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盗賊たちの語った境遇は以下の通りであった。
盗賊たちは元々盗賊ではなかった。傭兵として仕事をしており、つい先日まで彼らはとある公爵家―――ツードン公爵家に雇われていたのだという。
ツードン公爵家の戦力として数年間雇われていたのだと。しかし、ツードン公爵家にとって知られてはいけないような部分まで彼らは知ってしまったらしい。そのため、口封じのために殺される所だったのだと。
殺されるわけにはいかないと、彼らは必死に逃げた。そして逃げた結果が盗賊として指名手配されたということだ。
この国でも権力を持つ公爵家に盗賊として認定され、行き場がなく、国外に逃げようにも国境に兵を置かれているという話だ。そういうわけでどこにも行けず、国道を通る馬車から物を奪うことで生計を立てていたのだと。殺さずに様々なものを奪っていたのだと。
それを聞いた私は考えた。
私は確かにナザント公爵家の長女だけれども、勝手に決めていいのかわからないけれども、それでも考えた結果、私の口から出たのは次の言葉だった。
「そう、なら、私の元に来なさい」
私の口は自然とそういう言葉を言い放っていた。
「で、でも」
彼らが何か言おうとした言葉も、
「エリザベス様……」
ウェンたちの何か言いたげな言葉も遮って、私は続けた。
「選びなさい。この場で死ぬか、私に仕えるか」
そう口にしたのは彼らが憐れだと感じたからかもしれない。それにもっと詳しく話を聞く必要がある。私はこの国の貴族なのだ。同じ貴族が何か間違いを犯しているというのならば、どうにかする必要があるのだから。
そんな風に問いかけて、返事を待つ中で、突然襲撃があった。
それは兵士たちだった。狙っていたのは、傭兵たちだ。殺そうとしているのだ。そしてその牙はこちらにまで向いた。
その兵士たちは、正規の兵だというのはわかった。こちらの数よりも多い数でこちらを襲撃してきたのだ。
「誰に向かって剣を向けている」
と声を上げた私兵たちに対して、兵士の者たちは「そのエリザベス・ナザントは偽物だ。偽物でありながらナザント家を名乗るなど! 大体盗賊と話していたものが貴族なはずがない」と告げていた。
……どうやらこの者たちは、邪魔な傭兵もろとも私の事もどうにかする気らしい。私を偽物に仕立て上げ、殺す気なのだろう。ツードン様は私と敵対をしている。学園で私を殺そうとしたのも、ツードン家の者だろうし。私が邪魔なのだろう。
でも、ここで死ぬわけにはいかない。
「傭兵たち! 話はこの者どもをどうにかしてからよ。嘘を教え込まれているようだから、なるべく、出来るだけでいいから殺さずにっていうのは甘いかもしれないけれど、やりなさい。
此処で死ぬのは嫌でしょう? 盗賊にされたまま終わるのも嫌でしょう? なら、やりなさい。私に仕えるなら、私は貴方たちに居場所を作ってあげるから」
傭兵たちに叫ぶ。そして私兵と奴隷たちにも、同じような命令を下した。多分、この襲ってきている連中も私や傭兵たちを殺して戻れば「貴族を殺害した」などと罪で断罪されることだろう。傭兵たちの状況を考えれば、目の前の兵士たちにも同じ事はするだろう。
でも、そんな不当な事、私は嫌だ。
そんなこと、私は許せない。
私に戦う術がないことを、本当に嫌に思う。私も戦えればいいのに。戦えたら、一緒に戦うことが出来たらと、目の前の戦闘を目に焼き付けながら思う。
私が命令して、彼らは人を傷つけている。殺さないようにといったけれども、それでもこれだけの戦闘で死人が出ないわけではない。私が命令したことから目を背けてはいけない。そう思うから、見ていた。怖くなりながらも、お母様の死を思い出しながらも、だけど、目を背けてはいけないと思って。
結果として襲撃者側二人、こちらも二人、死んだ。貴族同士のごたごたで、関係ない人々が死ぬ。なんだかやるせない気持ちになる。悲しい。ごめんなさいって気持ちがわく。
襲撃者たちは自分たちが生かされている意味がわからないようだった。私は言った。
私はエリザベス・ナザント本人だと。色々なものを見せて納得してもらえた。彼らは今にも倒れそうなほどに顔を青くした。
そして盗賊たちのことについても説明した。そこで彼らの口からツードン家から命令されたことも聞いた。
彼らは全員平民である。ツードン家は平民たちの命をどう思っているのかと怒りがわいた。
このままでは家に帰れないという彼らの事も領地に連れて帰ることにした。
大所帯になってしまった。お父様にも驚かれるだろう。でもお父様を含めて、話を聞かなければならない。それに貴族のせいで居場所を失った彼らをそのままにしていくことは、ナザント家の令嬢として出来ない。
そうして私は彼らを連れてナザント公爵領に戻った。




