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私が命を狙われてから、ルサーナもウェンも、ムナも今まで以上に私に張り付き、周りを警戒するようになった。ルサーナとウェンは奴隷であり、ムナは『魔女』の一族を人質にとった関係だけれども、そうだとしても私の事を守ってくれようとしている。その事実が嬉しかった。私の事を大切に思ってくれているかはわからないけれども、守ろうとしているということは私に対して敵対する気が今のところないということなのだから。
私の教育はうまくできていたということなのだろうと思うと、どこか安心することができた。
命を狙われたことは、お父様にも報告をした。私が命を狙われるほどに、ナザント公爵家は狙われている、とそれをお父様に報告するために。
お父様は仕事もあるし、王都まで駆けつけるなんてことはなかったけれど手紙には私に対する心配が綴られていた。それだけでどうしようもなく心が温かくなった。
お父様の手紙にはウッカの事も書かれていた。私がウッカの事を可愛がっている本心をしっているお父様はそうしてウッカがどのように過ごしているか私に教えてくれる。
ああ、ウッカの事を思うだけで、会いたくてたまらない。学園に入学する前は姿を見ることができたのに、今はその当たり前ができない。そのことが少し苦しい。
でも、私は決めたのだ。
危険だから、可愛がらないようにしようと。私の大切な存在がウッカだと周りに悟られないようにしようと。そうしたほうが、ウッカが危険から回避されるのだから。
私が命を狙われたことは大々的に発表されたりはしなかった。ただ教師たちや関係者が知っているだけの話だ。
そう、私が命を狙われようとも、時間というものがゆっくりと過ぎていく。
幸いにもその後は私が命を狙われることはなかった。警戒したのが馬鹿らしくなるぐらい、平穏な日々が続いた。それが悪いことが起きる前触れなのではないかと不安だったけれど、何も起こることはなかった。
そうして一学期は終わった。
定期試験はクラウンド先生の教えもあって、解答欄をすべて埋められるほどだった。
はじめての試験で不安はあったのだけれども、きちんと解くことができて安心できた。私はナザント公爵家の長女として恥ずかしくない成績をとることができた。
私は主席だった。
次席はギルだった。
ギルは私が勉強ばかりしているのを見て「俺も頑張る」って勉強していたから、それで私とギルが好成績を残せたのだろう。
二人で互いに良い成績をとれたことで喜び合った。喜びを共有できる人が傍にいてくれることは嬉しかった。それにギルは私がどんなことをしているか正しく理解してくれていて、理解してくれているギルが「頑張ったね、エリー」って言ってくれて、嬉しくて泣きそうになった。
結局一学期を終えて、学園生活の最初の学期を振り返ってみると、取り巻きのような生徒たちは私の周りにはたくさんいるけれども、対等に会話を交わせるような友人というものはできなかった。
それが、悲しいと思った。
けれども、ナザント公爵家の令嬢としてはうまくやれたと思う。ツードン様は私の事を気に食わないって態度で突っかかってはくるけれども、それ以外は特に問題はない。
長期の休暇がある。
そのため、私はナザント領に帰ることになった。
もちろん、ルサーナたちも連れてだ。結局はじめての学園生活が忙しくて入学してから夏休みの長期休暇まで一度もナザント公爵領に帰ることはしなかった。
だから馬車の中で帰れることに安堵して、嬉しかった。
そこで、私が学園生活の中で肩を張って無理して生きていたのだとはじめて気づいた。
私はそんなつもりなかったけれども、無意識に周りを警戒したりする生活に疲れていたのかもしれない。
「エリザベス様、嬉しそうですね」
「嬉しいわ。久しぶりに実家に帰れるのだもの」
ルサーナの言葉に、私はそう答えた。
お父様に会える、ウッカに会える。それを思うだけで心が躍った。家族が私は大好きだ。ナザント公爵領の皆も大好きだ。
夏休み中には時間を見つけて町へも顔を出せるだろうか? 出せたらいいなと思う。
お父様とも沢山話したいことがある。
学園生活で命を狙われたことも、学園生活で色々と大変なことも――そういうことはお父様になら偽りなく話せる。
貴族である私は簡単に人に弱味を見せてはならない。あまりにも迂闊だとそこに付け込まれて大変なことになる可能性も高い。
それも考えて、慎重に行動しているつもりだ。最も私が慎重にしているつもりでも、どこかで隙が生まれるかもしれないのだから恐ろしい話だ。
馬車に揺られながら、もうすぐ久しぶりに家族に会えることに安堵して、眠気が襲ってきた。
うつらうつらとしてしまう。
「エリザベス様、眠いのなら寝てて大丈夫ですよ」
「俺たちがエリザベス様を守りますから」
「ついたら起こしますね」
そんな優しい声を聞きながら私はいつの間にか、意識を失っていたのであった。
そして次にルサーナたちに起こされた時、既にもうナザント領の私の実家に到着しているのであった。




