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 「あら、通行の邪魔ですわよ? どけてくださらないかしら?」

 ジルトラール学園に入学して、それなりに順調に学園生活を送っていた。けれど、問題は浮上した。私と同じ公爵家の娘―――ギネアラ・ツードンが私の事を異常に敵視していた。家同士が仲が悪いのもあるだろう。彼女の父親は国王陛下にも覚えが良いお父様の事をよく思っていないらしいのは聞いている。

 それでもここまで嫌われてしまうのは、何とも言えない気持ちになる。ほとんどあったこともなかった同じ年の令嬢にここまで嫌われてしまう―――それは、私がナザント家の、公爵家の位を持つ家の娘だからだ。貴族社会において肩書というのは重要な意味を持つ。

 「あら、ツードン様の方がおどきになってくださいませんの? 私は筆頭公爵家のナザント家の娘にして、第三王子であるナグナ様の婚約者でもありますのよ?」

 引いて嘗められることもいけないことだ。だからこそ、そういう言葉を返した。向こうは私を貶めようとしている。此処でおとなしく引き下がるのも得策ではない。周りに彼女より私が下だと認識される行動はすべきではない。そんなことをしてしまえばナザント家の立場が悪くなってしまう。学園とは思っていたよりも面倒な場所であった。

 ギネアラ・ツードンは正直、何を起こすのかわからない。それだけ危険な部分がある。それはルサーナたちに調べてもらってすぐに出てきた情報だ。彼女は典型的な貴族の令嬢で、平民を見下しきっている。そういう貴族は割といる。それは知っていたけれども、領民たちと共に過ごした記憶のある私からすれば、確かに身分さはあるけれど同じ人間であることは変わりはなく、そこまで見下す必要性はないと正直考えてしまう。

 私の言葉にツードン様は、こちらを睨みつけてきた。年が同じということもあって、ツードン様もナグナ様の婚約者候補であったのは確かなことだ。ただ王妃殿下とお母様が親友であり、お父様が国王陛下の覚えも良かったというその差で私がナグナ様の婚約者に収まった。そのことも、ツードン様が私を敵視する一つの理由であろう。

 まったくもって、正直面倒だなと思ってしまう。私はナグナ様の事を婚約者であるとはいってもこの数年ほとんどあっていないし、ナグナ様に対する感情というものはあまりない。ナグナ様は私を嫌っていて、それで近づくことを私は恐れて。それでいて私の事を知りもしない癖に決めつけるナグナ様に良い感情を今は特に抱いていない。

 それよりも私は目の前の事をどうにかしなければいけない。負けるわけにはいかないから、あまり睨みつけるなんてしたくはないけど、ツードン様と向き合う。

 

 結局どちらも引くことはなく、授業開始のチャイムがなるまで私とツードン様のにらみ合いは続いた。



 どこに居ても学園内では視線がこちらに向けられた。そして私の周りには沢山の人が集まっていた。私にそれだけの身分があるからこそ、寄ってくる人たち。そして私が『ナザント家の長女』として相応しい振る舞いをしなければきっと離れていくであろう人たちであると、そんな風にしか思えない自分も嫌だった。

 貴族とは打算的な付き合いばかりだ。ムナは私に友達ができればいいですね、といったけれど護衛の裏切りでお母様を殺されたのを見た私は人を信用するということが難しいのだろうと、ただそんな風に考える。

 学園にいるのは疲れる。

 それに加え、ツードン様は私を排除したいようだ。時々ナグナ様を追い回しているのも見かける。私とナグナ様が冷めた関係であるのを知って(というよりナグナ様が私を相変わらず睨んだりしていて)、勝ち誇ったような顔をしていた。最もナグナ様にも相手にはされていないようだけど。

 私の事が邪魔で仕方がないのはよくわかる。むしろツードン様はわかりやすいからこそ、少しはやりようがある。貴族社会の中では、相手に気づかれないように相手の懐に忍び込み、それでいて味方を装い相手を貶めるなんて事だってありふれている。

 ツードン様は私の悪評を流しているようだ。私がナグナ様と仲が良くない事を見て、それらしいことを流している。曰く私は性悪女であるだとか、ナグナ様に気づかれないように人を追い詰めていただとか。そういう噂だ。

 ただ私がナグナ様と仲が良くない事は知られていることで、それを信じているものも残念ながらいるようだが。でもまぁ、そのくらいなら対処方法はある。それに基本的に態度には気を付けているから、その噂が本当だと思わせないようにはしている。それでいて、噂をしかけてくるならこちらも噂で制するべきだろうと、別の噂を流して私の噂を薄れさせたりもしている。

 しかしまぁ、ツードン様はわかりやすい方だけど悪評を流したのがツードン様であると尻尾を出さないようにするのは非常にうまかった。どこからか噂が流れ出したかのように、信ぴょう性が出るようにそういう工夫をしているのだろう。

 その能力を人を貶めるためではなく、別のために使えばいいのにとは正直どうしても考えてしまう事であった。大貴族であるということは、裕福であり恵まれている。しかしその分その責任も、柵の多さも平民とはくらべものにもならない。貴族の言葉も、行動も重いものだ。

 私はため息がつきたくなるのを抑えながら、平然とした態度を保ちながら授業を受けるのであった。






 

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