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 「エリザベス」

 誕生日の日、私はむすっとしたナグナ様にエスコートされて、正式に社交界デビューを果たすことになった。

 美しい髪と同じ赤色のドレスを身にまとって、精一杯に着飾ってきた。十四歳という年は、大人と子供の境目で、この年頃の令嬢たちはかわいらしいドレスを着ているものと大人っぽいものを着ているものとでわかれる。私は見た目的にも可愛らしいものよりも、大人っぽい落ち着いたものが似合うと周りからも言われてきたし、そういうものを着ている。

 それは見た目も十分、貴族にとってステータスであることを知っているからだ。

 ナザント公爵家の娘として、嘗められるわけにはいかない。私は堂々としていなければいけない。私は、エリザベス・ナザントなんだから。

 私とナグナ様は婚約者であるから、こういう場合、ともに居る。幾らナグナ様が私の事を嫌っていて、学園内でもそういう噂は流れているにしろ、私とナグナ様が婚約者である事実は変わらない。

 それこそ、滅多なことがない限り私はナグナ様と結婚をするだろう。

 紛れもない政略結婚だ。親が定めた結婚相手。恋愛のれの字も知らない頃に、決められた相手だ。―――貴族とは、そういう結婚がよくあるものだ。

 お母様が亡くなってはじめての誕生日のパーティーの日に、ナグナ様は私に冷たくなった。ウッカと仲良くやっているらしいナグナ様。嘘をつくことが出来ないような、そういう性格のナグナ様。

 私はナグナ様に何を言われようとも、心のうちを話すつもりは今の所ない。ナグナ様に知られればウッカに知られてしまうのと同じであり、それに結局ナグナ様はサンティーナ様に話は聞いていないようだった。サンティーナ様にも、ナグナ様に話す必要はないと思われているのかもしれない。

 ―――ナグナ様は、ウッカと似ているのだろう。目の前の事にばかり目がいってしまう、単純なところがあるのだろう。

 「お前は何を考えているんだ」

 ナグナ様が、ダンスの最中、私にそう問いかける。

 何を考えいるって、ナザント家の当主として相応しくあれるように、ウッカを守れるように、そう考えているだけだ。

 決してナグナ様が考えているような―――おそらくだけど悪い事だろう、そういうことはしていない。ナグナ様は私が悪事を働いているとでも思ってそうだ。

 誤解されるような態度をとっているから仕方がないとはいえ、そういう所は問題だとは思ってしまう。

 「秘密ですわ」

 私はただ、そういって笑った。

 それにナグナ様が苛立っていたのはわかっていたけれど、私は話さなかった。

 義務のようなダンスを終えるとナグナ様は、友人たちの方へと向かった。私は、そのパーティーに参加している人々と会話を交わした。人脈というものは、将来的に重要になるであろうことはわかっている。

 私は、立派な当主になりたい。

 大好きなナザント領をきちんと治める領主に。

 だから、会話を交わした。さまざまな人と。お父様が隣にいない状態で、こんなに大勢の人と会話を交わすことには緊張したけれど、頑張った。ナザント家が主催のパーティーでもないから、隣に奴隷たちを連れてもいない。外の、すぐ動ける位置にはいるけれども。

 そして、この場にはギルだっていない。

 ギルに会いたい、ギルと話したいとギルの事を考えるとどうしても思ってしまう。ギルと一緒に会話を交わすと酷く安心するから。落ち着いて、ほっとして会話が交わせるから。

 ―――ああ、でもナグナ様と結婚して、ギルだってほかの人と結婚して、そうしたら今のように会うこともできなくなるのかもしれない、それを思うと胸が痛んだ。

 お母様が亡くなって、もう四年近く。

 ようやく、お母様を殺した存在の証拠をつかめた。

 事態は動き出した。それをどうにかできれば、これからナザント公爵家が狙われるといったことも少なくはなるだろう。

 公爵家であるから、敵は居るけれども、今のような危険と隣り合わせの状態は回避されるはずだ。そうなれば、私の可愛い妹も、もっと安心して暮らせるはずなのだ。

 そういう事を考えながらも私は仮面をつけて、笑っていた。社交界の中で、微笑んで、デビューした。

 仮面をつけるのも、この四年で十分上手くはなったとは思う。

 貴族に必要な仮面。貴族は、感情をさらしすぎてはいけない。そういうものなのだ。

 特に私はナザント家を継がなければならないのだから、それを気をつけなければならなかった。

 社交界デビューは、どっと疲れた。

 その帰り、社交界が終わって、ナグナ様と義務的に会話を交わして、そして別れた、そんな一瞬の隙に、私は口をふさがれた。

 「―――っ」

 声にもならない声が述べる。ばたばたと手足を動かすものの、力が強すぎてどうしようもない。警戒していたはずだった。油断何てしていなかったはずだった。

 だけど、この世に絶対なんてなくて。

 私は、そうして意識を失った。



 次に目が覚めた時には、密室の中に手足を縛られて私は存在していた。







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