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 「……駄目ね、私は」

 思わず離れの部屋で呟き、ため息を吐く。

 自身の体調管理もきちんと出来ないなんて、こんな調子では私の目的は達成されない。それでは駄目だ。私は、ナザント公爵家を何れ継ぐ。それなのに体調管理もままならない。私は、まだまだだ。

 そんな自己嫌悪に陥ってしまう。

 「エリー」

 色々考えている中で、ギルがやってきた。ベッドの上に腰掛けている私を見てギルは今まで浮かべた事もないような怖い顔をしていた。

 「え、っとギル、どうしたの?」

 ギルが怒ってる。私に向かって怖い顔をしている。その事がどうしようもなく衝撃だった。

 怖い、と思った。

 怒っているギルが怖いのではない。ギルに嫌われたのかもしれないとそれが怖かった。恐ろしかった。

 だってギルは――。そこまで考えてあれ? と思った。ギルに嫌われるのがどうしてこんなに嫌なのか正直わからなかった。でも嫌なのだ。ギルに嫌われる事が。どうしようもなく嫌で、だからこそいつものように平然を装えなかった。

 「……エリー、俺が何で怒っているか、わかる?」

 「ううん、わからない……」

 そういって俯いた私を見て、ギルがくすりと笑ったのがわかった。

 「エリーが、無茶をするからだよ」

 怒っているんじゃなかったのかと顔をあげた私にギルはそういった。

 「でも、私は、ナザント公爵家を継がなきゃいかないの」

 「だからって難しい顔して、頑張りすぎ。気を貼りすぎなんだよ、エリーは。ミラさんが死んでから、エリーは本当俺が心配になるぐらい頑張って気を貼ってる。守らなきゃ、私がしなきゃってそればっかりいってる」

 ギルはそんな事を言う。

 「……だってそうだもの。私がやらなきゃいけないのよ。私がしっかりなきゃ。ウッカの――」

 「それ」

 「え」

 「それが駄目だと思うんだよ。エリー。ウッカのため、ウッカのためって。そればっかり。ミラさんが亡くなった時に何があったか俺は知らない。想像は出来るけどさ。今のエリー見てたら」

 ギルの前では泣いていたけれど、お母様が殺された事は言っていない。だってそれは人にあまり言ってはいけない事だったから。だけれどもギルも貴族の子供だから、勘づいてはいるみたい。

 でもウッカのためにって思うのがどうしてわるいのかしら。私にはそれがわからない。

 「もっと自分の事に目を向けて、エリー。ウッカの事を守りたいって一生懸命なのはわかるよ。わかるけれど――…、もっと余裕をもって。エリー。焦りすぎだよ」

 「私は焦ってなんて――」

 「焦ってるだろ? 焦っているからこそ即急に力をつけようって色々やってるんだろ? そして焦って無茶ばかりしたからこそ体調を崩したんだ。――なぁ、エリー、焦らなくても大丈夫だよ」

 ギルはそういって同じ年なのに、幼い子供に言い聞かせるように優しい声色で私の頭を撫でた。

 子供扱いしないで、そう声をあげるつもりで口を開いたのに言葉は出なかった。悲しいはずではないのに。苦しいはずでもないのに。私は大丈夫なのに。

 なのに、溢れてきたのは嗚咽と涙で。

 何で私は泣いてるんだろうってわからなかった。そんな私をギルは優しいまなざしで見ている。私が大好きなとても安心する、優しい表情で。

 「大丈夫だよ、エリー。そんなに無理してまで強くなろうとしなくても、ウッカは消えたりなんかしない」

 「でも、お母様は――っ」

 お母様は、いなくなっちゃった。本当に突然、死んじゃった。

 もう二度とお母様が目を開かなくなった。お母様の優しい声を聞けなくなった。お母様の、優しい安心させるような笑みをみれなくなった。

 お母様が死んだのは――、私が弱かったから。私が無理に連れ出してしまったから。私のせいであんなに綺麗で、優しくて、暖かいお母様が、殺されちゃったんだ。

 そうだ。お母様は死んだ。ウッカだって、私の可愛いウッカだって死んでしまうかもしれない――。あんなに可愛い私の天使が死ぬなんて駄目だ。ウッカは、可愛いウッカは幸せにならなきゃ駄目なんだ。ウッカは、私の妹を殺させないためにも私はもっと、もっと強くならなきゃ。ウッカを守らなきゃ。可愛いウッカが死なないように。

 「ウッカは、ウッカは私が、守らなきゃ」

 思いのままに、口からこぼれたのはそんな言葉だった。

 「エリー、それはわかるよ。わかるけれど、エリー、一人で何でもしようとしたら駄目だって。そうやって無理してたらエリーが先に駄目になるよ。エリーが駄目になったらどうするの? 誰がウッカを守るの?」

 「それは――」

 「大丈夫だから。ウッカは消えないから。ウッカを守るためにも、エリーはもっと気楽にならなきゃ駄目だよ。無理して、気を張って、それで体調を崩すエリーなんて俺は見たくない」

 「でも――」

 「でもじゃなくて、エリー。これからしばらくエリーは休息を取るんだ」

 「いや、私は――」

 ギルのいうことも最もだとは思う。思うけれども、私は、私はもっと――守るために頑張らなければならない。休んでる暇なんてない。

 それを思って立ち上がろうとしたら無理やり寝かせられた。

 「ちょ、何を――」

 「いいから、エリー、休んで」

 それから本調子になるまで本当に勉強とかこれからのためになることはさせてもらえなかった。でも久しぶりにゆっくりできて、ギルと思いっきり何も考えずに遊べて気分がすっきりしたのも確かだった。

 そしてようやくギルからお許しが出て(何で私が色々やるのにギルの許しがいるか不明だけど)、行動を開始するのであった。



 ――それからしばらく経って、ルサーノに「自分の知り合いも奴隷になっているからエリザベス様に買っていただけないでしょうか」とそんなことを言われ、獣人の奴隷探しが始まるのだった。



 ちなみに可愛い天使ウッカには私は「物珍しい獣人を奴隷にしていじめてる姉」と認識されていたりする。私が丁度ルサーノを躾ける時にいたりしたからも一つの原因だけど。まぁ、誤解されたままの方がやりやすい一面もあるから現状は放置。



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