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 中等部、二学年は終わった。

 色々あったけれど、結果として私は生きている。死を覚悟した時もあったけれど、私は死ななかった。

 本当によかった。まだまだやりたいこと、やらなきゃいけないこと沢山あるから。

 お父様の後を立派に継ぎたい。

 それにウッカを残して逝けるわけもない。

 だから一安心した。

 少し心に余裕ができて、これから良い事ばかり起こってくれたらいいのになんて馬鹿みたいに思ってた。

 中等部三学年に上がっての、一番初めに起きた良い出来事は私の誕生日だ。

 パーティーがあった。ナグナ様は不機嫌そうだったけれど私をエスコートしてくれた。ウッカもその場にいた。私に何とも言えない視線を向けていたけれど、「おめでとうございます、お姉様」って言ってくれた。可愛かった。

 お祝いの品をもらった。

 ナグナ様は義務的にプレゼントをくれた。ギルとミモリは吟味してくれたものをくれた。奴隷たちだってプレゼントをくれた。

 沢山の人がくれたプレゼント。私は嬉しかった。

 お父様もくれた。

 「これはね――…」

 そういって差し出されたのは赤いペンダントだった。

 お母様の形見のものを新たに加工したものらしかった。美しい赤いペンダント。

 「エリーに似合うと思って」

 と嬉しそうにお父様が笑った。

 特注品なのだと。そんな風に言いながらお父様が私の首にそれを下げてくれた。

 「お父様、ありがとう!」

 私はそれをもらった時、本当に心の底から嬉しくて嬉しくてたまらなくて、久しぶりにお父様に抱きついた。

 抱きついた私にお父様は驚いた顔をした。

 お母様が亡くなってから私はこんな風にお父様に甘えるなんてこと、滅多にしなくなっていたから。だけど、驚いたあとにお父様は、笑って、私を可愛がってくれた。

 もう15歳になるのに子供っぽいといわれるかもしれない。でも、嬉しかったのだ。

 「エリーが、こんな風に甘えるのも久しぶりだね」

 「ダメでしたか? とっても嬉しくて」

 「ダメなんかじゃないさ。ずっとエリーはここ数年思いつめた顔をしていたからね、私は嬉しいよ。エリーが、明るく笑ってくれて」

 そんな風にお父様に言われた。

 そして自分の事を振り返る。思いつめた顔をしていたのは、お母様の事をずっとずっと、考えていたからだ。お母様の敵の事とか、ウッカが狙われていることとか、ナザント公爵家を敵視している人たちの事とか。

 でも、今はその問題が片付いたのだ。

 ナザント公爵家は大きな権力を持っている貴族で、権力を持つということはそれだけ危険と隣り合わせだ。でも、一番の脅威はもうなくなってくれたのだ。

 だからこそ、私の心には少し余裕ができて、安心した。

 ウッカが危険な目に合う可能性も大分低くなったことだろう。これからも身の回りには気を付けなければならないけれども、少しは余裕がもてるようになったのだ。

 「お父様、私、お母様が亡くなってからずっと怖かったのです。また誰かが失われるかもしれないこと。目の前で誰かが死ぬこと。

 お母様を殺した黒幕もどうにもできていなかったから、私はいつも気を入ったように思います。ウッカも狙われもして、ずっと怖かったんです」

 本当に怖くて。失いたくなくて。ただその思いばかりだったように思える。

 「だから余裕なんて持てなくて。恐ろしくて。ずっと怖くて。

 でも――今、ひと段落ついてほっとしています。お母様は戻ってこないけれど、お母様の敵は取れたんだって」

 安心してほっとしている。お母様は戻ってこないけれど、お母様が死ななければならない現況をどうにかできたことに。

 「……余裕を持てたから、お父様に思いっきり甘えることもできるようになったんです。だから、甘えさせてくださいませ。本当に、嬉しいんですから」

 って笑えば、お父様は頷いてくれた。

 優しくて憧れのお父様。

 私とウッカに愛情を注いでくれた優しいお母様。

 可愛い可愛い私の妹のウッカ。

 私は家族が大好きだ。家族が大好きで、だからこそ、その家族が笑っていてくれると嬉しい。

 ただ生きて、幸せになってくれればいいってウッカの事は思う。私はこれからも恨まれるようなことはきっとする。ナザント公爵家の次期当主としてそういうことをする。

 ツードン公爵家とガター伯爵家の事で、私は気に食わないものをつぶすという噂が流れている。

 学園内では、ツードン様が居なくなったのもあって私が女子生徒の中で一番上の権力者で。なんだかよくわからないことに『学園の女帝』みたいな位置になってしまっているようだ。

 「お父様、私これからもがんばりますわ。お父様の後を継げるように頑張りますの。だから見ててくださいませ」

 「ああ」

 お父様は確かに頷いた。頷いてくれた。





 だけど――――……。




 

 

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