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 「――え?」

 その知らせが舞い込んできたとき、私は信じられなかった。

 いつもかぶっていた仮面が、その時は完全にはがれていたと思う。でもそれだけの衝撃があったのだ。

 誕生日が過ぎて、中等部の三学年として学園に通っている中で、呼び出された。そして呼び出された先には、家に仕える使用人がいて。

 「――――ガヴィア様が亡くなられました」

 告げられた言葉は、理解できなくて。いえ、理解なんてしたくなくて。

 ガヴィアは、お父様の名だ。

 亡くなられたといった。亡くなられたとは、死んだという意味で――。

 「……どう、して」

 「事故です……。馬車に轢かれてしまったのです」

 そういって彼は話し始めた。

 お父様は馬車に轢かれてしまったらしい。轢いてしまった馬車の所有者の貴族は、顔を青ざめさせて、最善を尽くしてくれたらしい。でも、お父様は死んでしまったと。

 打ち所が悪かったのだと。

 お父様はもう、いなくなってしまったのだなんて信じたくなかった。

 でも、真剣な顔で彼は語って。それは本当の事なんだと私に実感させる。

 嘘だと笑って欲しかった。でも、残酷な出来事はいつだって突然に訪れてしまうものだ。

 ―――特に人の死は。

 お母様のときだってそうだった。

 そして今回はお父様の番。人はいつか死ぬとは知っていたけれど、こんなにはやくお父様までいなくなるだなんて考えてもいなかった。

 学園を早退して、馬車に乗った。

 実家へと向かうために。

 一緒に実家へと向かうウェンたちにも言葉はない。

 彼らもお父様によくしてもらっていたのだ。……お父様は、私を大切にしてくれていた。

 大切にしてくれていて、それでいて私がやりたいようにやらせてくれた。

 お父様、お父様、お父様!!

 どうしようもない衝動が私を襲って。帰ったら嘘だったって、勘違いだったって、お父様が「お帰り、エリー」って笑いかけてくれるんじゃないかなんて期待して。



 でも、そんな期待がかなうことなどありえなかった。




 「――お父様ぁああああ、お父様ああああああ」

 泣きじゃくるウッカがいる。横たわったまま、動かないお父様が居る。

 お父様は物言わぬ死体になっていた。

 その周りには使用人たちと、そしてお父様を轢いてしまった馬車の主が居る。

 彼は、青ざめたままそこにいた。位は男爵位らしい。元々商人であった家系が、爵位を買い取りその地位についていたらしい。

 馬車に人が轢かれるということは、どこにでもあるありふれた事故である。時々起ってしまう。でも、その被害者がお父様だなんて。

 ――――ついこの前、私が頑張るのを見ていてっていったのに。

 ―――お父様はそれに頷いてくれたのに。

 泣きたくなった。だけど、涙を我慢して、加害者と対峙した。

 彼は頭を何度も下げていた。頭を地につけて、どうにでもしてくれといっていた。彼に悪意があったわけではないだろう。若くして位を継いだらしい直後に格上の公爵を轢いてしまうなんてことになって彼もまいっていることだろう。

 彼が悪くないのはわかっていた。頭ではわかっている。

 でもこのまま目の前に居られたら私はこの人にあたってしまうことはわかっていた。感情が整理できない。お父様がいない事を受け入れたくない。悲しい、苦しい。

 「―――後日、使いをよこしますので」

 そういってかえってもらった。何か言いたそうな彼を、使用人たちに帰してもらった。

 私はウッカを見る。

 泣きじゃくる、妹を。

 私も泣きたかった。でも、やらなければならないことがある。

 お父様が亡くなった事は悲しい。苦しい。でも、お父様が亡くなったのならば、私がナザント公爵家をどうにかしなければならない。

 まずやらなければならないことはお父様のお葬式の手配。

 そしてナザント公爵家の公爵位の継承。

 「―――ウッカ」

 「………お姉様、お父様がっ、お父様がぁああ」

 「………泣き止みなさい」

 泣かないで。その悲しみは痛いほどわかるけれど、泣かないで。

 「これからお父様のお葬式の手配をします。貴方にも出席してもらいますから、今日は休みなさい」

 これから、どうしよう。お父様がこんなにはやくいなくなってしまうなんて思わなかった。

 泣き出しそうな思いに蓋をして、ウッカの事を思う。ウッカが、たった一人の家族になってしまった。私が守らなければならない、妹。

 「……お姉様はっ、悲しくないの?」

 「………いいから、お休み」

 悲しいと口にしたら泣き出してしまいそうだったから、その言葉を飲み込んだ。ウッカの傍にいたルサーナに視線を向ければ、ルサーナは頷いて、ウッカを部屋へと連れて行ってくれた。


 それから私はただ、お葬式の準備を進めた。



 お父様がかかわりがあった人たちへそれを知らせ、いつ、どこで行うのかそういう事を決めていく。

 ギルもそうしているうちに駆けつけてくれて、「エリー、泣いていいよ」って無理をしていたことにやっぱり気づかれて頭をなでられた時には泣いてしまった。

 やっぱり、ギルの前では泣けるんだ。

 ギルの傍だと安心できるんだ。

 一回泣いたら少しだけすっきりして、悲しみを胸に抱いたまま、お葬式の準備を終わらせた。






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