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私のお披露目が行われた。
領民たちは、新しい若き領主である私への好奇心からか、沢山の人が見に来ている。
ウェンたちに見に行かせた所、私が親しくしていたシュマたちだってその中にはもちろんいるらしい。
お披露目の前に、私は、一人で色々と考えていた。
私はナザント公爵を継ぐのだと、そのことを改めて実感する。お父様が亡くなって、バタバタしながら公爵家を継ぐ準備をして、そうして今日が来た。
導いてくれる人たちはいる。助けてくれる人はいる。
でも、こんな場にお父様とお母様がいないことがただ悲しい。二人が居たら、この胸の内に存在する不安だってどうにかなると思うのに。
そんな気持ちになるけれども、そんなこと考えても仕方がないことはわかっている。失ったものはもう二度と戻らないと、そんなこと私はわかっている。
それでも、失ってしまった大切な人たちに会いたいと願ってしまうのも、仕方がない事だ。
大切だったからこそ、大好きだったからこそ、もう一度と夢見る。それは、かなわないと知っているけれども。
―――でも、もう近くにいてくれなくても、お父様とお母様は私の事を見守っててくれている。ずっと味方でいてくれている。
私は、お父様たちに心配をかけないように、私はこれからもがんばろう。
―――大丈夫。私は、頑張れる。ウッカを守るために、そしてこの大切なナザント領をよくするために。そのためなら、なんだってしよう。
「エリー」
アサギ兄様に声をかけられる。気づけば、アサギ兄様が部屋に入ってきていた。
「もう、時間だよ。行けるか?」
「ええ、行けますわ」
アサギ兄様の言葉に私は頷く。
椅子から立ち上がる。目を閉じる。さまざまなことが思い起こされる。お母様が亡くなって、それから色々と考えて、そして、もう失わないようにしようって、ナザント公爵家を継ぐために頑張ろうって今まで頑張ってきて。
様々な人に出会って、色々と経験をした。
私は、これからナザント公爵として正式に立つ。
目を開ける。
アサギ兄様が、「行くぞ」とこちらに向けて言葉を放つ。私はそれに頷いて、先を歩くアサギ兄様の後に続いた。
――――さぁ、ただのエリーとはもうお別れだ。
その場に現れた私を見て、驚いたような顔を浮かべる人も群衆の中には見られた。
私が親しくしていた人たち。私をただの「エリー」として仲良くしてくれていた人たち。
もう、ただの「エリー」として接することが許されない人たち。
「はじめまして。私はこの度、ナザント公爵を継ぐことになったエリザベス・ナザントですわ」
声を発した。
こんな大勢の前で言葉を言い放つというだけでも緊張したけれども、それでもやらないわけにはいかない。
堂々と前を見よう。
不安な心を外に出さないようにして。
不安は伝染してしまうものだから。
ただでさえ、ナザント公爵であったお父様が亡くなって、まだ若い私が領主を継ぐという事を不安に思っている人は沢山いるだろう。
そんな人たちを、安心させなければならない。
私は笑って欲しいと望んでいる。
この大好きなナザント領で、大切な領民たちが幸せになってくれることを私は願っている。
だからこそ、笑みをその顔に張り付ける。
「このナザント領を、お父様の残したこの領を、私の持てる全てを使って、全力を持って、繁栄させることをここに誓いますわ」
堂々と言い放つのは、それを成し遂げたいと私が願っているからだ。
成し遂げたい夢を、成し遂げるために、その理想をかなえるために、その決意を言い放った。
私の言葉に、彼らが騒ぎ出すのがわかった。
不安そうに、何か言いたそうにこちらを見る目も存在していた。
私はただ、領民たちに向かってにこりと笑いかけて、そうして領民たちの前から姿を消した。
私はそうして、その場でへたりこんだ。
あんな大勢の前で言葉を放つことに自分でも信じられないほどに緊張していたらしい。
「エリー、お疲れ様」
「はい、ちょっと緊張してしまいましたわ。これからもっと大勢の前に出なければならない身だといいますのに、私は情けないですわね。アサギ兄様」
「いや、立派だよ。俺はその年でそれだけ立派に出来る奴なんてそうは知らない」
「……そう、いってもらえてうれしいですわ。でも、私はもっと頑張りますわ」
そう、頑張ろう。もっと。そして様々な事を経験して、お父様のように出来るようにしよう。それは難しいかもしれないけれど、やる前から出来ないかもしれないなんてあきらめたくはない。
頑張れば少なからずどうにかなるのではないかとそういう期待で、絶対にかなえてみせるというその思いで、私は頑張る事を決めた。
しばらくして、緊張がほぐれて立ち上がった私。
私は空を見上げる。これが、第一歩。公爵を継いだ事ははじまりにしか過ぎない。
やるべきこと、やらなければならないこと沢山ある。
お父様、お母様、私はこれからもがんばります。だから、私を見守ってください。そしてウッカの事を守ってください。って、そんな風に思いをはせるのだった。




