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※これからの展開で若干時期などの設定が短編と違います。ご了承下さい。
休みの日に王妃殿下に呼ばれて、私は王宮へと顔を出した。サンティーナ様の自室に顔を出せば、そこにはサンティーナ様とイリヤ様とヒロサ様がいた。
私がそこに足を踏み入れてすぐに、サンティーナ様に謝罪をされた。
「ごめんなさいね、ナグナったら呼んだのに来ないと言い張っているのよ」
困ったような表情を浮かべてそういった。どうやらこの場にナグナ様も呼んでいたが、来ないといって飛び出していったらしい。イリヤ様とヒロサ様がなぜここにいるかといえば、久しぶりに私と話がしたいということだった。
お母様が亡くなってから公式な場で数度お会いしたことはあったが、こうして私的な場でお二人の王子殿下とお会いするのは久しぶりのことであった。
「お久しぶりです。イリヤ様、ヒロサ様」
「久しぶり、エリザベス」
「久しぶりだな、エリザベス、ナグナがすまないな」
私の言葉に二人は笑いかけてくださった。正直不安はあった。お母様が亡くなって、それで色々あってナグナ様は私を嫌うようになった。イリヤ様とヒロサ様とは以前親しくしていたが、今はもうお二人が笑みなんて私には向けてくださらないのかという不安もあったのだから。
だから、嬉しかった。
素直に変わらないものがある事実に、どうしようもないほどに安心した。イリヤ様とヒロサ様は、私にとって兄のような方たちだ。
「いえ、ナグナ様が私を嫌っているのは私が至らないせいだと思いますので」
事実、心からそう思っていたので私はそう口にする。
「いや、ナグナは別にエリザベスを嫌っているわけではないと思うが」
「いえ、嫌われておりますわ。でも別にかまいませんわ」
私がそう言い切れば、イリヤ様とヒロサ様は何とも言えない表情を浮かべてこちらを見た。
「ナグナに嫌われていてもいいのか?」
「まぁ、構いませんわ。ヒロサ様。私はもっと他にすべき事が沢山ありますの。やりたいことが一杯あって、それらを成し遂げることの方が今の私には重要なのです。もう少し余裕を持てたらと思うのですが、恥ずかしながら私が至らないため、どうもそれは難しいのですけれども」
本当はもっと余裕をもって行動をしたい。もっと余裕があって、行動できるのならばナグナ様の事にも手が回るというのに、今の私はナグナ様以上に優先してやりたいことが多すぎるのだ。
「エリザベスは、ナグナの事が好きではないのね」
「恋愛感情で、で言えばそうですわね。サンティーナ様。人としてならば嫌いなわけではございません」
ばっさりとエリザベスは取り繕う事もなくそう言い放った。それは王妃殿下たちに偽りを述べても仕方がないと思っていたからだ。それは紛れもない本心であった。
恋愛感情というものは、よくわからない。
ナグナ様の事が嫌いなわけでは決してない。ただ単に、私はナディア様の相手をする余裕がない。私はもっと、もっと力がほしい。
強くなりたい。強くありたい。
そんな願望を持ち合わせながら、必死に前に進みたいって目の前にあることに必死になっている。
「そう……。ナグナにはエリザベスの事いってはいるのだけど、あの子聞かないのよ」
溜息混じりにサンティーナ様はそう告げた。
ナグナ様が私に突っかかってくることに対して、サンティーナ様はフォローをしてくれたらしい。でもその話をよく聞かないと。
「ウッカの言っている事を真に受けているようだが、エリザベスが何をしているかなど調べればすぐわかる話なのですが」
「そうですわね、私も流石に王宮にいらっしゃる諜報員の方々を欺くことはできませんし、私が何をやっているかなど調べればすぐにわかりますわ」
イリヤ様の言葉に私は頷く。
確かに私はウッカに悪くみられるようにあえて行動している。可愛いウッカが私に近づくことがないように。だからウッカが私の事を悪い風に言うのは当たり前の事だ。
ただ、ウッカだって調べようと思えば私が何をしているかは調べられるだろう。
それはナグナ様にはなおさら言えることだ。ナグナ様はこの国の第三王子であり、権力を使って私が何をどうしているか調べようと思えばすぐにわかる話だ。
王族であるナグナ様には使おうと思えば使える人材が周りに沢山いるのだから。
「人を信じるのはあいつの良い所だが、目に映るもの、聞こえてくるものしか信じずに盲目的なのはどうかとは思うが……」
「そうですわね。でも、私はウッカに自分がどういう思いで動いているか悟られたくありませんわ。ナグナ様は、知ってしまったらウッカに隠し通すなんてできないでしょう。あの方は良くも悪くもわかりやすい方ですから」
第三王子として生きているからもあるだろうが、ナグナ様はわかりやすい所がある。多分、知ったらナグナ様はウッカに隠し事なんて出来ない。
「そのことですが、エリザベス。ウッカに対してそこまでしなくても大丈夫なのではないの?」
「いいえ、私はやりすぎだといわれても、ウッカに対しての距離はこのままにしておきます」
やりすぎだといわれても私は怖い。私は恐ろしい。
ウッカがもし害されてしまったらと本当にそれだけが怖くてたまらないから。
私の言葉に、サンティーナ様はそれ以上何も言わなかった。
話が終わり、別邸へと帰宅して私はサンティーナ様たちとの会話を思う。
恋愛感情ってなんだろうと、ふとした疑問。お母様とお父様は仲が良かった。二人で支えあって生きていた。愛し合っていたことが見て取れた。
私は二人の事を見るのが好きだった。両親が幸せそうに笑っているのを見て、とても幸せだった。貴族の中では政略結婚も多いけれど、両親はそうではなかった。
お父様とお母様は恋愛結婚だった。互いに愛人なんてものもいなくて、穏やかな夫婦だった。
恋愛感情を、私は知らない。
誰かを好きになるという、そういう恋情を、私はわからない。
ずっと一緒に居たいという、そんな思いだろうか。それとも誰にも渡したくないという重い気持ちだろうか。ただ傍に居たいと、幸せになってほしいと願う思いだろうか。穏やかに、好きだなって感じるような優しい感情だろうか。
ただ、ぼーっとしながら私はそれを考えていた。
いつもと違う私の様子に、ルサーナたちに心配をかけてしまった。




