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 アサギ兄様とはそれなりに仲良くなれたとは思う。アサギ兄様は流石クラウンド先生の弟子で、養子なだけあって有能な人だった。それに性格も好感が持てた。

 しばらくの間、アサギ兄様はナザント公爵家に居たわけだけど、王宮での仕事があると慌てて戻って行った。

 学園に通って王都に行けば、アサギ兄様ともちまちま会えるかもしれない。と、再会がいつになるかななどと考えた。

 冬がやってきた。

 私が学園に入るということで、クラウンド先生との授業ももうすぐ終わってしまう。最もクラウンド先生は私の家庭教師を終えた後は、王都で別の仕事があるらしいから、会えないというわけではない。でも、それでもお母様が亡くなってから、ずっと三年近く授業をしてくれたクラウンド先生の授業がなくなると思うとさびしいという感情がどうしてもわいてきた。

 学園に入る日は、迫ってきている。

 ウッカの事をおいて、お父様とも離れて、そうして学園に通わなければならない。ナザント領は少し王都から遠いから。王都にある別邸から学園へと通う。ギルもそういう感じだ。

 ずっと育ってきた場所。私の大好きなナザント領。

 そこから離れる――とはいっても休暇の時に帰宅することはできるけれども――、ことはさびしいと思う。

 それと同時に、学園生活への不安も大きい。

 お母様を殺害し、ウッカに毒を持った貴族。証拠がないから罰せられていない貴族。

 そのことが、恐ろしい。

 私の大切な人をまた狙われてしまったら、奪われてしまったら。そして私自身も、殺意を向けられる対象であるのだから気を抜けない。公爵家ないならまだしも、学園という外に行くのだ。より一層気を張る必要がある。

 常に緊張状態にあることは疲れることであるし、そういう状況でない方がいいに決まっているけれど、少なくとも黒幕の貴族の問題をどうにかできない限り、平穏とは言えない。

 それでも、恐ろしくても私は頑張らなければならない。

 大切なものを失わないために、奪われないために。

 「………あ、あの、エリザベス様、大丈夫ですか?」

 「……何がかしら」

 ムナの心配そうな声に、私は問いかける。顔に出ていたのだろうか。

 「少し、怖い顔していました。何か悩み事があるなら、私も、力になりますから」

 「ううん、大丈夫よ。少し学園生活が不安だっただけ。ムナ、貴方は学園についてきてもらうから、ごめんなさいね、クラリと離して」

 「いえ、大丈夫です。一生懸命、エリザベス様の手助けします」

 ムナは笑ってそう告げた。

 ムナがどういう心情でそういう事を言っているのか、私には正直わからない。

 私は『魔女』の一族を人質に取っている。居場所を与える限りに命令に従いなさいと無理強いをしている。

 『魔女』の一族の事を思って、私の命令を渋々聞いているという感じではない。むしろ喜んで聞いているように見えるのだけれども、ムナが私の事をどう思ってくれているかとかはさっぱりわからない。

 でもまぁ、やる気を出してくれているのならば問題はない。

 別邸に奴隷や孤児の子たちを連れて行くことはできるけれど、学園内まで連れて行けるのは数名程度だ。貴族の通う学園であるから使用人や護衛として連れ込むことは許されている

 連れて行くとしたらルサーナ、ウェン、ムナぐらいだろうか。前者二人は護衛のために、後者のムナは毒味係として。

 貴族のほとんどがそうして付き人を連れ込むことも考えると、学園にはそれだけ多くの人が集まるということになる。

 「学校でお友達ができるといいですね、エリザベス様」

 「お友達……? ええ、そうね」

 ムナの言葉に、一瞬言葉に詰まった。なぜならそういう純粋な友好関係は頭にあまりなかったからだ。利害関係で結ばれた友好関係しか想像はしていなかった。だけど、学園で本当の意味で、仲良くしたいと望む友達もできるのだろうか。

 もし、できるというのならばほしいと思う。できれば作りたいと思う。学園にはギルもいるけれども、同性の仲の良い貴族の友達もほしいと思う。

 お母様とタリア様のように、ああいう友情関係を結べる人が私にもできるだろうか。少なからず信頼があって、好きだから仲良くしているという関係。

 でもそういう人ができた時、私は素直にその関係を信じられるだろうか。ああ、どうして私はここまで臆病なのだろう。お母様の死という出来事をどこまでも引きずっていて、誰かが裏切ることをどうしても思い浮かべてしまう。それだけ、あの時の事は私の胸に刻まれていて、どうしようもないほど私を弱くする。

 叱咤する。心の中で。もっと強くありなさいと。そういう弱さを隠してでも、もっと自信を持って、前を向きなさいと。

 言い聞かせるように、自分に向かって心の中で告げた言葉。

 本当にダメだわ、もう三年。お母様がなくなって三年近く経過するのに、私はあの時の事を忘れていない。あの時の事に対する恐怖心と共に、もう二度と失いたくないという思いが湧き上がってくる。そう、そのためだけに、私は一心に学んでいる。

 「―――ムナ、学園生活の中で何が起こるかわからないけれど頼りにしているわ。私の力になって」

 「はい、エリザベス様!」

 学園生活はもうすぐはじまる。





 

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