68
ガター伯爵家の長男の話を聞いて、ガター家をどうにかすることを決意して、それからしばらくが経過した。
夏休み中は、その問題を片づけるために動いた。
お父様は、「エリーは動かなくていい」なんていってたけど、頼まれたのは私であったし、私はナザント公爵家の跡継ぎであり、見たくないものに蓋をして生きるのは嫌だったのだ。
私はナザント公爵家を継いだら、それはもう見たくないような、目を背けたくなるよな事だって見なくてはならなくなる。
―――そう、逃げてはいけない。
向きあって、そしてお父様のようになりたいから。
そんな風に口にした私に、お父様は仕方がないなとそんな表情を浮かべていた。ガター家は調べれば調べるほど、沢山の膿が出てきた。
サンティーナ様たちにもお伺いを立てて、説明をした。サンティーナ様たちにもついこの前さらわれたばかりなのにって凄く心配されてしまったけれども。
結局、ガター伯爵家を追い詰められるようになったのは長い夏休みが終わり、新学期がはじまってしばらくしてからのことだった。
沢山の情報を集める必要もあった。どのように、どう動くべきかと考えるべき時間もあった。
ウッカと同じ年であるというガター伯爵家の次男はヤーグ・ガターという。長男の名はトント・ガターである。
次男とはあえていない。長男がいうには、「この状況、どうにかしてくれるなら、配下になろうと構わない」とはいっていたらしい。
実の母親に貞操を狙われるという現状は、まだ11歳程度の少年にとってはどれほどの苦痛なのだろうか。第一、良い年した大人が、奴隷を性的な意味で食い散らかしたりするなど、おぞましいとしか言えない。
私の可愛いウッカが、もしそんな変態に狙われるかもしれないことを想像してみると、怒りしかわかない。トントもそういう気持ちなのだろう。
家族を思う心を持った人には共感できるし、個人的に好きだ。
家族というものは、かけがえのない存在だ。人によっては家族がにくいって人もいるだろうし、そういうものだけれども、私にとって家族はどうしようもなく大切な存在で、もう失いたくないと願う存在で。
だから家族を守るために、母親の魔の手から助けるためにああやってやってきたトントを助けようと思ったのだ。
お父様と共に、私兵を連れてガター家に乗り込んだ。王命だと、口にして。
王家から正式にガター家へと処分を求められた。やらかしていることが公になったからだ。
私たち側にはトントも居た。だからガター伯爵家の当主と夫人は「息子のくせに」「裏切るのか」「許さない」などと自分たちが悪い癖にそういう言葉を口にしていた。
彼はそんな両親を見て顔をゆがめていた。こんなのが両親だと思いたくないのかもしれない。
―――両親が尊敬できない場合もある。両親の事を嫌で仕方がない家庭だってある。
それを思うと私はとても恵まれていた。貴族の家っていうのは、ガター家みたいな家だってある。ドロドロとして、家族仲が悪い家もある。私は恵まれている。お母様を失ってしまったことは悲しいけれど、お母様が生きていた時幸せで。今だってお父様とウッカが居ることが幸せで。
そんな家族に生まれたことが幸せなことだと改めて実感した。
そして勘当されていたガター伯爵家当主の兄を見つけ出すこともした。その人は伯爵家は継ぎたくない、自由にしたいといっていたが、彼が卒業するまでの我慢だからということで了承してもらった。
「――――ヤーグ!!」
そして、そこではじめて次男にあった。
ヤーグという名前の、これから長い付き合いになる少年に。
ヤーグは11歳だというのに冷めた目をしていた。無邪気なウッカとは正反対だった。
トントが名を叫べばヤーグは反応を示した。
「もう、大丈夫だから」
そういって、安心させるように言うトント。ヤーグはその言葉を聞いているのか、聞いていないのか、なぜか私の事を凝視していた。
「――あなたが、エリザベス様?」
「ええ、そうよ」
トントから話を聞いていたからだろう。話しかけてきた。
「………ありがとう。助かった」
そういって、隣にお父様もいるのにヤーグはまっすぐ私を見ていた。なんでこんなに見られているのか本当に不思議だ。
「俺は、何をすればいい」
「配下としてってこと? もっとゆっくり落ち着いてから話そうと思っていたのだけれど」
「……今でいい」
なぜかせかすようにそういって、私よりも背の低いヤーグは私を見つめている。
「そう、ならいうわ。貴方は私の妹と同じ年なの。だからね、私の妹の傍で、妹の事守ってほしいの」
そう、私が次男が11歳だとしって喜んだのは、手駒にできればウッカを守るために使えると思ったからだ。
ナザント家がガター家の当主と夫人をつぶしたというのならば、ガター家の兄弟がナザント家に良い感情を持っているとは表面上しか知らない人たちは思わないだろう。
あえて、私に不快感を持っている風にしてもらってウッカの傍にいてもらいたいのだ。私とつながりがあることを悟られずに、そしてウッカの傍にいてほしいのだ。
その言葉にヤーグは驚いた顔をして、だけどうなずいた。




