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 目が覚めた時、真っ先に視界に入ってきたのはギルと、ルサーナの顔だった。

 ギルとルサーナは、私の傍で眠っていた。私が起きるのを待っているうちに眠ってしまったのだろう。今、生きている事実に酷く安堵した。

 死なずに済んだのは、皆のおかげだ。

 ツードン様たちはどうなったのだろうか。

 自分の髪に触れる。短く、切り取られた髪。自慢だった髪をバッサリと切られてしまったことには何とも言い難い気持ちになる。思い出すと、体が震える。

 でも、私は今生きている。

 死んでいない。

 生きているというのならば、やり直せる。

 そう、だから、思い出すと怖いけれど、安心している。

 それにしてもルサーナはどうしてここにいるのだろうか。ウッカの傍ではなく、私の傍に。いや、心配してきてくれていることはわかる。わかるけれども―――。

 そんな風に考えていたら、ルサーナとギルの目が開いた。

 「エリザベス様!」

 真っ先に声を上げたルサーナは、奴隷という立場だというのに私に抱きついてきた。

 「エリザベス様、エリザベス様!!」

 「ルサーナ……」

 ルサーナは、私に抱きついて、そして一心に私の名を呼んでいた。

 「―――ウッカの傍、離れて、大丈夫?」

 「私はウッカ様の傍ではなく、エリザベス様の傍に居たい! ウッカ様ではなく、エリザベス様の事を、貴方の事を、守りたい、のに」

 「……ごめんなさいね、ルサーナ。それでも私は貴方を信用しているからこそ、貴方にウッカの傍にいてほしい」

 涙を流して、ウッカではなく私を守りたいというルサーナ。そんな気持ちが嬉しい。悪い事をしてしまっているとは思っている。

 でも、それでも私は、私の一番最初の奴隷であるルサーナにだからこそ、ウッカの傍で、私の可愛い妹の事を守ってほしいと望むのだ。ほかならぬ、ルサーナにだからこそ――。

 「………エリザベス様、わかりました。エリザベス様の命令だから、守ります。でも、私はエリザベス様が大変な時は、エリザベス様のもとに飛んでいってしまうかもしれません」

 「もう、仕方がない子ね」

 抱きついてくるルサーナの背をぽんぽんとたたいて、安心させるように言葉を紡ぐ。

 そして抱きつかれたまま、私はギルの方を見て驚いた。

 ギルが、泣いていた。ギルが泣いているのを見るのは、そうだ、私がウッカを庇って毒を口にした時以来か。あの時も、ギルは泣いていた。

 「本当に、エリーは、無茶ばっかりして」

 「ギル……」

 「毒を食べたり、こうしてさらわられたり……、本当、無事でよかった。エリーが、生きててくれて、良かった」

 そうして涙を流すギル。

 無事でよかった、生きててくれてよかったってそんな風に告げて。

 いつもギルには迷惑をかけてばかりだ。

 「――ごめんなさい、ギルにもルサーナにも他の皆にも、心配をかけてしまったわね。私もさらわれるつもりなんて決してなかったのよ」

 「さらわれるつもりの、奴なんていないよ」

 「そうね、ギル。でも、私で良かったわ。浚われたのが、ウッカじゃなくてよかった」

 「馬鹿! エリーがさらわれたのに良いわけない! もう少しで殺される所だったんだから! 俺がどれだけ、心配したと思って……っ」

 さらわれたのがウッカじゃなくて、私で良かったってそんな風に口したらギルに怒られてしまった。

 私に抱きついたままのルサーナも、

 「エリザベス様がさらわれて良いわけなんてありませんっ」

 って、そんな風に口していた。

 涙を流す二人。そんな中で、他の奴隷たちも部屋に現れた。お父様も。

 皆無事で良かったって、私の事を心配してくれていた。

 お父様にも思いっきり抱きしめられた。ごめんなさいって何度口にしても足りない。そのくらい心配をかけてしまった。

 貴族の令嬢がさらわれたとなると体裁が悪いということもあって、私がさらわれた事はごく一部しか知らないらしい。まぁ、貴族の令嬢がさらわれたとかだと純潔を疑われたりもするからだろうけれども。

 ツードン公爵家の悪事についても証拠が集まったということで、そちらの方で断罪が決められているらしい。

 「―――お父様、お母様の、敵は取れましたね」

 「………ああ」

 私の言葉にお父様はただそううなづいた。

 敵は取れた。最も私たちナザント家に敵対していたとされるツードン公爵家をどうにかできたのだから、命を狙われる心配も大分減ることだろう。

 でも、そんな敵をとれたとしても、お母様が戻ってくるわけではない。お母様はもう二度と戻ってこない。奪われたものは、奪われたまま。失ったものは、戻ってこない。

 それでも、

 「―――これで、少しは安心して暮らせますわ」

 私と私の家族に対する脅威が、これで取り除かれた事は事実で。

 私は、私の可愛い妹に対する危険が減ったことに安堵した。ウッカはこの一連の出来事を何も知らない。学園にも通っておらず、外にもほとんど出されず、家の中で過ごしていたウッカは知らない。

 ―――でも知らせる気は私にもお父様にもなかった。



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