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 この世界には盗賊と呼ばれる人たちが居る。

 治安が良い地域だと数は少ない。でも完全に根絶することは難しい存在だ。盗賊たちは人々を襲い、そして物を盗んだり、女性だったりすると純潔を奪われてしまう恐れもある。――悪人である。

 ルサーナたちの村を襲ったのもそういう連中である。

 ただし、盗賊が生まれるのには様々な原因があるのだ。現状盗賊に身を費やしているのは、生活が成り立たないからとかそういう人たちだっている。貧しくて暮らしていけないからとか、どうしようもなく絶望したからとか――理由は様々だろう。

 ナザント領は、お父様が盗賊の取り締まりをきちんと指示を行っているのもあって、国内でも比較的平和な地域であるといえる。お父様がきちんとしているからこそ、大好きなナザント領の人々も、あれだけ笑顔で暮らせるのだ、と思うと私はその事を心の底から誇りに思う。そしてそしてあんな風にありたいと思う。将来的に私がナザント領を継いだ時、ナザント領の人々が笑顔で暮らせるように努めたいって、それが私の夢なのだ。

 ――盗賊を根絶しようとしても、完全には居なくならない。それはナザント領でもいえることで、時々そういう存在が現れては、ナザント公爵家の私兵たちによって鎮圧されている。処刑されるものもいれば、事情を聴いたうえで、償いを罰することもあるってお父様とクラウンド先生が言っていた。

 で、何で私がそういうことに思考を巡らせているかといえば、ナザント公爵領に向かう最中に、その盗賊に遭遇したのだ。

 ツィカ領と呼ばれる子爵家の領地でだ。

 怖いという思いはあったけれど、不思議と不安がなかったのは私の手駒であるウェンたちとナザント家の私兵たちがいたからだ。――もしかしたらお母様が亡くなった時のような裏切りが起こるかもしれないという不安は常にあるけれども、それを考えたらキリがないのもわかっている。

 馬車の中から外をのぞく。

 私の傍にはポトフとムナが控えている。

 馬車から外を見れば、ウェンの姿が目に焼き付いた。

 獣のように獰猛に、ただひたすらに剣を振るっている。相手も強いことが見て取れる。

 私兵たちだって少し手こずっているようだ。

 なんだか、目の前の盗賊たちは、盗賊というには統率が取れているように思えた。ううん、とりすぎている。

 その違和感があったから、私は、

 「エリザベス様!?」

 ポトフたちの制止を聞かずに馬車の外に出た。

 ウェンとか、私兵たちもなんで外に出るんですかという目を向けているけれども、それでも私は外に出た。

 「―――あなたたち、何故盗賊なんてやっているの?」

 盗賊たちだって馬車から出てきた私に驚いた視線を向けるなかで、私は問いかけた。

 何故、盗賊をやっているのかと。

 そうすればピタリと盗賊たちの動きが驚いたように止まったのがわかった。

 「貴方たち、統率がとれ過ぎているわ。寄せ集めの盗賊には見えない。どこかの軍隊にでもいたのかしら? と疑問に思うほどの動きのように私には見えるわ。それにウェンや私兵たちが手こずるほどだもの、盗賊をやっているのがもったいないと思える動きを貴方たちはしているわ」

 そう、本当にそう思う。何故盗賊をやっているのか疑問なほどの動きをしている。盗賊なんかしなくても、兵士として十分雇ってもらえるだろうってそう思えるほどの動きを。

 「……そうはいっても、俺らは盗賊以外どうしようもねぇんだよ!」

 私の言葉に、一瞬固まったかと思えば盗賊の中の一人が叫んだ。茶色のとんがり頭の男は、見るからにこの盗賊のリーダーだろうか。

 その叫ばれた言葉が引っかかる。どうしようもないとはどういうことだろうか。

 「どうしようもないってどうしてかしら?」

 私はそう答えながらも、私の言葉に反応してくれることに安堵を覚えた。これで盗賊たちが「何をいってんだ」とこちらを捕まえにかかったり、殺しにかかったりと話を聞かずに特攻してくる可能性も少なからずあったからだ。

 会話が通じていることに、やっぱり彼らは盗賊を何故やっているのかわからなくなる。こんな小娘の言葉に、耳を傾けるほどの理性はあるのだろう。ただ暴力に快楽を覚えているとか、奪う事に愉悦を感じているとかそういう理由で盗賊であるのではないのだろう。

 「公爵家に目をつけられてんだ。嬢ちゃん、だからどうしようもねぇんだよ!」

 「公爵? 何処のかしら? そしてそんな言い方をするってことは何か事情があるのかしら? ―――何か事情があるっていうなら、私の方でどうにかしてあげられるかもしれないわ」

 「あぁ?」

 私の言葉に、何をいっているんだとこちらをにらむリーダーの男。私はその男に向かって笑みを浮かべたまま告げた。

 「私はエリザベス・ナザント。この国の筆頭公爵家であるナザント公爵家の長女よ。貴方たちに目をつけて、貴方たちが盗賊になるしかない状況を作ったのがどちらの公爵様かは知らないけれど、どうにかできるかもしれないわ」

 にっこりと笑って自己紹介をすれば、彼らは固まった。そんな彼らに私は告げる。

 「その代り、なんとかできた場合は私の手足になってもらうわ。恩は返してもらうものですもの」

 そういって告げれば、盗賊たちは自分たちの境遇を語り始めるのであった。






 

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