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 「ねぇ、エリーはさ。ギルの事好きなの?」

 ある日、ミモリにそんなことを聞かれた。

 いつものように図書館で、私とミモリだけでのんびりと話していた時の事だ。

 「へ?」

 私は問いかけられた言葉に、らしくもなく驚いてしまった。確かにこの年頃だと周りの生徒たちも誰が好きだとかで盛り上がっているけれども、私にはナグナ様っていう婚約者が仮にも居るわけで、そういうものについて考えた事はなかった。

 ギルの事は大好きだ。

 でもミモリが聞いているのは、恋愛感情の事だろう。

 「……わからないわ」

 私は少し考えてそう答えた。

 私が一番大事で、大切な男の子っていったらギルが思い浮かぶ。だってギルはいつだって私を助けてくれて、安心させてくれて、感謝の気持ちをいくら伝えても伝えきれないほどだ。

 「本当に? エリーは気づかないふりをしているだけなんじゃないの?」

 私の答えに、ミモリは本を片手にそう切り出した。

 私はそんな風に言われても困ってしまった。私がギルと一緒に居るのを見て、ミモリは私がギルの事をそういう意味で好きなのかと思ったみたいだが、正直な事を言えば本当にわからない。

 恋愛なんてしたことはない。

 10歳の時にお母様が亡くなってからは必死だったし、そういうことについて考える余裕も全くなかった。

 ツードン公爵家の事をどうにかできて、少しは余裕を持てたとは思うけれどもまだまだやらなければならないことも考えなければならないことも沢山あって、恋愛なんてそんなもの頭にはなかった。

 「あのね、エリー聞いて」

 「うん?」

 黙ったままの私にミモリは切り出した。

 「私はね、好きな人居るの。既婚者で愛妻家だからどうあがいてもその人を手に入れる事は出来ないけれど、私はずっとその人が好きなの」

 その話は、はじめて聞く話だった。

 「子供のころからずっとずっと、大好きで。でもその人にはずっと大好きな人がいて。その二人はお似合いで。だから私の気持ちはかなわないし、それを無理やりかなえようという気持ちは全然ない」

 もしかしたらその好きな人の奥さんという人は、ミモリにとっても親しい存在なのかもしれない。

 「でも、好きなんだよね。時々もし思いが実ったらって妄想をしてしまったりもする。これは報われない思いだよ。でもね、好きってそういう気持ちは確かにあるの」

 ミモリは続ける。報われなくても、確かに好きだと。

 「エリーはさ、ナグナ様っていう婚約者がいるから、よっぽどのことがない限りナグナ様と結婚をする。それを前提に考えているからこそ、自分の気持ちに気づいてないだけなんじゃないかなって私は思うよ。

 それか、気づいてはいけないってそんな風に思っているんじゃないかって。でもさ、婚約者がいるからって、その人との結婚が決まっているからって、好きだって感情を気づいてはいけないってないんだよ」

 ミモリはそういって笑う。

 「好きでもいいんだよ。不倫とかはダメだけど、ただ思うのは別にいいんだって私は思っている。大好きって気持ちに蓋をしてたら大変だよ。受け入れた方がよっぽど楽だもの。だから、認めたっていいんだよ?」

 ってそんな風にミモリは言うんだ。

 別に婚約者がいても好きって気持ちを感じてはいけない理由にはならないんだってそんな風に言うのだ。

 正直そんな考え方は私の頭にはなかった。

 ナグナ様との婚約があるから。私は恋愛なんて出来ないだろうし、貴族は政略結婚をするものだから、そんなこと一切考えなくていいんだってそんな風にさえ思っていた。

 なのに。ミモリはそうではないという。

 「ねぇ、エリーがさ、ずっと一緒に居たいのはギルでしょう? ずっと一緒に居たいって願っているのは、そうなんでしょう? エリーはギルの前だといつも自然な顔しているもの」

 「……そうかな?」

 自分ではそんな自覚はない。

 ただギルの傍は安心して、ギルと話すのは好きだ。私もギルも年頃の男女で、それでいて私には婚約者がいるからギルとはあまり会えないけれど、でもそれでも私はギルに会いたいと思う。

 今まで当たり前のように沢山あっていたギルと会えないことが、学園に入学してから本当にさびしい。

 それは確かな感情で。

 でもそれだけで恋愛感情なのかと問われれば結局の所わからなくて。

 でも、だけど、私はギルが大切で。大事で。

 「やっぱり、わからないわ。ミモリ。でも私はギルのこと、失いたくないってぐらいには大切よ」

 本当にわからない。そんな感情考えた事はない。でもほかの何にも代えられないぐらい、私はギルのことが大切だ。

 失いたくなくて。本当、ギルが居なくなったらって思うだけで怖くなる。

 「……そっか、まぁ、今はそれでいいわ」

 ミモリはそんなことを言っていたけれど、ギルの事を私がどう思っているか、この感情がなんなのかわかる日が来るのか、私はその時わからなかった。


 だってギルは私の中でいつだってギルだった。ギルは居るのが当たり前で、安心させてくれて、ギルがどういう存在なのか考えたこともなかった。





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