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ポトス目線
――エリザベス様が、ルサーナちゃんを妹の所にやった。
それを知った時、どうしようもない衝撃に襲われた。ルサーナちゃんは、僕と同じ村に住んでいた同じ年の女の子だった。僕はルサーナちゃんの事、昔から大好きだった。
ずっと笑っていてほしいなと思っていたルサーナちゃん。ルサーナちゃんの明るい笑みが好きだった。でも、僕らの住んでいた犬の獣人の村は突如、襲われ、僕らはなすすべもなく、捕まった。
目の前でつい少し前まで生きていた人が、会話を交わしていた人が死ぬのを見た。
優しいお姉さんたちが犯されるのを目の前で見た。
頭が狂うかと思った。でも、それでも僕は正気を保っていて、なすすべもなく、僕は売られた。
皆バラバラになった。優しい村だったのに。僕の大好きな故郷だったのに。
どうして、と嘆いて仕方がなかった。でも僕が売られた先はまだよい場所だった。僕は肉体労働をさせられはしたけれど、殴られたりすることもなく、過ごしていた。ルサーナちゃんにも、ほかの村の人々にももう二度と会えないって思ってた。
でも、エリザベス様が現れた。
美しい赤髪を持つ少女は、一目で貴族だとわかった。僕の持ち主に、「この方がお前に会いたがっている」なんて言われた時、正直な感想を言えば驚いて言葉が出なかった。だって、貴族様が奴隷の僕に何の用がなるのかさっぱりわからなかったのだ。
そしてエリザベス様が告げた言葉に、僕は驚いたものだ。
「貴方はルサーナを知っている?」ともう二度と会えないと思っていたルサーナちゃんの事を口にしたのだから。そして僕はルサーナちゃんがエリザベス様のもとに居る事を知った。
「ルサーナへのご褒美として貴方を私の奴隷にしたいの」なんていったエリザベス様が怖かったけれど、でもルサーナちゃんに会いたくて僕はそれに頷いた。
ルサーナちゃんにはしらばく会わせてもらえなかった。でも「貴方は私の手足になるの」ってエリザベス様に様々な事を学ばされた。
奴隷として存在していた僕だけどその扱いは決して悪いものではなかった。ちゃんと食事は食べさせてもらえたし、奴隷だからと暴力を振るわれることもない。
それでいて奴隷だったら学べないようなものを学ばせてくれた。
そしてルサーナちゃんに会える日、サリーちゃんもいた事に驚いた。あとは全然知らない同じ獣人の男の子も。
なんでもエリザベス様がルサーナの望みをかなえようと犬の獣人を集めた結果らしい。ウェン君はそれはもうエリザベス様に忠誠を誓っていた。エリザベス様への感謝をせずにはいられないとそんな風にもいっていた。何があったかわからないけれどエリザベス様に救われたらしい。
そしてルサーナちゃんは、僕とサリーちゃんに会えたことが嬉しいと泣いていた。
エリザベス様にとても感謝をしていた。エリザベス様の事をルサーナちゃんは大好きだった。サリーちゃんはエリザベス様に色々と思うことがあったみたいだけど、そのあと、エリザベス様のために動くようになった。
エリザベス様は今年学園に入った。僕を含むエリザベス様の奴隷たちは、エリザベス様のためにって色々頑張っていた。僕は学園にはついていっていなかったけれど、別邸で勉強をしていた。
そして学園での話とかをルサーナちゃんたちに聞いていた。
エリザベス様はある貴族に目の敵にされていて、色々と大変らしい。それに加えて先日殺されかけたと聞いた時には流石に血の気が引いた。
ルサーナちゃんはそのことで、もっとエリザベス様を守りたいって頑張っていた。
だけど、今回自分が殺されかけたことで、エリザベス様はルサーナちゃんを妹の元へとやった。
僕はウッカ様のことを詳しくは知らない。エリザベス様があえて嫌われようとしている、だけど溺愛している妹だってことぐらいしか知らない。
ウッカ様を大切に思うからこそ、一番初めに自身の奴隷としたルサーナちゃんを差し出した。あえて、嫌われる演出をしてまで。
ルサーナちゃんはエリザベス様が大好きで、エリザベス様のために必死で、エリザベス様のために強くなった。
だけどその力をエリザベス様のためではなく、ウッカ様のために使えと命じられたのだ。ルサーナちゃんはどんな思いだったのだろうか。
しかも、ウッカ様に感づかれないように、連絡も最低限にということで、ルサーナちゃんはエリザベス様と会話をすることもこれからあまりできなくなることだろう。
それはルサーナちゃんにとって、「エリザベス様のもとにいたいのに」って嫌だったことだと思う。でもそれでも、エリザベス様が望むからとルサーナちゃんはウッカ様の元へと向かった。
ウェン君とか、僕たちに「エリザベス様を私の代わりに守ってください。絶対にあの方を守ってください」ってそんな風にいって、ウッカ様の元へと。
ルサーナちゃんは『エリザベス様に捨てられた可愛そうな奴隷』、そしてウッカ様は『そんなルサーナちゃんを横暴な姉から引き取ることにした優しい令嬢』とそんな風にして、わざわざ差し出した。
ルサーナちゃんからは奴隷の首輪は外された。それでもルサーナちゃんは、エリザベス様の駒である。それは、エリザベス様がそういう風に教育したからだけれども、それでもそれを理解したうえでルサーナちゃんは「エリザベス様のためになりたい」って言っていた。
エリザベス様がいたから今の僕らがある。
エリザベス様がいたからこそ僕らは笑っていられる。
それを理解しているからこそ、僕らはエリザベス様のために動こうと思うのだ。
これからルサーナちゃんの代わりに僕が学園へとついていく。
エリザベス様が危険な目に合わないように守って見せると、そう決意するのであった。




