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 私が命を狙われるのは、ナザント公爵家の娘であるからだ。

 それでいて学園は危険な場所だと、そのことが一学期間だけ学園に通っただけでもなんとなく理解できた。まぁ、今、ナザント公爵家が狙われている時期だからこそそう思うのかもしれないけれども、結局のところ大貴族の令嬢なんて、狙われるものである。

 ―――夏休み、実家でのんびりと過ごしながらも(とはいってもやることはやっているが)考えていた。

 可愛い妹のことを。

 三年後、あんなに無邪気で危なっかしい、可愛い妹が学園へと入学するのだ。

 三年後の事なのに、それを思うだけでも不安でたまらなかった。私は別にいい。私は危険な目に合うのを覚悟の上で、奴隷を育てたりして準備をしている。私を守る手足となる存在を作っている。

 でもウッカはそういう準備なんてしていない。そりゃあ、お父様が護衛はつけるだろうけれども、それでもその護衛が裏切らないとは限らない。第一、お母様が殺された時も護衛が裏切ったのだ。護衛だからといって無条件で信頼が出来るはずもない。

 とはいっても、奴隷や孤児院の子たちだって裏切る可能性はあるけれども――……、それでも自分で育てた子たちだからまだ信じられる。

 それを思うと、不安になった。

 ウッカが、可愛い妹が危険な目に合うかもしれない可能性を思うと。

 そしてふと思いついたことがあった。

 私はその事をルサーナに告げた。なぜならそれはルサーナにかかわりがあることであったのだから。

 「―――ねぇ、ルサーナ。私の可愛い妹の隣にいてくれない?」

 私の言葉にルサーナはそれはもう驚いた顔を見せた。

 私はウッカが危険な目に合うのが何よりも嫌だった。ルサーナの事は、馬鹿だって言われるかもしれないけれど信用している。奴隷だけれども、私がはじめて買った奴隷。私がはじめて教育をした奴隷――。最近学園生活が忙しくて、ルサーナの故郷の人たちをあれからあまり集められていないけれども、一生懸命頑張ってくれているルサーナのために、もっと探してあげたい。もちろん、それは善意だけからの思いなんかでは決してなくて、駒を集めるためっていう意味もあるのだけれども。

 「……私が、エリザベス様の妹様のところへ?」

 「ええ。そうよ。その場合は、そうね……、ウッカの目の前で壮大に喧嘩でもして、そうして私が貴方を捨てるとでもいう発言でもすれば、ウッカは飛び出してくると思うの。奴隷の首輪も外されるわね」

 私がそういえば、ルサーナは不満そうな顔をした。

 「ウッカ、何か気に食わない?」

 「……私は、エリザベス様の事好きです。私たちが心配になるぐらいずっと頑張り続けているエリザベス様の力になりたいって、そう思って私は頑張っていたんです。だから私は出来れば、妹様ではなくエリザベス様の傍に居たいです」

 ルサーナははっきりとそう告げた。その言葉が心から嬉しかった。心があたたくなった。

 「ねぇ、ルサーナ。貴方は私のはじめての手駒よ。他の子たちよりも長く、ずっと私を助けてくれた。だからこそ、貴方に、私の可愛いウッカを守ってほしいと思うの」

 そう、告げて、私は続ける。

 「ルサーナ、私は昔、ルサーナを買う少し前にね、とっても大切な人を目の前で殺されたの。……襲撃は私を狙ったものだったのに、私を庇って、目の前で死んだの。その人を殺したのは、護衛として雇われた男だった。金銭に目がくらんだってそんな理由で、殺されたの。

 ―――私ね、ルサーナ。だからこそ、貴方にウッカの隣にいてほしいって思うの。貴方は私が命じれば、ウッカを殺したりなんてしないでしょう? 貴方は私が命じれば、ウッカを守ってくれるでしょう?」

 訴えかけるように言った言葉。こんなこと、ルサーナに言うのははじめてだった。

 私の事を、ルサーナはじっと見ている。そしてただ黙って話を聞いていた。

 「もう二度と失いたくないの。行動さえすれば守れたかもしれない大切なものがあるの。最善を尽くせば、少なくとも私の大事な妹が殺されることはない。

 私はあの子が大切なの。とっても大事なの。可愛くて、可愛くて仕方がないの。ナザント公爵家に害をなす存在は断罪もされずにのうのうと生きているの。私が狙われたのもそれね。今はとても危険なの。

 ルサーナ、だからね、命令よ。私のウッカを守って。でもウッカを庇って死ぬなんて許さないわ。私は手駒が死ぬの嫌なの。だから、死なないようにしなさい」

 自分勝手な意見だろう。ウッカを守って、でも死ぬことは許さないとそんなことを言うのだから。でも、それでもそれが私の望みで、例えウッカが無事だったとしてもルサーナが死ぬとかだと嫌なんだ。

 「………わかりました。その命令承ります」

 ルサーナは、少し無言になって、だけど確かにそういった。

 そして、次にまた声をあげる。

 「エリザベス様、奴隷の首輪、なくなるのですよね?」

 「おそらく、ね」

 「名義上はエリザベス様の奴隷ではなくなるということですよね?」

 「ええ、そうね」

 なぜそんな確認をするのかよくわからなかったけれど、ルサーナの言葉に私は返事を返した。

 「なら、エリザベス様。私に誓いを立てることを許可してください」

 「誓い……?」

 「はい。名義上、私がエリザベス様の奴隷ではなくなったとしても、私の忠誠はエリザベス様のもとにあると、私が未来永劫、この命尽きるまでエリザベス様を裏切ることなく、エリザベス様のために動くということを」

 「そう……、許可するわ」

 私は笑った。私の飴と鞭の使い方はちゃんとできていたのだろう。ルサーナが、きちんとした手駒として育ってくれたことが嬉しかった。私の味方でいるといってくれたことが嬉しかった。

 私が笑えば、ルサーナも笑った。

 そしてルサーナは、どこかに出てくる騎士のように跪いて、そのことを誓った。





 ――そしてその翌日、ルサーナはウッカの侍女になった。








 

 

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