはお父様に怒りの思いを持っている人もいたみたいだった。全員に好かれるトップなんてありえないのだろう。それはわかっている。王国全体で見てみても、王国民全員が王家に畏敬の念を持っているわけでもない。
そういうものは、ありえない。
それは、理想でしかない。
あんなにやさしいお父様でもそういう気持ちを持たれていたのだと思うと、私は本当に上手く出来るのだろうかという不安が大きく膨れ上がる。
領地内の色々な場所に顔を出した時、「こんな小娘に何が出来るんだ」みたいな視線を向けられたりもした。
ツードン様の事とかも噂されているから、そのことでこちらを怯えたように見つめてくる人とかも。
まぁ、仕方がない事である。
平民にとってみれば貴族は、恐れ多い存在である。貴族の中には、本当にびっくりするような小さなことで平民を罰したりもするのだから。
クラウンド先生には、「領民は甘やかしていたら大変な目にあいますから、それなりに飴と鞭を使いこなさなければなりませんよ」と言われたし、優しくしたいと思うけれどそういう風に出来るようにしなければならない。
嘗められないように。
領民たちが暴走しないように。
そうしなければならない。
で、そういう風に考えて動いていたらようやく私はウッカにもそれはあてはまるのではないかと思えてきた。
私はウッカを危険から遠ざけていた。甘やかしていたって。ツードン公爵家の事が解決するまでは色々と命の危険とかもあったから仕方がないにしても、最大の脅威はなくなったのだから、本当に危険なもの以外は遠ざけるのはなくすべきかと。
本当にようやくなのだけれども、そういう思考にいった。
だからルサーナたちにも本当に危険な事以外は放置していいといった。ウッカを守ろうって、私はウッカを籠の中の鳥のようにしていたから。少しぐらい冒険したほうが、ウッカも色々と経験出来るのかなって思って。
そんな風に色々と心境の変化も起きたのである。




