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 「エリーお帰り」

 久しぶりに会ったお父様は、そういって私を抱きしめてよかった。無事でよかったとでもいう風に私を抱きしめるお父様に、安心した。そして、安心して、涙が零れた。

 無意識のうちにきっと私は無理をしていた。お父様に抱きしめられて、どうしようもなく安堵して、嗚咽が漏れた。そんな私の事をお父様はずっと抱きしめて、私を安心させてくれた。

 お父様の書斎の中で、私とお父様は二人で沢山のお話をした。

 学園内で私がどういった生活をしているのか、それをお父様に語る。

 入学してからの出来事。サンティーナ様たちと時々話すこと。ナグナ様がこちらを睨みつけてくること。ルサーナたちが精一杯に私のことを守ってくれること。ツードン様が私を敵視していること。命を狙われたこと。勉強が楽しいこと。主席をとれたこと―――それを話した。

 お父様は私の話を相槌を打ちながら聞いていた。

 「―――そういうことがありましたの。中々濃い学園生活ですわ」

 「ツードン公爵家の娘に敵視されているか……」

 「はい。そうなのですわ。私の評判を悪くする工作も少なからずしている方もいるようですし、今の所問題はありませんけど、はじめの一学期からこの調子だと少し不安になりましたわ」

 今の所問題はない。試験で主席も取れたことだし、上手くはできていると思う。けれどもたった一学期だけ学園に通っただけでここまで疲れるとは思っても居なかった。

 慣れない生活というものは、なれるまで時間がかかるものだ。もう少し学園生活というものに慣れたら少しは疲れがたまらなくなるだろうか、などと考える。

 「エリー、頑張るのは良いことだけど無理はしないでくれ。少しでも危険だと思ったら逃げるように。深入りすると取り返しのつかないことになることもあるから」

 「……そう、ですわね」

 「私はね、エリー。エリーが危険な目に合うのは嫌なんだよ。エリーまで失ってしまうかと思うと私は悲しいんだ」

 「……お父様。大丈夫ですわ。私は死にません。死ぬわけにはいきませんもの。私にはやりたいことが沢山あります。だから、死なない程度に頑張りますわ」

 お父様の言葉に、私はそう答えた。

 お父様も、お母様の死を引きずっている。それは当たり前だろう。お父様はお母様を愛していた。二人は私にとって理想の夫婦だった。お父様にとってお母様は長年寄り添い合った最愛であったのだ。

 その最愛が突然殺され、その犯人を未だに捕まえることが出来ていないのだ。お父様だってもう二度と失いたくないと望んでいるのだ。

 私とお父様は一緒だ。

 家族を失って、もう二度と失わせたくないと思っている。家族が殺されるなんて―――、もう二度と起こってほしくない。

 そう、願っている。望んでいる。

 だからこそ、私もお父様も動いている。

 「エリー、殺害の黒幕の候補はいくつかいる。その中でも最も黒幕だと疑われているのが、ツードン公爵家だ。加えて黒い噂がある」

 「……やっぱりそうなのですか」

 結局のところ、黒幕だと思われる家の子供が学園にいるという話は聞いていても、その黒幕の貴族についてきちんと聞いてはいなかった。薄々そうなのではないかなとは思っていた。

 ツードン様は証拠を残さずに色々と工作をしているようで、証拠を残さずに事をなすというそういう点がお母様の殺害の黒幕とかぶっていたのだから。

 最もツードン公爵家が最もな黒幕候補というだけで、明確な証拠は未だに見つかっていない。それほど巧妙に隠されているのだ。

 「だからね、エリー。気をつけなさい」

 「はい、警戒を怠らぬようにしますわ」

 常に警戒し、隙を見せないようにしなければ私はまた殺されそうになるかもしれない。お母様は私を庇って死んだ。私を狙っていたのに、お母様はそれを庇った。そして私のかわりに死んだ。

 だからこの前命を狙われた時、ウェンが私を庇って怪我をしたとき、どうしようもないほど動揺してしまった。―――守られて、そして誰かが死ぬのなんてもう嫌だ。一回だけで十分だ。そんな、嫌な経験なんて。

 胸が痛い。

 私は戦うことに関する才能なんてない。自分の身を守る術はほとんどない。危険を回避するために行動することは出来るかもしれないけれど誰かに命を狙われるなんてことがあった時、私なんてすぐに殺されてしまう。例えば剣を向けられれば、あがくことは出来るかもしれないけれども、剣で対抗するなんて私には出来ない。

 私が刺客と一対一で向き合うなんて事がないようにしなければならない。

 そして私を守って誰かが死ぬなんてこともないようにしたい。なんて、そこまで思うのは我儘かもしれない。現実はそこまで甘くなんて決してなくて、例えそういう理想を掲げたとしても、理想は理想のままで終わり、現実としてはどうしようもないってこともあるかもしれない。

 だけど、それでも私は―――、

 「お父様、私は誰かが死ぬの嫌です。家族が死ぬのも、友人が死ぬのも、そして奴隷であろうとも私の奴隷が死ぬのも嫌です。私は自分の手駒とするために奴隷や孤児院の子たちを教育しています。でも、そういう手駒が危険な目に合うのも嫌だなって思ってしまうんですわ」

 嫌なのだ。どうしても誰かが死ぬとか、近くにいる存在が危険な目に合うとか。そんなのやっぱり嫌なのだ。

 「だから、私、その理想のために無理かもしれないけれど頑張ります」

 そう告げた私の頭をお父様は「仕方がないなぁ、エリーは」などと言いながらなでてくれた。





 

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